第15話『魔綬と石で大儲け??』
ガレリア王国は帝国だった500年前、ミネルバ王国を滅ぼし、自らの領土とした過去がある。現在ミネルバ州に住んでいるガレリア人達は、自分たちをミネルバ人だと認識しており、ガレリアからの独立を強く望んでいる。しかし、かつては金、銀、ダイヤモンドが取れたミネルバも、現在は採石事業しかまともな経済がない状態で、独立したら、貧困国に落ちるのは火を見るよりも明らかだ。
ガレリア側は深刻な財政事情から、既にミネルバ州を見放し、新たな経済を生み出し国家を潤すため、ミネルバ州の中にある無人の緩衝地帯を売りに出した。それに反発しているのが、ミネルバ領主の喋る動物ことパクパクと、ミネルバ戦隊ドクリツジャーの構成員達である。しかし彼らは今のところ表立った動きはしていない。順調にミネルバ独立計画を練っている真最中だった。
そんな中、歴史の古いガレリアはもう一つの難題を抱えていた。地国の薄暗い歴史から、魔族達に目をつけられ、定期的に王都を襲撃されているのである。おかげで多くの国民が不安の多い生活を送っていたが、その反面、倒壊した建物を修復する土木業者は潤うという皮肉が起きていた。今のこのご時世、大工は貴重な存在で、高給取りである。ガレリア国王シュンガクは頭を悩ませていた。王都を復興しても、また魔族達に破壊されるのでは、たまったものではない。修繕費用も馬鹿にならない状態である。国王が懊悩している最中、スセリ・サラバナはガレリア王都中心街に戻ってきた。
そしてスセリとムツはガレリア城に赴き、国王と謁見したのである。スセリは自らの身分を明かし、土地を購入したい旨を国王のシュンガクに申し伝えた。
スセリが狙っているミネルバ州の土地は、武の国ラズルシャーチも軍事拠点目的で購入を検討していた。当初交渉が順調に進んでいたが、ガレリア側が武の国に魔族との戦争への参加を求めたところ、武の国の王、リシャナダが拒絶したため、結果的に交渉は決裂となった経緯がある。
「スセリビメ・・・あなたはミネルバ州の事情をご存知でしょうか?」
「事前に学んでおります。複雑な民族問題を抱えているようですね」
「おっしゃる通りです。ミネルバは、今から500年ほど前、当時帝国だったガレリアが攻め落とし、領土化した独立国家だったのです。今回売りに出している広大な死地は、その500年前の戦争中から自然環境が厳しく、緩衝地帯となっていた無人の地域で、国家のために何とか利用する目的で売りに出したのです。ですが、ラズルシャーチは軍事拠点にしようとするし、他にまともな買い手が全く現れず、困っていたところなんですよ」
「ならば国費を使って、街を作れば宜しいのでは?」
「生憎、今、ガレリア王国は深刻な財政難に陥っています。魔族との戦争で、国費を使いすぎ、広大な国家を維持することも難しい状態なのです」
「では、このまま行ったら、財政破綻するかもしれない、と?」
「そのような事態を防ぐため、外貨を稼ぎ、新たな経済を産み出してもらうための苦肉の策なのですよ」
「・・・ではもし私が土地を購入し、街を興し発展させた場合、私達は、原則ガレリア王国の法律に従う立場になり、税金もキチンと支払う、ということですね」
「ええ、その通りです。ですが、ミネルバ州の民は、未だに自らをミネルバ人だと考え、ぐうたら領主は経済も軍も政も碌に行おうとせず、食べて寝て起きて享楽に耽る、動物のような暮しをしています。ミネルバの民は苦しんでいると聞いています。そのくせ非常に野心だけは強い男で、ガレリアからの独立を常に画策しているんです。不用意に街を興したら、直にあらゆる問題が山積され、大層お困りになるでしょう。今あの土地を購入すると、最悪ガレリアとミネルバとの内戦に巻き込まれる可能性があります。会号衆達もそれが怖くて手を出せないのです。他国も商人達も、破格にも関わらず、決して手を出そうとしない状態なのですよ・・・」
