第12話『ドワーフの里の危機』
馬車に乗っている最中、スセリは都市の独自の法律を書面に書き記す作業をしていた。ムツはこれから自分たちが創ろうとしている街の名前がパパイヤンだと知り、かっこ悪い名前だと、少しニヤついていた。
「ええじゃないがか。なんとなく多幸感あるじゃろ?」
「まあ、そりゃそうだけどよ。でもパパイヤンって。もっと他にかっこいい名前は思いつかなかったのかい?」
「ウチは閃きで生きる女ぜよ。これ以外は、ない」
そう馬車内で言い切るスセリに、ムツは嫌みったらしい笑みを浮かべてみせた。すると、突然馬車内に流浪がやってきたので、一同は驚く事になる。
「おい、オッサンッ一体どうやってここに!?」
「お前達が余を置いていくから着いてきたのであろうが」
「何か用があったら笛で知らせる言ったじゃろに」
「いや、この先のドワーフの里では、何やら不穏な気配がする。余もいかねばならぬと思ってな」
不穏な気配。それを聞いたスセリは息を飲み込んだ。ゼントは流浪を警戒し、睨みつけている。ムツはこれからドワーフの里で起こりそうな事態を想像し、思案を重ねていた。
「ゼント、お主にこれをくれてやろう」
流浪は懐から木刀を取り出すと、ゼントに手渡した。その木刀には不思議な力が込められていた。
「無闇に殺生をするものではない。これを持って、剣はいざというときの為に抜け」
「・・・承知した」
「それからスセリ、お主の得物を見せてみろ」
流浪に言われた通り、スセリは自らの銃を大男に手渡した。すると、流浪は銃にも不思議な力を込め、彼女に返した。
「一体何したんだ」
「魔綬をつけてやった」
「魔綬だって!!?」
魔綬。それは既にこの世界に失われていると言われてる、あやゆる無機物、有機物を超強化する伝説の秘術である。この中央世界を含めたあらゆる異世界に存在する各種族毎に特攻術が用意されており、全てを極めた究極の魔綬師は伝説の勇者と呼ばれ、究極の特攻魔法、ドラガリオンを使うことを許されている。一般的には魔綬を使用できるのは女神の祝福を受けたものだけとされているのであるが、何故か流浪は使用することができた。
教科書でしか魔綬の知識を学んだ事が無いムツも、確かにスセリの銃に不思議な力が宿っているのを感じていた。
「流浪さん、何であんたが魔綬なんて使えるんだよ」
「それはお主の知る必要のないことだ」
流浪はニヤリと笑いながらムツを軽くいなした。
たどり着いたドワーフの里は、鉄の臭いがする鉱山都市だった。土と石造りのレンガが連なる豪華な住宅が並ぶ、彩り鮮やかな美しい街並みだった。馬車から降りたスセリは、弾んだような調子で里の入り口へと走ってゆく。しかし、門番に直に呼び止められてしまう。
「済まぬ、旅の方。ここは通せない」
「ウチは商人だ。ドワーフの族長にお話があってきたぜよ」
「悪いが、今、ドワーフの里は深刻な問題を抱えている。族長は、それどころではない」
「深刻な問題?」
スセリは首を捻り、兵士にお伺いを立ててみることにした。
「一体何が起こってるんだ」
「これは、私達の問題。商人には関係のない話だ。早々に立ち去れ」
一方的に突っぱねる門番の兵士に、スセリは必死に食らいつく。とりあえずの安堵は、言葉が通じることだけであった。
「そういわずに、その問題、ウチらなら解決できるっちゅーたら、どうする?」
「問題を、解決? 馬鹿なことを言うな。敵は悪魔、魍魎の類だ。とてもお前達の手に負える相手ではない」
ドワーフの里は、どうやら何か凶悪な種族に襲われて大変な状態らしいことを察知したスセリは、後方にいたゼントを引っ張り出し、兵士に突きつけた。
「問題は、こいつが解決してくれるぜよ」
「おい、リョウマ。お前、何を言っている?」
流石のゼントもこれには面食らったようである。しかし、彼女はゼントにこの難題を押し付ける気満々だった。
