第38話『サラバナ建国祭』

 サラバナ王国では、年に一回、武の国ラズルシャーチを行き来する定期船が出向する。その船はラズルシャーチの港に到着に、沢山の護衛達に囲まれた戦姫クシナダは、豪華客船に乗り込んだ。建国祭に出席することを誓った彼女は、王の反対を押し切り、武の国史上初めてサラバナの土を踏む王族となる。

 スセリ達が銀行業を始めて2ヶ月が経過した頃、サラバナ王国の建国祭が目前に迫っていた。流浪に貰った杖はまだ使用できる。ガレリア国王にも、土地の代金1000億ジェルを手渡した。後のスセリ達に残されている事は、実際の街作りの準備作業であった。

 スセリは建国祭に帰国するつもりは一切なかった。クシナダとは会いたいが、それ以上に父上と会うのが苦痛であった。サラバナ王家の人間は、旅に出ていても、建国祭には必ず出席するよう義務付けられている。しかし、サラバナの歴史上、初めて、スセリはそれを破ろうとしていた。ムツは必死に帰るべきだと説得したが、彼女は首を縦に振らなかった。


「全く、どうしたんだよ、リョウマ。流石にそんなことしたら、国王に何されるかわからんぜ」

「何も糞も、もうされたわ。トットーネさんに因縁つけて、ウチの邪魔をしよった。あんな父上とは、会いたくないんだっ」

「そうは言っても、王族の義務だぜ。一日だけでもいいから顔だけでも見せろよ。骨鬼族の話もしなきゃいけないだろう?」


 ムツの口にした骨鬼族という言葉に、スセリはピッシーのことを思い出し、彼の無念を晴らすためには、行かねばならないかもしれない。父上に、言うべき事を言わなくては、と思うに至った。


 そんな時、スセリ達の銀行に、サラバナの外交官を名乗る者がやってきた。そして無言で書状をスセリに渡してくる。その内容は、建国祭に出席するように、とのものだった。


「クシナダ姫も来ているだろうし、行こうぜ。スセリ。まだ杖は使えるだろう。」

「うむ・・・そうだな。少し身なりを整えて、行こうぜよ」


 こうして、スセリ達はサラバナの建国祭に出席することを決断した。


 時は前後して、既にサラバナ王国の大地を踏みしめていたクシナダ姫は、国民達の歓迎パレードを受け、その後、サラバナ王家の者達と共に、世界樹や、王都の様子、行われている民達のトマト祭りなどを視察していた。そしてスセリがまだ来ていない事に、不安を覚えていた。

 

「書状は出しておきました。スセリビメは必ずいらっしゃいますよ、クシナダ姫」


 サラバナ王家の要人が、落ち込んだ様子の戦姫に声をかける。彼女が王国に到着したときの第一声は、「スセリはもう来ている?」だった。


 王城内では厳重な警備が敷かれていたが、その地下の一室に、怪しい影達が続々と現れ始める。それは、ラズルシャーチでスセリを襲った黒き尖兵達であった。その中には、ゼントの命を絶ったと信じている長もいた。


「皆の者、サラバナ王家の人間を、とりあえず皆殺しにしろ。国王の首は、俺が取る」


 ゼントを襲った、もっとも図体のでかい黒き尖兵長は、一斉に配下の者達に指示を飛ばす。


 サラバナ城の来賓室に案内され、何ともいえない微妙な空気に意識を集中させていたクシナダは、かつて感じた邪悪な気配を察知し、徐に立ち上がった。


「・・・いるわ」


 彼女の言葉の真意を理解できないサラバナの取り巻きたちは、彼女に椅子に座るよう促す。しかし、クシナダは言う事を聞かない。直に神器、首刈り刀を取り出し、一人取りまきを強引に押しのけて、部屋を出て行ってしまう。後を追うように、近衛総隊長のヤマトとその部下数名も部屋を出て行った。

 

 スセリ達4人がサラバナ城にやってきたのは、まさにそのときであった。

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