第27話『軍鶏の味』

 スセリとムツ、おりょうは、来賓室で武の国名物軍鶏鍋を馳走になっていた。しかし味は薄く、肉は硬く、自分たちの口には合わない代物であった。ムツは渋い表情をしたが、スセリは表情に出さず、美味しそうに食べ続け、「これは絶品ですね」とリシャナダ王に告げた。それに対し、国王は大層満足した様子であった。その後、スセリは今、自らがガレリア王国のミネルバ州に都市を作りたいと考えている旨、そして今回はクシナダに武器を売りにきたことを伝えたのである。それを聞いたクシナダは瞳を輝かせ、スセリを凝視し、「それは本当でございますの?」と話しかける。


「ええ、本当ですよ、クシナダ姫。今回私が持ってきた武器は、きっとあなたにとって神器となりえるはずです」

「一体どんな物なの? 見せて、スセリビメ!!」

「落ち着け、クシナダ。はしたないぞ。まだ買うとは言ってないのだ」


 王のお叱りを受け、クシナダはしょんぼりとし、無言で軍鶏鍋や他の料理に口をつけ始めた。その様子を見たスセリは商機と見込む。

「それにしても、その若さで自らの街を作りたいとは、全くスセリビメの考えることは信じられませぬな」

「これが今の私の夢でございますから。ところでリシャナダ王。この軍鶏鍋という物。大層美味でございますな。出来れば私の作った街でも提供したいのですが、よろしいでしょうか」


 スセリの提案に、国王は快く応じた。


「構いませぬ。我が国の文化が他国に広がるのは素晴らしいことです。どうぞお好きになさってくださいませ」

「ありがとうございます」


 そしてリシャナダは、さっそく本題である武器の話を切り出す。スセリは箸を置き、さっそく脇においたリュックサックから首刈刀を取り出してみせた。それを見た国王とクシナダは瞳を丸くする。


「この武器は首刈刀と申しまして、刀が三日月状に歪曲しています。そのため、盾などを持った相手を貫通して攻撃する事が可能です。勿論、首を狩るのがお好きなクシナダ姫の嗜好に合うかと存じます。耐久力は無限でございまして、しかも、この武器には魔族特攻、怪物特攻、神特攻、獣特攻、精霊特攻という5つの魔綬がつけられている、まさに究極の武器にございますよ」


 スセリは自信たっぷりに自らの商材を宣伝して見せた。クシナダは顔を紅潮させ、少し握らせてくれないか? とスセリに頼み込む。スセリは柔和な笑みを浮かべ、戦姫に首刈刀を差し出した。武器を手にした瞬間、クシナダの体に電撃が走る。恐ろしくその手に馴染むその武器は、まるで前世のときから自らが使用していたような錯覚を味あわせたのである。


「凄い・・・・この武器、私の体に、凄く馴染むわ。これさえあれば、私は史上最強の戦士になれるっ」


 クシナダは大層興奮し、そう撒くしたてた。


「落ち着け、クシナダ。まだ買うとは言ってない。早くスセリビメにお返ししろ」

 

 リシャナダの叱責にも、クシナダは異を唱え、中々手放そうとしない。それを見たスセリは、「今晩一晩お貸し致しますよ。具体的な金銭交渉は明日に致しましょう」と申し出たのであった。それを聞いたムツが、小声で「お前何言ってんだっ」とスセリを止めようとするが、彼女は掌をムツの口に押し付けて、黙らせる。

 クシナダは大層嬉しそうな表情をして、その刀を懐に抱きよせるほどであった。リシャナダも、その様子を見て、その武器を購入することを真剣に検討していた。


「ではスセリビメ。具体的な金銭交渉は明日と致しましょう。あなたは国賓。ですが生憎我が城には国賓を迎え入れる設備が不十分なのです。本日は城下町に国賓用の高級宿屋を用意致しましたので、そちらにお泊りください。近衛軍のミヨシを護衛につけます」


「承知いたしました。私ももう少しこの国を見て回りたいと考えておりましたので、丁度よいお話です」


 お互いの利害が一致し、この場は一旦お開きとなった。ムツは城内の大臣達と交渉がしたかったので城で世話になると言い出したので、スセリはそれを了承した。そしてクシナダは立ち上がった彼女に近づき、話しかけようと思ったが、言葉が上手く出てこず、体をくねらせていた。


「クシナダ姫。あなたにとって、それは神器。今晩一晩共に過ごして、相性を確かめるとよろしいでしょう」

「えっええ、そうするわ。かっ感謝するわ、スセリビメ」


 少しつっけんどんに、クシナダは言葉を返してしまった。本音は全く違うのだが、人付き合いが苦手な彼女は、上手く自分の感情を表現することが出来ずにいた。


「おりょう! おまんもウチと一緒に宿屋に行くぞ」


 スセリの唐突な申し出に、おりょうは戸惑ったが、直に頷き、彼女の後へと着いていく事にする。そしてやってきたミヨシに連れられ、三人は来賓室を後にした。来賓室の外ではゼントが立っており、スセリと合流した。ミヨシと視線を交わしたゼントは、無言で三人の後方に陣取って歩き出す。


 城を出て馬車に乗り込み、スセリはミヨシから軍鶏のことを尋ねていた。


「元々は建国時にスサノオノミコト様が番の軍鶏を持ってきたことが始まりといわれております。我が国では闘鶏という文化もございますので、お時間に余裕があればご覧になっていかれたらよろしいかと」


「闘鶏も気になるが、ここだけの話、この国の軍鶏の味は独特だ。ガレリア人はもっと濃い味で、柔らかい肉を好む。ウチが少し改良してもよいか」


 幼少期より帝王学を学んできたスセリは、料理に関しても一定の知識と技術を持っていた。彼女の申し出に、他国を知らないミヨシはその国に合わせた味に変えた方がよいでしょうと告げ、そして、産卵したばかりの軍鶏の卵複数をスセリに手渡した。  

 

「国王から、スセリ様に手渡すよう言われました。お受け取り下さい。軍鶏の育て方については、宿屋で説明いたします」

「うむ、頼んだぞ、ミヨシ君」


 そしてスセリ達を乗せた馬車は、武の国ラズルシャーチが誇る高級宿、寺田屋に到着したのであった。

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