第16話『足りない軍資金は投資で賄え!』

「なるほど・・・あのミネルバの土地を購入して街づくりですか。興味深い話ですね」

「じゃろ? そこでトットーネさんにも協力してもらいたいぜよ」


 トットーネの自宅の応接間にて、スセリと豪商は向かいに座って話をしていた。ゼントは家の中には入らず、外で見張りをしていた。


「しかしあの土地は昔は金や銀、ダイヤモンドも取れたそうですが、今は死地ですよ。あんな場所に街を作っても、整地作業だけで莫大な予算と時間がかかってしまいます。それにミネルバの領主はガレリアからの独立を画策していますし。他の商人達も二の足を踏んでいるのです」

「街作りのことなら問題ないぜよ。ドワーフの里に行って、秘密兵器を手に入れてきた」

「秘密兵器?」

「うむ。ネンドールっていう、何でも建築してくれる便利な人形だ。時間制限付きだが、これさえあれば最低限の街を短期間で作れるち思う」


 スセリがネンドールを手に入れたことに、トットーネは驚きの表情を見せた。一体どうやって入手したのか尋ねたが、スセリはニンマリとしてはぐらかしてみせた。そして止めと言わんばかりに、お姫様は自らが作成した都市の設計図と計画書、法律の書かれた書面をテーブルの前に置き、トットーネに見せ付けた。それを見た豪商は驚き、素晴らしいアイデアですね、と彼女を絶賛したのである。そしてスセリは話を本題に持って行く事にした。


「それでトットーネさん。物は相談なんだが、ウチの作る街に投資してみんか?」

「投資、ですか?」

「うむ。商いの基本は投資して回収だろ? ウチの街にトットーネさんは投資する。そして街が潤ったら、そこから利益をトットーネさんは得る。最終的には投資した金額よりも大きな金額がトットーネさんの元に帰ってくる、っちゅー寸法だ。どうだ? 悪い話じゃなかろう?」

 したり顔でそう語るスセリだったが、トットーネ自身は自らの仲間達である会号衆達の事を考えていた。


「ウチ一人で1000億ジェル稼ぐのは夢物語だ。現実的には6~700億が精一杯。だから、残り3~400億を誰かに投資してもらうことで賄おうと思うちょるぜよ。」

「なるほど、そういうことですか。他ならぬスセリビメの頼みなら、即答したいところですが、私達の仲間が何と言うか・・・」

「仲間って、会号衆っちゅーガレリア商会のトップの人たちのことか?」

「はい。私一人の一存では、それだけの大金を動かす事はできません。ここはスセリビメに他の会号衆達を説得してもらう必要があるでしょうな」

 

 トットーネは渋い表情で髭を触り続けつつ、そうスセリに語った。彼女はそれに対し、直に彼らに会わせて欲しいと頼み込んだ。トットーネはそれを了承し、そしてスセリは自らの素性は伏せた上で、後日他の会号衆達との商談に持ち込むことにしたのであった。

 こうしてスセリとトットーネの話し合いは、後日会号衆と会う、ということで着地する。


 そして自らの店に戻ってきたスセリとゼントは、ムツから珍妙な話を聞かされる事になった。


「おいスセリ、面白い魔道具カードを仕入れたぜ」

「魔道具? どういうもんだ?」

「白雪おじさん。処女の接吻を受けると、カードからおじさんが出現して、処女の用心棒になってくれるらしい。レベルはゼントさんより高く、5088だ」

「つまらんもんを仕入れるな、このベコノカワッウチは今からガレリア商会の重鎮達に会わないといけんのだぞっ?」

「ああ、ごめんごめん。ちぇっ、使えると思ったんだがな。とりあえず、一枚だけ店に飾っておくぜ」

「返品せいっ」


 流石のスセリも、会号衆相手に上手く話を纏められるか、不安になっていた。しかし、ここまで来たら、もうやるしかない。お姫様は決意し、まずは目先の金稼ぎに奔走する事にした。


 その一方で、スセリはガレリア王都から少し離れたところにある古城で不思議な刀が納められているという噂話を聞いた。ひょっとしたらその刀ならクシナダ姫も装備できるかもしれない、と彼女は思ったが、しかしその古城は罠の雨あられで何人もの冒険者が返り討ちに遭っているといういわくつきの場所でもあった。


 とりあえず、まずは会号衆を説得し、その後、スセリはゼントと共に古城へと向かう事に決めたのである。

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