第20話『ボーン・コレクター』

ピッシーと出会ってから数日程経過し、スセリは彼に至高の便箋で手紙を送ったが、返信は来なかった。その事を、彼女はガレリア王都内にある自分の店の中で残念がっていた。


「それなら直接会いに行ってみたらいいんじゃない? 家知ってるんだろう」


 スセリから骨鬼族と会ったことを聞いていたムツは、スセリの背中を押してくる。彼女の言うとおりだ、と考えたスセリは、ゼントを連れて闇街にあるというピッシーの家に出かけることにした。


 言われた通りの道順を進み、少し古びて、壁には苔や蔦が無数に絡まっている家の表札には、ピッシーと世界の共通言語になりつつあるジャスタール言語で書かれていた。

 さっそくスセリは家の扉をノックするが、返事は無い。悪いとは思いつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開けてみると、ワンルームのほぼ収納器具しかない寂れた家の真ん中では、頭部と一部の骨だけになっていたピッシーの姿があった。驚いたスセリは、直に駆け寄り、彼の亡骸を確認する。骨はまだ温かく、部屋の周囲には剣で付いたと思われる傷がいくつも存在していた。どうやら賊に入られ、ピッシーは襲われたようである。  


「一体誰じゃっ誰がピッシーを殺したっ!」


 怒り狂ったスセリは銃を抜き、直に部屋を飛び出していこうとしたが、その場にいたゼントに止められる。


「落ち着け、リョウマ。この無数の剣の跡、察するに、複数人の相手に襲われた証拠だ。しかも相当戦いなれてる相手だと思われる。ひょっとしたら、ボーン・コレクターの仕業かもしれない」

「ボーン・コレクター? 何だそれは?」

「金だ・・・」


 スセリは情報料を求めるゼントに素直に応じた。小額だったが、金額を改めず、ゼントは話の続きを話し始めた。


「サラバナの中には、骨鬼族の骨を求めて、彼らの国に不法侵入し、民を襲って攫ったり、殺している奴らがいるという。それがボーン・コレクターだ」

「そげなもん、ウチは知らんぞ」

「王族のお前が知らないのも無理はない。なんと言っても、非合法の悪徳極まりない裏社会の連中だからな。旅をしていたとき、俺も骨を大量に抱えた連中と出くわしたことがあるが、大体5、6人で群れを作って仕事をしている。どいつもこいつも腕に覚えのありそうな連中ばかりだ」


 それを聞いたスセリは、小柄な体格を生かして、両手を手を広げていたゼントの脇をすり抜けるように家を飛び出して行ってしまった。


「リョウマ、待てっ!」


 ゼントは直に後を追いかけたが、群衆に紛れた彼女を見失ってしまった。


「ピッシー・・・辛かったろう、痛かったろう、無念じゃったろう。済まぬ・・・ウチ、守ってやれんかったな。待ってろ、敵は取ってやるきになっ」


 その内に激しい感情を秘めていたスセリは、怒りに任せ、王都内を駆け抜けた。既にボーン・コレクター達は闇商人と人気のない場所などで取引をしているかもしれない。そう考えた彼女は、裏路地を中心に探索を続け、そして背中に大量の白い骨の入ったカバンを下げている男達を通りで発見した。

 あれがゼントの言っていたボーン・コレクターかもしれない。スセリは慎重に後を付けていく。そして彼らは裏路地に入り込み、怪しい風貌の男たちと取引を始めた。


「へへへ、あのチビの女商人のおかげで骨鬼族の居所を掴めたぜ」

「収穫ですねぇ」

「ああ、何でもピッシーとかいう名前らしいぜ、笑えるな」

「俺達にとっちゃ、名前なんてどうでもいいぜ。ただの金になる骨だ」

「ああ、そうだな。今夜は祝杯だ」


 その話を聞いたスセリの体内に、内に秘めた血が暴走を始める。彼女の両頬に、ほんの僅かな間だが、古ぼけた小さな未知の文字が浮かび上がり、そしてレベルが3から3万に上昇したのである。勿論、本人に自覚はない。


 スセリは直に裏路地に入り、ボーン・コレクター達に躊躇いなく銃を発射した。その内の一つの銃弾が、ボーンコレクターの一人の膝を貫いた。撃たれた賊は悲鳴をあげ、膝を押さえ、地面を転がりまわる。


「おい、どうした。」

「一体なんだっ」


 ボーン・コレクター達5人は、直に背中の剣を抜き、正面にいたスセリを視認した。


「おい、あのチビ、レベル3万もあるぞ?」


「確か3の雑魚じゃなかったか」


 平均レベル5000のコレクター達は戦々恐々としていたが、当の本人は、痛がる賊にピッシーの姿を重ね、戦意を喪失し、瞳からは涙を流し、そして両頬の奇妙な文字は消えうせ、元のレベル3に戻ってしまい、足から震えが来てしまっていた。


「なんだ? あのチビ、今度はレベル3に戻ったぜ?」

「何かの病気じゃないのか?」

「もういい。見られたからには、殺るしかねぇぞ」


 結束した残りのボーン・コレクター達4人は、剣を持って、地面に座り込んで涙を流すスセリに、慎重ににじり寄って来ていた。

 ああ、自分もまた、ピッシーのところに行くのか・・・自らの死を悟った少女は、悲しみに暮れる。そして一人のコレクターが襲い掛かり、彼女目掛けて剣を振り下ろして来た瞬間、突然現れたゼントが、その剣を自らの剣で受けてみせた。


「何だとっ」

「・・・ゼント・・・」


 剣をなぎ払われたボーンコレクターは、直に警戒し、後ろに下がった。全員の平均レベルは5000を超えている。レベル1923のゼントよりも格上の相手達である。しかし、少年の心には一切の脅えは存在しなかった。 

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