第9話『文なし、コネなし、未来なしからの金策手段』
サラバナ王国領の小さな村にやってきたスセリ達は、そこの雑貨屋で最低限の食料を購入した。土地代1000億ジェル貯めないといけないにも関わらず、手持ちのお金は既に50万ジェルを切っていた。先行きに一抹の不安を覚えたムツはお姫様に街づくりのアイデアはあるのか? と尋ねる。
「勿論。ウチはカジノっちゅーもんを街に作るつもりぜよ」
「ほう。あのモナコ奇行録に書いてあったものかい?」
「うむ、短期間で街を急拡大させるには、それしか方法ないもんな。街の設計図や法律も事前に作っておいた。ほれ、これを・・・」
スセリはカバンから設計図を取り出した瞬間、とある違和感に気が付いた。1枚しか無いはずの設計図が、3枚に増えていたのである。
「おんや、このカバン、どうしてウチの設計図が増えてるんだ??」
「設計図が増える? どういうことだい」
「いや、ウチは一枚このカバンに入れておいた。食料は増えてないのに、紙だけが増えているんだ」
スセリはこのカバンの謎めいた仕様に戸惑いを隠しきれなかった。
「ひょっとしたら、このカバン、アイテム扱いの物を増やす効果があるのかもしれん。」
彼女の話を聞いたムツは、驚きの声を上げ、そしてこう告げた。
「ってことはさ、素材とか、そういうのも増えたりするのかな?」
「それは、試してみないとわからん。水や食料は増えてないから、多分増えるもんは限定されてるち思うぜよ」
スセリとムツが密かに盛り上がる中、ゼントは樹木に背を預け、二人の様子を眺めていた。
「ふふ、こうして何もしないでいるだけでも時間は過ぎていくし、報酬はもらえる。これだから用心棒は止められんな」
「むむむ」
「この人、顔はともかく、性格は最悪だな・・・」
「聴こえてるぞ、ムツ」
「はいっすみませ~んっ用心棒様!!」
「それでいい。で、そのカバンをどうするつもりだ?」
ゼントの問いかけに、スセリは思考をめぐらせた。が、有効な使い道を思いつくことが出来ない。何が増えて何が増えないのか、まずはそれを選別する必要があったのである。
「とりあえず、手持ちの金で安い武具と素材を買って、カバンに突っ込んでみよう。そうすれば何かわかるかもしれん」
スセリ達は色々な物品を購入し、カバンに詰め込んだ結果、増える物と増えない物が明らかになった。まず増える物は、カバンがアイテムとして認識しているものと素材である。そして増えないのは、水や食料、武器防具等である。つまりスセリの持っているこのカバンは、アイテムを無限増殖できるカバンだったのだ。
「このカバンを有効活用すれば、1000億ジェルも、案外夢じゃないかもね」
「うむ。そうだな、ムツ」
喜ぶ二人をよそ目に、ゼントは樹木に背を預け、腕組みしていた。
しかし、カバンの効果を試すために有り金を使い果たしてしまったため、暫く後、スセリ達は飢えに苦しむ事になった。まだサラバナ領地内を出ていない3人は、地図を頼りに森を彷徨う。
そんな中、ムツがスセリに気分が上向きになるポエムを披露してやるといってきたので、彼女はそれに応じた。
お母さん、天国は存在しないんだね
お母さん、生きるのって辛いんだね
お母さん、私はもう眠りたいよ
お母さん、お願いだからそのナイフを私に頂戴
「どうだい? 哲学的だろ?」
ムツの書いたポエムは、まるでこの世の全ての負を詰め込んだような陰鬱極まりない代物で、それを読んでしまったリョウマの心には、ゆるりと小さなナイフが刺さりこんだ。本人は哲学的だと自称するが、今の気落ちしたスセリの心を更に抉るには充分な代物だった。
「お、おう・・・確かに哲学っちゅー感じするけんど、ちと心が痛くなるっちゅーか、なんというか・・・」
「何だよ! あたしのポエムが不満なのかい!?」
「いや、そんなことはないぜよ」
「なら、また書けたら見せてやるよ」
「お、おう・・・」
カバンを使って色々試行錯誤するうちに、露天商から食料を購入する最低限のジェルも尽きてしまったスセリ達は、飢えに苦しんでいた。仮にも姫であり、顔も知られている自分がサラバナ領地内で商いをするわけにもいかないのである。とりあえずは、サラバナ王国領を脱出することが最優先だった。
スセリは今だかつて感じたことのないような絶望感を胸に抱いていた。何もかもがうまく行かない。こんなはずじゃなかった。一体この先どうすればよいのか? 少女は一人朽ちた木に座り、夕焼けを見上げ、少し瞳に涙を浮かべ、途方にくれていた。そんな彼女を発奮させようと、ムツは再び動くことにした。
「おい、リョウマ。またあたしが気分が上向きになるポエムでも書いてやろうか?」
「ん? ああ、頼むぜよ・・・今は麺類しか食べる気がせんきにのう」
そしてムツは意気揚々と気分の上がるポエムを一気に紙に書きとめ、落ち込むお姫様に見せてあげたのである。が、そのポエムを読んだスセリは、更に深く精神を揺さぶられてしまった。その内容は、以下である。
