第11話『ムツですが、空気が最悪です』
気が付くと、スセリ達はガレリア王国の王都の市場に瞬間移動していた。突然現れたスセリ達に、住民達は驚きもせず、彼女達を邪魔者扱いして通り過ぎていく。圧倒的な人ごみの中で、スセリ達は少し唖然としてしまった。しかし王都は魔族の襲撃によって崩落している建物が多数あり、荒れ果てている状態だった。一部の建築技術者が総動員で市街地の復旧作業をしていたが、それも間に合わないといった様子である。そんな中でも、王国民は懸命に生きていた。
「凄い、本当に凄いぞこの杖。あっという間にガレリア王都に着いてしもうたっ」
「これで使用できる回数はあと5回だ。慎重に使えよ、スセリ」
「おう、ありがとな、流浪のオッサン。よーし、ここなら行商人として、活躍できるきにのう」
気持ちを発奮させるスセリに水を指すように、ムツが彼女に土地を買った後の具体的な計画の事を持ち出してきた。
「少し気が早いかもしれないんだけどさ、土地を買えても、それで終わりじゃないだろ? 建物を建てたりする資金や資材、人材が必要になるぜ。一体どうするつもりだよ、リョウマ」
「うむ、やはり、まずはドワーフの里に賭けてみるしかないだろうな」
「ドワーフの里か・・・・あいつら言葉通じるのか?」
「わからん。でも、ガレリアにあるといわれるドワーフの里に行くんだ。そこに行って、街づくりのことを話して、彼らに協力を仰ごうち思うちょるぜよ。ひょっとしたら、ネンドールのこと、何か知ってるかもしれないしな」
「そう上手く行くかな」
「上手く行かせるのがウチラの仕事ぜよ」
スセリの無茶苦茶な理論に、ムツは頭を悩ませた。同時に、このギスギスした人間関係にも苦痛を感じ始めていた。むさ苦しい髭面で強面の流浪、ビジネスライクな金の亡者の美剣士ゼント、守護霊の影響で、いまいち腹の底が探りきれなくなったスセリ。ムツの懊悩は続く。
さっそくスセリは王都の市場へ出向き、無許可でひっそりと行商を始めたが、誰も彼女の目の前に立ち止まる事は無かった。それもそのはず。剣を持った剣士と、むさ苦しい強面の大男が彼女の傍に突っ立っている状態では、客は怖くて立ち寄れない。
「流浪のオッサンのせいで、皆怖がって近寄ってこないぜよ」
「それは済まぬな、スセリよ」
「リョウマと呼んでくれ」
「うむ。スセリよ。では余は一旦雲隠れする。何か問題が起こったら、この笛を吹くが良い。」
そう言うと、流浪はスセリに竹で作られた細い笛を渡し、人ごみの中に消えていった。その姿を見つつ、ゼントは流浪との邂逅の事を思い返していた。初めて二人が出会ったとき、流浪は確かに少年にこう言った。
「サラバナは、世界で許されざる大罪を犯している。王族など、皆殺しにしても構わない」
「突然、何を言い出す? 貴様、何者だっ」
「・・・お前に、頼みがある」
「貴様の頼みを聞く義理は無いっ」
「そう言うな。まずは見せしめに、サラバナ王国の第三公女、スセリ・サラバナを、暗殺、してほしいのだ」
「なっなんだと・・・」
「勿論、報酬は前金で払ってやる。100億ジェル。お金が必要なのだろう?」
「・・・お断りだ。俺は用心棒で、殺しからは足を洗った。貴様のような奴からは、そんな仕事は受けんっ」
「そう言うな。とりあえず、金はやる。お前の腹の内を探ってみたいしな。では、頼んだぞ、ゼントよ」
「貴様、何故俺の名前をっ」
「ふっふっふっ。あまり余を侮るでないぞ、小童」
そのときの会話はあまりにも衝撃的で、ゼントもスセリの顔を見やりつつ、少し陰鬱な表情をしていた。ところが、王都の女性達は、ゼントの容姿に大層興味を持ち、客は女性ばかりがやってきた。皆がゼントに声をかけてくる。それが彼には非常に苦痛だった。
兵士の目を掻い潜ったスセリの初めての商いは上手く行き、その日だけで実に2000万ジェルもの大金を稼ぐことが出来た。ムツも喜び、スセリの頭を撫でる。そしてゼントはその美しい顔を隠すように口元に黒い面具をつけ始めていた。
「どうした、ゼントさん。顔なんか隠して」
「女が鬱陶しいからだ」
「おまん、女嫌いなんか?」
「まあな。そんなことより、報酬を寄越せ。そしてさっさとドワーフの里に行くぞ」
「うむ、そうだな」
さっそくスセリはゼントに売り上げから100万ジェルを渡し、ガレリア王国の地図を購入。ドワーフの里の場所を確認した。王都から里までは、3日ほど馬車に乗れば行ける距離にあった。さっそく三人は、ドワーフの里へと向かう事にした。
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