第40話『瞬圧極滅剣』
過酷な戦場と化していた玉座の間の階段をヤマトとその部下が悠然とした調子で上がってきた。その様子をみたクシナダは、彼を叱責する。
「ヤマトッあなたは一体何をやっているの? 回復専門術士でしょっ傷ついた人たちを助けにいきなさいっ」
「お言葉ですが、クシナダ様。私の任務はあなたをお守りする事。お姫様の身が最優先です」
その言葉を聞いた戦姫は、躊躇いも無く、ヤマトの頬を平手打ちする。
「二度言わせないでっ行きなさい」
「・・・・承知いたしました。」
露骨に不快感を露にした瞳で、クシナダを見つめつつ、ヤマトは部下達にこの場に留まるよう告げ、階段を降りていった。
黒き尖兵長とゼント、スセリとの戦いは、かなり激しいものになっていた。尖兵長はレベル3のスセリを優先的に狙っていくが、彼女のおりょうの加護に攻撃を阻まれ、苦戦していた。その攻撃の隙を見逃さず、ゼントは木刀で尖兵長を殴りつけていた。渋く苦い痛みが尖兵長の影に残り始めたが、それでもまだ邪悪な存在は力が衰えることは無かった。スセリへの攻撃を諦め、ゼントに切りかかっていくと、今度はスセリは銃を乱射し、尖兵長を狙い撃ちにする。銃の威力は凄まじく、尖兵長の体を次々と貫く。
流石の尖兵長も怒りに燃えたのか、スセリを殺そうとゼントに背中を向けたが、その隙も、ゼントは見逃さない。彼は容赦なく木刀で尖兵長の背中を豪腕で叩き続けた。
「ぐ、この野郎共、この俺様を舐めやがってっ許さんぞっ」
黒き尖兵長は、巨躯の体を更に一段階膨らませ、自らの体を中心に、衝撃波を放ってきた。ゼントは対応することが出来ず、衝撃波に飛ばされ、玉座の壁に叩きつけられる。一方のスセリはおりょうの加護によって、その場に立ち尽くすことが出来た。
「これで終わりにしてやるぜよっ」
スセリは銃弾を装填し、再び、自らに向かってくる黒き尖兵長に銃を撃ち続ける。が、尖兵長も慣れたのか、銃弾を鉈で弾くようになってきていた。これには彼女もあせり、ひたすらにおりょうの加護で自らへの攻撃を守り続けることに徹することにした。
壁に叩き付けられたゼントだったが、直に体を起こし、今が勝負の時だと実感し、神器、十束剣にその手をかけた。剣を抜けば猛毒状態になるが、レベルは一気に100倍に跳ね上がる。あとは自分の体力が尽きるまでに尖兵長を倒せるかの問題。正直言えば、危険を侵しかねない行為である。だが、美剣士は黒き尖兵長を倒すための新たなる剣技を修行の末体得しており、今こそ、それを実践するべきときがきたと感じていた。
そしてゼントはゆっくりと十束剣を抜き、示現流大上段の構えを取り、その場に立ち尽くし、黒き尖兵長に向かって叫んだ。
「俺が相手だっ雑兵っ決着をつけてやる」
何度残撃を浴びせても破壊されることのないスセリの防御壁に業を煮やした尖兵長は、ゼントの方に顔だけ向け、彼を瞳を細め、睨みつける。
「いいだろう、なら、まずは貴様から死ね」
黒き尖兵長が狂気に満ちた表情で振り返り、右足を前に踏み出した瞬間、ゼントが長の視界から消えた。その出来事に驚いた尖兵長は、左右を確認したが、彼はどこにも見当たらない。
ゼントは猛毒状態のまま、完全に黒き尖兵長の背後、スセリの眼前を取っていた。そして、
「もらった! おお運命の女神よ、我がために勝利の哀歌を歌え! 行くぞ!示現流絶技・
ゼントが生み出した剣技、瞬圧極滅剣は、自らが大上段の構えを取っている状態で、対象の相手が足を踏み出した瞬間、彼の特殊な体質が目覚め、敵の背後を確実に取れるようになることを利用した剣技である。そしてゼントは玉座の間に猿叫を響かせ、生まれ持った圧倒的な豪腕で、神速の剣の乱舞で黒き尖兵長を切り刻んだ。その余りの速さに全く対応できない黒き影の長は、断末魔を上げ、そして煙となってその場から姿を消したのである。倒したような実感は剣士にはなかったが、確かに致命傷を与えた手ごたえを感じていた。
しかし猛毒状態だったため、彼はすぐに床に倒れ込んでしまう。すぐにスセリが機転を効かせて駆けつけ、彼の手にした剣を即座に鞘に収めると、ゼントに自らが手に入れた猛毒回復薬を飲ませた。
「ゼント、見事だ。よくやったぞ。」
スセリは自らの用心棒を褒め称えた。ヨウドウの介抱にあたっていたクシナダは、その余りにも速すぎるゼントの剣速のみを少し見ただけであったが、思わず息を飲んでいた。今の自分でも、あの残撃を全て完璧に回避するのは不可能であろうと。そして思った。ゼントという剣士とは、できれば戦いたくない、と。未だ敗北をしらない武の国の戦姫は、自らが初めて敗北をするかもしれない剣士の存在を、しっかりと脳裏にやきつけたのである。
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