この世は地獄 生き地獄 世界の終わり 感じています
お金が無い コネがない 職がない 私の人生詰んでます
詰んで 詰んで 詰まれて 詰んで 詰み続けて眠るまで 詰んで
やがて 私は 墓場で骨になるでしょう
「ムツゥッ! おまん、ウチになんちゅーもん読ませるんだ!! ただでさえ気分落ちてるっちゅーがに、こんな夢も希望もない物を!! もう人生に本気で絶望してしもうたじゃないがかあっ!!」
ポエムの書かれた紙を地面に力強く叩きつけ、スセリはムツに激しくにじりよった。しかし、当のムツはそ知らぬ顔で口笛を吹きつつ、腕組みし、こう切り返してきたのである。
「馬鹿言うんじゃないよ、あんたが落ち込んでどうするリョウマ。あたし達の夢は、これしきのことで諦めれるほどの代物じゃないだろう?」
「・・・ムツ?」
「確かに、今のあたし達は絶望している。でも、覚悟して出てきたんだろ? きっと希望はどこかにあるはずだよ」
「一体どこにあるぜよ」
「・・・どこか」
このムツの全く夢も希望もない無責任な発言に対し、只でさえ少々短気になったスセリは、腹が空いていることもあり、更に怒りを爆発させ、彼女に文句を言ったのである。
「かーーーーっまったくおまんはっ本当にいつもいつもいつも、昔から口先だけのアテにならんやっちゃなぁっ」
「何を言う! 世界一の商人になるのも、土地を買うのも、街を作るのも、全部お前が決めた事だろうがっあたしの力をアテにするなよ。所詮あたしはあんたの御用聞き、外交官でしかないんだからな」
「ぐぬぬ・・・このベコノカワッ、開き直りおってからにっ」
スセリとムツは互いにしばしにらみ合い、そしてそっぽを向いた。完全に喧嘩状態である。
「二人とも、下らない争いはそこら辺にしておけ。煩くてかなわん。」
二人の愚かな戦いを冷えた眼差しで眺めていたゼントは、この窮地を乗り切るための策を一人練っていた。勿論、只ではない。上手い金策を考え、その提案を、スセリに破格で売りつける算段である。
「俺に一つ上手い金策のアテがある。が、情報は、別料金だ」
当然のように金を要求してくるゼントに、とうとうムツの堪忍袋の緒が切れた。
「おい、あんた。会ったときから金、金、金って、いい加減にしろよなっサラバナ人だって、流石にそこまで言わないぞっ」
「関係ない。俺とお前達は金で繋がってるだけの関係だろ? 払うのか? 払わないのか? どっちなんだ?」
地獄耳のゼントには、以前の二人のささいな会話も聞こえていたのである。
「おい、リョウマ。もうこんな奴の言う事を聞くのは止めようよ。絶対に損するって」
ムツはゼントを見限るよう提案したが、スセリはゼントを信用しようと思った。仮にも自らの命の恩人。しかも彼は強い。何か良い案を持っているかもしれないと考えたのである。
「幾らだ?」
「・・・100万ジェル」
「おい、あんたに払った月給じゃないかっ」
「成功すれば、これ以上の巨額の利益を出せる話だぞ。いいのか?」
ゼントの言葉に、スセリは悩んだが、今は手持ちの金が無い。何とか彼と交渉し、後払いにしてもらう事にし、美男子の剣士はそれを了承した。
「わかった。100万だな。その金策が成功したら払うきに」
「おいっリョウマ」
「ふふ、交渉成立だな」
「で・・・、その美味しい儲け話ってのは何なんだよっ」
「落ち着け。簡単だ。べヒーモスを狩って、肝を売ればいい」
「馬鹿なこと言うなっ。べヒーモスなんて化け物、部隊でも組まないと倒せないだろうっ」
ムツは口を尖らせ、ゼントに文句を言う。べヒーモスの肝は生きる宝石と呼ばれ、あらゆる素材に使用され、珍重されている世界でもっとも希少価値の高い素材である。それを入手する事ができれば、旅の助けになることは間違いない。しかし、世界一強い怪物で害獣と認知されており、恐ろしく凶暴であり、スセリとムツではとても太刀打ちできるような相手ではない。が、ゼントは違った。
「べヒーモスは、俺一人で狩る。部隊など、必要ない。だが俺は肝の取り方は知らないから、肝はお前達が上手く取れ。そしてその取った肝を、リョウマ、お前のカバンで増やせばいい。どうだ、簡単だろ?」
「うむ、それは簡単だ。じゃあ、さっそくべヒーモスを探そう」
「馬鹿なっあんたレベル高いけど、べヒーモスはレベルなんか関係ないんだぞ!? レベル100程度でも手に負えないぐらい強いんだったった一人じゃ、ラズルシャーチの人間でもない限り、あっさり殺されちまうよっ」
「心配するな、ムツ。ゼントを信じろ」
「そんなこと言われても」
「交渉成立だな。じゃあ、さっそく狩りに行くぞ。お前達は隠れてろ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます