第26話『武の国のお姫様、クシナダ』

スセリ達はミヨシに連れられ、玉座の間に通された。ゼントは入り口横の壁に背を預け、そこから先へと進もうとはしない。スセリとムツ、おりょうの三人だけが、整列する武の国の兵士達の国家斉唱を聞きながら、玉座で待ち構えるリシャナダ王の眼前へと姿を晒し、そして傅いた。しかし、リシャナダは、二人に直に立ち上がるように命じ、二人は顔を上げ、ゆっくりと立ち上がる。そしてリシャナダ王も立ち上がり、スセリに手を差し伸べた。


「サラバナ王国第三公女のスセリビメ。我が国へようこそお越しくださいました。光栄でございます」

「こちらこそ、光栄にございます。」


 玉座の間では、未だに兵士達が国家を歌い続けている。


 おお幾星霜の滅びよ 弱き者は死ぬ定め

 生きたいならば戦いを 争うことには喜びを


 おお偉大なる武の国よ 生まれし者に誇りあれ

 おお偉大なる武の国よ 生まれし者に栄光を


 ああ我らの誇り ラズルシャーチ


 リシャナダは兵士達に謳うのを止めさせ、そして二人を来賓室へと通すように命じた。その一連の様子を、リシャナダ王の隣に座っていた武の国の戦姫、スセリと同い年のクシナダは玉座に座ったまま、無言で見つめ続けていた。スセリと同い年であるが、彼女はの体は既に成熟しており、美しく長く伸びた黒い髪と整った大人びた顔立ち、牡丹をあしらった和装のドレスに右太ももを露にした独特な衣装は、兵士達の羨望の的でもあった。

 スセリは来賓室に向かう途中、クシナダと視線を交錯させる。しかしスセリは笑顔を見せたが、彼女は表情を崩すことなく、少し頭を垂れる程度であった。クシナダは、入り口に佇む少年剣士に、強い警戒感を示していたのである。


 戦姫クシナダ。彼女は生まれつきレベルが常人には見えない。自分でも自分もレベルが解らない。このオフェイシスでは、あらゆる種族に付けられたレベルは特定の条件を満たすか、特殊体質などで一時的に上下することはあっても、基本的に生涯上昇することはない。しかもレベルが10万を超えると常人には視認できなくなってしまう。武の国ではクシナダの圧倒的な強さから、最低でも、そのレベルは100万以上はあると推測している。その生まれ持った圧倒的な強さから、民たちに慕われつつも、恐怖の対象となっており、他国との交流も少ないラズルシャーチでは、彼女は常に気心のしれた者もなく、孤立していた。そんな彼女は世界一の富裕国であるサラバナ王国の第三公女という圧倒的な権威を持つスセリビメと出会い、彼女なら私の友達になってくれるかしら、とひそかに考えたのである。


「・・・お父様。この私も、同席してもかまわなくて」

 

 突然、クシナダが、歩くリシャナダ王を呼び止める。その意図せぬ発言に驚きつつも、振り返った国王は、構わぬ、と告げた。王もまた、冷え込んでいるサラバナ王国との関係改善のため、クシナダとスセリビメに親交を持たせたいと考えていたのである。


「リシャナダ王。私の個人的な使いの者、おりょうも同席させて頂いてよろしいでしょうか」


 スセリもこの期に乗じて我侭を言い出す。リシャナダはおりょうを見て眉をしかめたが、構いませぬ、と告げた。クシナダは悠然と立ち上がると、遠くにいたゼントに、あなたも一緒にどうです? と持ちかけたが、剣士は遠慮する、と答えた。

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