「駄目だ。その剣士はレベル1923あるが、相手はそれよりも桁違いの怪物ぞろいだ。とても一人の手に負える相手ではない」
ドワーフはレベルが極端に低い代わりに魔力が高く、不思議な道具を沢山作りだせるが、魔法の類は一切使えない。レベル11のドワーフ兵は、泣き言にも近い言葉を漏らし続ける。それに業を煮やした流浪が前に出て、余を見ろ、と凄んできた。
「! れっレベルが見えない・・・一体どういうことだ」
「そのドワーフの問題。ワシらが解決してやろう。族長に会わせるがよい」
流浪の言葉を聞いた兵士は、とたんにへっぴり腰になり、そそくさと開門し、ドワーフの里への入り口を開いた。
「ありがとな、流浪のオッサン」
「気にするな。だが余は何もせぬぞ。後はお主らだけで何とかしてみせよ」
「勿論!!」
スセリは握りこぶしを作り、ムツとゼントの手を取ってドワーフの里へと入っていった。
ドワーフの族長、スルタンは、邸宅の円卓で他の部族の長達と親密な話し合いを重ねていた。そこにスセリ達がやってきた。
「スルタン殿、客人です」
スセリを連れた兵士が、ドワーフの族長に話しかける。黄土色のローブを身に纏い、胡坐をかいているスルタンは、スセリ達を見るたびため息を吐いた。
「彼女らでは、手に負えない」
「ウチの名前はリョウマぜよ。街づくりをしようと思ってここに来たんだが、ドワーフの里が大変ということで、問題を解決に来たんだ」
スセリはニンマリと好感度の高い笑みを浮かべてスルタンに親しげに迫る。しかし、族長は渋い表情だった。
「街づくり・・・旅の者、お前達、事の重大さを分かってない。ドワーフの里の最大の危機、これは窮地」
「一体何が起こってるぜよ?」
「レベル3のお前に話しても仕方ない」
スルタンはスセリのレベルを見て一笑に付した。人間の平均レベルよりも低い少女に、このドワーフが抱える深刻な問題を解決できるわけがない、と思い込んでいたのである。
「ウチがやるわけじゃない。やるのはウチの用心棒だっ」
「用心棒」
スルタンはスセリの隣に立っていたゼントのレベルを確認した。レベル1923。確かに恐ろしく高いが、それでも里を襲う悪魔共には足元にも及ばないと族長は言ってのけた。
「一体その悪魔っちゅーのは何者なんだ?」
「ある日突然、里にやって来た猫の女獣人族の7人組の盗賊団、里のお宝、沢山奪っていった。夕焼けにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん団。」
盗賊団の名前を聞いたムツは、思わず聞き返した。
「夕焼け、何ですって?」
「夕焼けにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃんにゃん団だ。奴ら、凄く強い。一番弱い奴でレベル7、強い奴でレベル77777ある7人組。全員自分たちが7番目に強いと確信している。とても我々の敵う相手ではない。勿論、お前達も敵わない」
「そんなの、やってみないとわからんだろうが」
スセリは少し声を荒げ、そしてウチラに任せろと、スルタンを説き伏せた。それを聞いたスルタンは、ならば行くだけ言ってみればよいと返した。
「問題を解決したら、ウチらの相談事を聞いてくれるか?」
「構わない」
「よし、決まりぜよ。いくぞ、おまんら」
スセリは振り返り、女獣人族の盗賊団のアジトへ向かおうとした。しかし、居所が解らなかったため、ムツが族長に尋ねた。
「奴ら、賃貸の住宅にいる」
「は? 賃貸の住宅? 盗賊といえばアジトを持ってるだろうに」
「あいつら強い。でも、やってること、よくわからない」
話が見えないムツは、不穏な気配を感じ、とりあえず頑張ろうな、と、スセリを鼓舞した。そして兵士から盗賊団の住んでいる住宅の場所を尋ね、一同は猫の獣人族の住まう住居に向かうことにした。
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