「国王、仰りたいことは大体理解しました。その上で、もう一度申し上げます。私は、既にあの土地を購入することを、決めております。その為の資金も現在捻出している最中です。あらゆる問題が起こることも想定しています。もしミネルバ領主が何か言ってきたなら、直接お会いして、様々な事を交渉しなくてはならなくなることも承知の上。それでも私は、あの土地を購入し、世界でもっとも幸福に包まれた都市にしたいと考えております。」
「左様ですか。スセリビメがそこまでおっしゃるのなら、1000億ジェル用意していただけるのなら、ぜひお売り致しましょう。」
「ありがとうございますっぜひ私が購入予定であることを、あらゆる者達にお伝え頂ければと存じます」
シュンガクはスセリの要望を聞き入れ、彼女の言うとおり、土地を他の者達に売らないように取り計らった。
「この国は、ウチの希望ぜよ」
国王との謁見が終わり、王都中心街の喫茶店のテラス席で清清しい空気を吸っていたスセリは背筋を大きく伸ばして、笑ってみせた。ムツも笑顔だったが、ゼントは無表情でコーヒーを口にし、「この国のコーヒーは不味い」、と毒づく。
「なあリョウマ。ガレリア王都には魔道具の巨大なセリ市場があるんだって。そこで良さげな魔道具を買って、増やして売りまくろうよ」
クロワッサンを頬張りながら、ムツがスセリに新しい金儲けの算段を練り、彼女に提案してきた。
「魔道具って、使うと魔力消耗するんじゃろ? そんなに大量に売れるがか?」
「豪華な装飾が施されてたりする物なら、調度品目的で買っていく富豪が後を絶たないのさ」
「ふ~ん、そうか。でもウチはイマイチ乗り気にならんな」
「そんなこと言ってどうするんだよ。1000億ジェルだぞ、1000億。とてもじゃないが、ポンと出せる金額じゃあないよ。普通にやってたら、一生かかっても貯まらないって」
「わかっちょる。商いもキッチリするが、ウチにも計画があるきに。まずはガレリアの大臣に、正式に商いの許可を貰おう」
「それならあたしが行ってきてくるよ。あんたは少し休んでな。ここの喫茶店で待ってろよ」
そう言うと、ムツは一人でガレリア城へと向かっていった。ガレリアの大臣達はムツの顔と名前を知っている。そのため、交渉事も円滑に進むと彼女は考えたのである。
一方のスセリも無鉄砲に国を飛び出したわけではない。ガレリアはサラバナ等と比べると商取引に対する税が安い。そのため、世界でも有力な商人は、皆ガレリア王国に集まっている。特にガレリアの商いを牛耳るガレリア商会、通称会号衆は、スセリにとっても絶対に接触しておきたい相手だった。その為には、商会の頂点に立つトットーネ・ヒロフミと会わないといけなかった。彼は元々はサラバナ王国有数の素材商人で、今は世界でも知らぬ者は多くないほどの大物である。幼い頃、スセリはトットーネから経済学の教育を受けていた過去があった。
まずは、このガレリア王都のどこかにいるトットーネさんと再会すること。それがスセリの目標であった。
それから暫くして、ムツが笑顔でスセリ達のもとに戻ってきた。手には商売許可証を持っている。スセリはムツに感謝し、そしてさっそくガレリアでの商いの計画を始めた。
「なあ流浪のオッサン、おまん魔綬使えるじゃろ。適当な武器に効果的な魔綬をつけてくれ。そうすれば高く売れるきに」
スセリの申し出に、流浪は一旦は首を縦に振らなかった。なんでも、魔綬は耐久力が無限の武器に付与しないと壊れやすくなってしまうらしいのだ。それを聞いたスセリだったが、一方も引かず、ドワーフ産の武器に魔綬をつけて欲しいと流浪に頼み込んだ。渋々流浪も了承し、さっそく魔綬をかけ始めた。
