第18話『ガレリア古城の魔王級』
トットーネ達との会合から数日経たぬうちに、スセリはゼントを連れてガレリア王都の外れにあるという古城へと馬で向かった。流浪と話をし、強い武器を手に入れたら魔綬を付けてもうらうように約束し、ムツに店を任せる事にした。
王都の住民の話では、その古城には魔王級と呼ばれる怪物が宝を守っているという噂がある。魔王級というのは、レベルが5万以上ある怪物の総称で、他の高レベルの種族たちよりも知性があり、中には人語を理解し、中央世界で共通語になりつつあるジャスタール語を喋る怪物もいる。獰猛で、人を積極的に襲うため、恐れられているのだ。もしそのような怪物がこれから行く古城に存在した場合、スセリの考えていることは勇気ある撤退であった。しかし用心棒のゼントは戦う事を強く望んでいる節がみられた。より強き者と交戦することで、流浪の強さに近づける。若き絶世の美男子の剣士はそのように考えていた。
「なあゼント、何でおまんはそんな高額な用心棒代を請求するんだ? 見たところ、おまん全然金使ってないみたいじゃないがか」
「そんなこと、お前には関係ないだろう」
スセリの何気ない質問に、彼女を後ろに乗せて馬を駆けるゼントは無作法に応じた。
「なんじゃい! 会話が終わってしまったじゃないがか、このケチンボ!」
彼女は完璧超人のように思われるが、その実意外と短気で、激情に身を任せやすい傾向がある。勿論当人もそれは熟知しており、普段は自重しているが、今はふいに素が出てしまった。
「そんな話より、自分の命の心配のことだけ考えろ。あの城は、かなりやばい匂いがするぞ」
獣道に近い森の山道の遠くから見える古城は、ゼントの心を高ぶらせ、そして警戒させていた。あの城から漂うとてつもなく邪悪な殺意。自分ひとりならともかく、スセリを守りながら行くのは危険なのではないか? そんなことを考えながら、それでも自らを職務を全うしようと剣士は考えていた。
そして二人は古城の城門前にたどり着き、馬を樹木に縄でくくりつけると、さっそく城内に入ることにした。
入り口の門を潜った瞬間、スセリは蛇のような怪物に斬りつけられた。とっさにゼントが剣を受け、事なきを得る。そしてそのまま彼が怪物を切り伏せた。スセリは銃に手を取っていたが、間に合わなかった。はっきりと、自らの命の終わりを感じた彼女は、少しだけ恐怖に捕らわれた。
「怖いか?」
「・・・ああ、唐突だったので、ちょいとな」
「待ち伏せしてたらしい。この古城では、こんな事は日常茶飯事だろう。リョウマ、俺から離れるな。常に後ろにいろ」
ゼントは抜き身の状態で、古城の一階を歩き始めた。スセリは銃を両手に持ちつつ剣士の後を追う。
一階の階段の隅に宝箱が置かれていた。この中央世界の洞窟や遺跡、古城内の宝箱の中身は全て無作為による自動生成である。中身が固定されている宝も存在するが、約9割は何が出るかはわからない。一度開けると一定期間を経て復活するため、冒険者や商人達は何度も同じ洞窟やダンジョンを潜るのである。
スセリは願いを込めて宝箱を開いた。出てきたのは、猛毒を回復する薬だった。これは彼女がまだ手にしたことのない物だったため、素直に喜んだが、ゼントは軽く舌打ちした後「ゴミだな」と吐き捨てた。スセリは猛毒回復薬をリュックサックに入れて、再びゼントの後ろを歩いていく。
二階は細い通路に天井に吊るされた釜が幾つも振り子のように揺れていた。触れれば当然即死である。
「こげなもん、一体どうやって突破したらええんだ?」
「くだらん、俺に任せろ」
そう言うと、ゼントは木刀を抜き、飛び上がると、光の速さで罠の鎖を次々と断ち切っていった。その華麗なる動きに、スセリは賛辞の言葉を送ったが、ゼントは「行くぞ」とだけ言って、細い通路を渡っていった。
三階には蛇頭の敵が犇いていた。それらの敵はゼントが切り伏せ、スセリは銃で応戦していった。難なく三階を突破し、最上階と目される四階へとたどり着いた。
四階には赤い絨毯が敷かれており、その奥には大きな宝箱があった。しかし、その前には皮膚が石化したサイクロプスが、巨大な鈍器を持って待ち構えている。そのレベルは58929。どう考えても二人にとっては圧倒的に戦力差の大きい相手だった。しかしゼントは動じない。
戦闘が始まると、美男子の剣士は、剣を抜いてサイクロプスに突撃していき、敵の一撃を華麗に交わすと、強力な腕力を持って敵の鈍器を切り刻んでみせた。武器を失った敵は一瞬狼狽する。
「今だっリョウマっ瞳を銃で撃ちぬけ!!」
「了解ぜよっ」
弾をカバンで増やしつつ、日々銃の練習をしていたスセリはリボルバー式の拳銃で狙いを定め、サイクロプスの瞳目掛けて発砲した。その銃弾は敵の瞳を撃ち抜き、一つ瞳の巨人は両手で瞳を押える。
「これで、終わりだっ」
そして地面に降り立ったゼントは一旦剣を収め、自らの剣技を披露した。
「食らえ、
ゼントの剣技は、無外流の居合いの技だ。石のように硬い表皮をしたサイクロプスであっても、体の接合部は柔らかい。ゼントはそこを狙ってサイクロプスに一撃を見舞ったのである。そして敵の体は腹部と腰の接合されたくびれから粉砕され、上半身から崩れ落ちていったのであった。
「やったぞゼント! おまんホント強い奴だな」
「レベルの多寡では勝負は決まらん、ということだ。お前も生き残りたいなら肝に銘じておけよ」
「おうっ」
と、そのときであった。サイクロプスが死ぬと発動する罠がこのフロアには仕掛けられていたのだ。宝箱のある奥の壁から矢が大量に発射されたのである。ゼントはとっさに抜群の反射神経でほぼ全ての矢を木刀で弾き落としたが、その内の一本が、後方にいたスセリの左ひざに突き刺さった。あまりの痛みに、スセリは絶叫する。
「リョウマッ」
ゼントは血相を変えてスセリに駆け寄り、彼女の膝に刺さった矢を引き抜こうとした。
「いいか、抜くぞ?」
「あ、ああ・・・やっちくり・・・」
勢いよく引き抜かれた弓矢は、スセリの膝に激しい痛みを与えたが、彼女はもう声をあげず、必死に耐えた。
「大丈夫か?」
「ああ、ウチは無事だ。ムツに治して貰うきにのう。ありがとな、ゼント。そんなことより、お宝ぜよっ」
返事もそこそこに、スセリは足を引きずりながら、豪華な装飾の施された宝箱にたどり着き、そして想いを込めて開いた。中に入っていたのは、刀身が三日月状に歪曲した刀だった。
「何じゃこれ? これが神器」
スセリが手に入れた武器は首刈り刀という名の特殊な武器である。敵の首を狩りやすく、そして盾による防御を貫通する性能を持っている。
「おお、この武器、耐久力無限だぞっ。これなら魔綬を沢山かけても耐久力が落ちることは無さそうだ、う・・・膝が痛いぜよ」
素直に全身で喜びを表現するスセリに対し、ゼントは表情を変えることなく、「任務完了」とだけ呟き、上手く歩けない彼女に背中を貸し、そして二人は古城を出て行った。
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