第17話『お姫様のプレゼンテーション』
とある日の夜、自らの店の寝室で休んでいたスセリ達だったが、ムツが一人行灯をつけ、都市の設計図を手直ししていた。ムツは父である大臣と共にサラバナの都市開発に携わってきた経験がある。そんな彼女が、スセリの書いた設計図にメスを入れ、更に街の具体的な肖像絵も描いていた。
「ムツ、もう遅いぞ。はよ寝ろ」
「リョウマは寝てろ。この都市の設計図は、あたしが手直ししておく。このままじゃあ、会号衆達は納得しないと思うからな」
その後もムツは睡眠時間を削って、設計図の修正と、得意の絵心で街の完成想像絵を描いていた。
スセリがトットーネと再会してから2週間後、彼の計らいで、トットーネ宅の大食堂で会号衆との会談の機会が設けられた。集まったのはガレリアでも有数の農業家、カツラ・ガレリア、世界でも10本の指に入る富豪で不動産王のセゴドン、ガレリア1の建築士で幾つもの建設会社を経営するヴィランダ、そしてあらゆる武具製作に長けた職人達を指揮する鍛冶屋を営む武器商人グラバーであった。
彼らにはスセリの身元は伏せてあるが、サラバナ人と親交の深いカツラだけはごまかす事が出来なかった。スセリが現れた瞬間、彼は彼女が第三公女であることに気が付き、眉を潜めたのである。
さっそくスセリは長テーブルの正面に立ち、話し始めた。
「本日は私のためにお集まり頂き、真に有難うございます。私の名前はリョウマ・サイタニ、ミネルバ州の土地を購入し、街作りをしたいと考えている商人でございます」
スセリの自己紹介に、カツラとトットーネ以外の会号衆はざわつき始めた。あの不毛の土地を買うなんて正気じゃない。誰もがそう思っていたのだ。
しかしお姫様は挨拶もそこそこにさっそく自らが作成した都市開発計画書と、ムツが直した街の設計図と完成想像絵、法律などが書かれた書面を一同に見せた。それを閲覧した会号衆達は、驚く。
「私達はまだ小さな大人扱いの子供ですが、これでも商いの勉強はしているつもりです。この街作りに確かな手ごたえを感じています」
「手ごたえとは?」
「そこの都市開発計画書に記載されている、カジノという公営賭博場。これを、パパイヤン発展の起爆剤にしたいと考えています」
世界にも賭博場は沢山あるが、国が裏で許可を出している賭博場があるのはガレリアだけである。しかし、スセリが持ってきたカジノという代物はあまりにも未知すぎて、建築士のヴィランダが見ても内容がよく理解できなかった。
「これから私が作りたいと考えている街の理念は一つ、誰もが種族や身分の隔たりなく、平等に、自由に暮らせる、娯楽と商いに溢れた街であることです。しかしその街を作るためには資金がまだ足りません。そこで本日集まった会号衆の皆様に、ささやかながら投資を頂きたいと思い、このような場を設けさせて頂きました」
スセリが投資と口にした瞬間、会号衆の一人、セゴドンが口を挟んだ。
「投資するという事は、当然見返りがあるということでございますか?」
彼は、その子供ながらに卓越した話術から、彼女が只者では無いと気が付いていた。恐らくは彼女が噂のスセリビメなのではないか、と。
「勿論。商いの基本は投資して回収。土地を購入するのに必要な金額は1000億ジェル。その内600億ジェルはこちらで用意できる目処が立ちましたが、残りの街作りのための資金を含め、400億を皆さんに投資していただきたいのです。勿論、投資していただいた方には街の運営に関わる権利を差し上げ、街の利益から一定額を恒久的に定期的にお返しいたします。私は街作りが出来て得をする。皆さんは投資をして利益をもらうことが出来る。どうです? 良い話だと思いませんか?」
スセリの物言いに、会号衆は沈黙した。中には彼女に投資したいと考える者も現れた。しかし、カツラは違った。
「お話はわかりました。しかしリョウマ殿。本当にそのような街を築くことが可能なんですか? 何十年という大事業になりますよ?」
「私には秘密兵器があります。」
「一体なんです」
「ドワーフのお宝、ネンドールです。私はこれを、今現在、200体所持しています」
「ネンドールッ」
ネンドール。それはヴィランダが喉から手が出るほど欲しがっていた建築用の貴重な道具だった。しかし、カツラはそれでも食い下がる。
「私は農業を生業としている人間です。不毛の地と呼ばれるあの土地では作物は育たず、私にとっては美味しい話ではない。商売にもなりません。その辺はどのようにお考えですか?」
スセリは事前にカツラがそのような質問をしてくることを想定し、回答を用意していた。
「それに関しては、世界樹の苗木を使い、湖を人工的に作り出そうと考えています。その方が船で運べるので、輸送効率も良くなりますでしょう。」
「世界樹の苗木? 本当にそんなものを持っているのですか」
プリンセスは床に置いた小さめのリュックサックから、世界樹の苗木を取り出し、テーブルに置いて見せた。会号衆の一同が瞠目する中、スセリは話を続ける。
「投資をしていただいた方には各地区の代表として、街の運営に関わる権利を差し上げます。それによって、あなた方は、必ずや、多大なる利益を享受することが出来ますよ」
「なるほど・・・よくわかりましたよ、スセリビメ」
カツラはニヤリと笑い、彼女の本名を口にした。
「おや。バレてましたか、カツラさん」
「スセリビメ?! 彼女がですか」
「・・・はい、私がスセリビメ・・・です、ぜよ。でも今は国外を出ている身の上。私のことはリョウマ・サイタニと呼んでいただきたいですね」
グラバーが驚き、立ち上がると、スセリの愛くるしい顔を覗き込み、握手を求めてきた。
スセリビメの言う事なら信用出来る。そう考えた会号衆達は5人で合計約400億、彼女が600億用意でき次第、投資をすることを約束したのであった。
「それにしても、何故上限金額が400億なのでしょう? 我々が組めば、もっと出せるはずですが?」
交渉が終わり、スセリ達が引き上げた頃、ヴェランダはトットーネにそう尋ねた。その答えは明瞭だった。
「それは勿論、スセリビメの街にしたいからですよ。投資を受けた時点で、我々にも街の運営に口を出す権利が与えられるのですから。」
「つまり、街を自分の絶対的影響下に置きたいというわけですか。まだ子供なのに、スセリビメは恐ろしいお方ですね」
「ええ、彼女は間違いなく切れ者の商人ですよ。私が育てた逸材ですから」
トットーネは既に出来ていた笑いジワを益々色濃くして、ヴィランダに見せつけた。スセリの目覚しいまでの成長は、彼にとっても自慢の一つであった。
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