魔綬には沢山の種類がある。怪物に有効な怪物特攻、魔族に有効な魔族特攻、神に有効な神特攻などがある。一般的には全ての生物は神属性に対する弱点があるので、神特攻の付いた武器が一番高値で取引されている。多くの商人たちは無限に増殖する宝のある世界中の洞窟や遺跡を漁り、貴重な魔綬の付いた武具を手に入れて売っているのだ。
さっそくスセリは中心街の隅に小さな店を賃貸で借り入れ、そこで商いを始めた。ムツにカバンで増やした不思議な石に初歩の回復魔法を封印してもらい、それも増やして売っていた。この世界の全ての生物は魔力を有しているが、実際に魔法が使えるものは少ない。しかし、この石を使えば簡単に回復魔法を使用することが出来るのだ。回復魔法の入った石は、そのモノ珍しさから、一つ20万ジェルで売れた。魔綬のついたドワーフ産の武器は、一本100万ジェルという超高額で取引されたのである。評判が評判を呼び、スセリの店は大繁盛した。彼女の手に入れたドワーフ産の魔綬付きの武具や初級回復魔法の封印された不思議な石は、その珍しさから僅か4週間で100億ジェルもの純利益を叩きだしたのである。そしてそれと同時進行で、スセリは店をムツに任せ、ゼントを連れてトットーネの居場所を住民に聞いて回っていた。
途中、スセリは住民から妙な噂話を聞いた。武の国ラズルシャーチの姫、クシナダに装備可能な武器を持ってきた者には500億ジェル払うというものであった。もしそれが本当なら、これ以上の儲け話は無い。しかし人類最強の呼び声も高いクシナダは、その火力に常に武器が持たずに負けてしまうという。彼女が装備可能な武器は耐久力が無限で、尚且つ多くの魔綬がついたものが好ましい。魔綬は流浪にやってもらうとして、問題は耐久力無限の武器である。
この世界の遺跡や洞窟などにある宝箱は、マナの影響で一度開いても直に自動生成され、何度でも取得する事が可能である。再取得する場合、ある程度宝を開ける物の幸運に依存する。ガレリア王都から少し離れたところに無人の古城があり、その最上階にて耐久力無限の武器が取れることがあるらしいことを住民たちの情報から知ったスセリは、後日その場所に向かってみようと思い立った。
トットーネの店は王都城門のすぐ近くにあった。他にも幾つか店を経営しているらしいが、本人が常にいるのはスセリ達が見つけた場所らしい。
「どうやらトットーネさん。ここにおるらしいな」
「行くぞ、リョウマ」
ゼントとスセリは互いに視線を合わせて頷くと、店の中に入っていった。
店内には貴重な素材と武具が山のように陳列されていた。店番を任されていたのは部下の者だった。さっそくスセリはトットーネに会いに来た旨を店番の者に伝えたが、取り合ってもらえなかった。トットーネさんはお忙しい方だから、よくわからない人物に会わせて時間を取らせるわけにはいかない、というのが男の言い分だ。
やむ終えず、スセリは「サラバナから知恵者が来た」と言ってくれと店員に伝えた。
店員は応じ、渋々店内の奥へと入っていった。すると直に罵声が響き、恰幅のよい男が大急ぎで店のカウンターにやってきた。
「スセリビメ!!」
「トットーネさん、元気だったか」
「ええ、元気ですよ。商売も順調です。家出された、という噂は本当だったのですね」
「えへへ・・・もうばれちょるがか。今はリョウマ・サイタニっちゅー変名で活動しちょるきにのう」
スセリは幼少期からトットーネに経済学の勉強を教えてもらっていた。二人は懇意の間柄である。トットーネはスセリの人柄を信用し、彼女もまたトットーネの人格を評価していた。そして再会した二人は、さっそく奥の広間ではなく、豪商の自宅で話をすることになった。
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