第21話『人斬りゼント』
ゼントの心の奥底には、どす黒い深遠があった。少し昔、異世界の幕末に行き、京という街で沢山の人間を刺客として暗殺してきた少年は、今、誰よりも、もう人だけは殺したくない気持ちで一杯だったのだ。
「リョウマ、金を出せ。殺しは、・・・非常に、高くつく」
リョウマは、涙を流し、震える手でジェルの入った小袋を少年剣士に手渡した。
「・・・お前達、死ぬ覚悟は出来ているか?」
「ああん、なめんじゃねぇぞ、クソガキが。ぶっ殺してやる」
「そうか・・・ならいい。お前ら全員、ここで・・・斬る」
そうつぶやくと、ゼントは剣を下に構え、自らに襲い掛かるボーン・コレクター達を次々と真剣で、一太刀で切り伏せていった。決して苦しまぬよう、全て頸部を狙っての剣捌きだった。
「貴様、まさかラズルシャーチの人間か?!」
首の出血を抑えつつ、賊の一人が絶叫する。だが、既に凍りついた瞳をしていたゼントに、聞く耳はない。
「関係ない。愚か者達よ、せめて安らかに散れ・・・食らえ、地獄の
ゼントの生まれ持った神速と豪腕から来る、激しくも、どこか儚く美しい剣の乱舞によって、あっという間に賊達は切り刻まれ、周囲は鮮血で染まり、スセリは呆然とその凄惨極まりない光景を見ているばかりだった。初めて、人が死ぬところを見てしまった。彼女の心にも、またぼんやりとした、墨が落ちる。だがまだそれは鮮やかで、一切の濁りのない光り輝く墨でいられたのは、スセリの生まれ持った魂の紅の輝きによるものだった。
「ぜ・・・ゼント・・・・おまん・・・」
「何も言うな・・・全ての咎は、俺が引き受ける。」
「こっ殺す必要・・・ないじゃろうがっ」
「・・・俺が斬らなかったら、お前が斬られていたんだぞ?」
「・・・そっそれもそうだな、ゼント。」
ゼントはスセリに死体をカバンに隠すよう指示した。言われた通り、彼女は奇跡の箱を取り出し、冷たくなった死体を詰め込み、リュックサックに仕舞い込む。
「憲兵が来ると不味い、さっさとずらかるぞっ」
ゼントに言われた通り、二人は人込みに紛れ、闇に潜るように街の中に溶け込んでいった。
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