第41話『父との決別』

 サラバナ城襲撃事件から数日が経過し、スセリ達はミヨシを王家の来賓扱いで使いに出し、王都に存在する魔機械地区の機械商から、カジノの機械を作動させるためのあらゆる部品を調達させていた。部品を買い込み、城に戻ってきたミヨシから、スセリ達は大量の魔機械部品を受け取った。あとはスセリのアイテムが無限増殖するカバンで、部品を増やしていくだけである。


 父、ヨウドウはスセリと謁見し、この度の娘と仲間達の活躍を褒め称え、クシナダ姫にはサラバナ王家の名誉勲章を授与した。スセリは父にガレリアでの一件を話し、トットーネへの免罪を強く求めた。ヨウドウはそれに応じ、トットーネと会号衆達はサラバナ王国の監視下から逃れることになった。


 そしてスセリは、国王に、内に秘めた想いを吐露したのである。


「・・・もう一つだけ、私から、お願いがあります」

「なんだ? 我が娘よ」

「・・・骨鬼族の国に侵攻するのを、ボーンコレクター達を・・止めてください。それは、重大なる過ちです」


 国王の眉尻が上がった。


「どこでそれを知った、スセリ?」

「・・・・旅をして、知りました。父上、お願いです。国のことを想うなら、人として、国家として、正しい行いをしてください」


 スセリの必死の訴えを、ヨウドウは鼻で笑った。隣でその二人の緊迫感溢れる様子を見ていたクシナダは、自らとの父親との関係を思い出し、陰鬱な心もちになっていた。


「所詮子供だな、お前は。わが国にとっては、既に貴重な財源だ。承服できん」

「命を、金に代えるなんて、絶対に間違っていますっ」

「国家の利益が最優先だ。貴様も王族ならば、国益の事だけを真剣に考えろっ」

「自分たちの利益のために、罪のない種族を虐殺することが、国益にかなうというのですか? そんなのは、間違ってますっ」

「国益に間違いも何もない。それに、骨鬼族の骨は、あらゆる疫病に対する免疫を劇的に高め、病気を緩和する効果があることが明らかになっている」


 ヨウドウの威圧的な物言いに、スセリは沈黙せざるをえなかった。


「このような世界情勢の中では、彼らの骨は必要不可欠なものだ。世界中の未知の病気に苦しむ人たちが、骨で作られる薬を強く望んでいる。全ては世界全体の益の為だ。くだらん情に流されるな、この未熟者っ大人になれっ」

「・・・未熟者で、結構ですっ私には到底理解できません・・・・もっと他の方法を、模索するべきです」


 ピッシーのことを思い出し、少し瞳を潤ませていたスセリを、ヨウドウは不快感を露にし、そして嘲るように笑った。


「・・・気分を害したぞ、スセリよ。今回の一件には感謝するが、早くガレリアに戻って街を興してみるがいい。そういえば、まだ何もしてなかったかな、貴様に出来るのか? はっはっはっ」

「・・・超えてみせます」

「超える? 何をだ」

「いつの日か、・・・・かならず、サラバナを、超えるような、世界でもっとも幸福な街、富に溢れた街を作って、父上を、この国を、超えてみせますっ」


 スセリは溢れ出そうな涙を押し殺し、真摯な表情でそう父親に訴えた。傍にいたゼントも、ムツも、ミヨシも、クシナダも、それぞれ想う事がありつつも、沈黙を貫いていた。


「ふん・・・ならば、そのようにするがいい。どうせ挫折して、帰国してくるのが関の山だ。泣きべそかいて戻ってくるのを待っているぞ、スセリよ」


 実の娘を見下すようにそう告げる国王に、クシナダは少し怒りを感じていたが、スセリが立ち上がり、丁寧に一礼をしたため、彼女も、他の者達も皆立ち上がり、ヨウドウに頭を下げた。そしてスセリは顔を上げ、一言、強い口調でこう述べた。


「・・・失礼、致します。これを、今生の別れと思っていただきたい」

「それは構わぬが、賊等に捕らえられたら、ちゃんと戻ってくるんだぞ、我が娘よ。ああ、それと建国祭のときにも帰って来い。王族の義務だからな。ふふふ」


 怒り。悲しみ。深い失望。自らは父親という圧倒的な存在、世界一の富裕国の王族、という檻の中にいる。人として分かり合えない父親。そして、どうしようもない世界の現実。スセリの心の中は、あらゆる負の感情と、激情、喪失で満たされていた。そして誓った。この溢れる怒りを力に代え、必ず、自らの力と、集めた仲間達の力で、パパイヤンを世界一の街、いや、都市にしてみせる、と。


「スセリ・・・負けないでね」


 玉座の間を後にした少女に、クシナダが優しく声をかける。スセリは笑顔で振り返り、「おう、またな、クシナダ。手紙書くから、文通しような」と言った。クシナダも笑顔を見せ「手紙、待ってる」と告げた。


 そしてスセリと仲間達は、建国祭を見届け後、ガレリア王国へと戻っていった。

 

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