最終話『パパイヤン開拓記念日』

 ガレリア国王、シュンガク公と謁見したスセリは、土地の購入を切り出す。シュンガク公はそれを承認し、晴れて彼女はミネルバ州の土地を手に入れることになった。

 王都の自らの銀行に戻ってきたスセリを、ムツ、ゼント、ミヨシ、そして会号衆達が待ち構えていた。トットーネがいの一番にかけつけ、「スセリ様。私達は決めました。今後の活動拠点をあなたの街に移します。」と伝えた。スセリは頭をかきつつ、「それは嬉しいな、これからよろしくな、トットーネさん。」と、彼と握手をした。その光景を見たゼント以外の一同は、手を叩いて祝福した。


 そしてスセリ達4人は、自らが購入したミネルバ州の土地にやってくる。そこは非常に広大であったが、岩石が多く、まずは整地作業から始めないといけない状況であった。


「まいったね。ここに来るまでに、べヒーモスに5回も襲われたよ。これじゃあ、住民達が安心して街に来れないかも」


 早速泣き言を言い始めるムツを、スセリは慰める。


「いいじゃないか。ミヨシ君、ゼント、街に来たい人たちが通れるような安全な導線を確保してくれ。」


 ミヨシは「承知しました」と敬礼し、ゼントもそれを受け入れた。


 ムツは岩石を見つめ、それが珪岩であることに気づく。


「おい、リョウマ。この岩、そのまま街作りの資材に利用できそうだせ」


「ホントか、ムツ。」


「ああ、こいつは石の家や建物を作るには適した石だ。これだけの岩があれば、当面は、特に資材を運んでくる必要もないだろうよ」


 ムツの言葉に、スセリは喜びを爆発させる。そして、さっそく増殖したネンドールたちをカバンから出し、街の設計図を見せて、建設作業に取り掛からせた。


「とりあえず、まずは目玉のカジノからだな。そして宿屋に、居住区。それから富裕層用の地区とか、リョウマが考えたような街を作っていこうぜ。政治もしないといけないしな」

「ああ、そうだな。会号衆達が居住希望者を集めてくれる言っておった。ウチらは街作りに専念しようぜよ。」


 ネンドールたちが建設を始める様子を見ていた二人の下に、六人の猫科の女獣人族たちがやってきた。


「やっと着いた」

「ここがあたい達の理想郷だね。」

「一体どんな街ができるんだい」

「とにかく遊ぼう」

「一番7番目に強いのはあたしだよ」

「おいハンバーグ、あたし達を住まわせてくれよ」


 六人がかりで捲くし立ててくる、彼女たちを、スセリは全く覚えておらず、「おまんら、誰だ」と呆けた表情で口走った。それに衝撃を受けた獣人族達は泣き出してしまう。


「おい、リョウマ。こいつらドワーフ里で暴れてた弱い盗賊団だよ」

「ああ、そか。おまんら、この街出来たら住んでくれるがか」


「勿論。こう見えても、あたし達は歌と踊りが出来る。劇場を作ってくれれば、毎日のように演目を披露してあげるよ」


 と、一人の猫科の女獣人族が言った。


「劇場か・・・それは考えたことがなかったな。面白いな。なら、それも作ろう。でも、もう悪いことはするなよ」

「勿論だよ。さあ、開拓記念日だ! 歌おう、踊ろう!!」


 猫科の女獣人族達は決起し、陽気に踊り、歌い始め、ネンドール達を鼓舞し始めた。その美声と踊りはとても優雅で、少し荒んでいたスセリとムツの心を大いに和ませた。


「やったな、リョウマ」

「なに、ウチは何もしておらん。皆に出会い、助けられたおかげだ。これからもよろしくな、ムツ」

「こちらこそ、ムツ」

 二人の盟友の仲睦まじい様子を、スセリの中にいた守護霊の坂本龍馬が優しく見つめていた。


 ミヨシと共に歩いていたゼントは、一つだけ生きていて良かったことを理解していた。それは、スセリと巡りあえたことだった。口に出すのは恥ずかしかったので彼女には言わないが、剣士はこれからも彼女の傍にいようと決めていた。 


 それから約三年の時がたち、スセリ達の街、パパイヤンは世界でも唯一のカジノのある都市として、大いに発展を遂げていた。2年に渡り、街の基礎工事や道路整備、区画整備、建物建築に大量に稼動していた200体のネンドール達の燃料が切れた後は、サラバナの富裕層とガレリア王国、更に武の国の弱き者達が集まり、母国で都市開発経験がある大臣の娘、ムツの指導の下、積極的に開発に関わっていった。そしてパパイヤンはもはや街を越え、完全に都市としての規模に急速に拡大していた。

 その間にも様々な問題が起き、スセリ達を悩ませたが、彼女の独創的な発想とゼントとミヨシの武力、ムツの巧みな外交術と政治力、回復術で次々と解決していった。街の発展が軌道に乗り始めた頃、スセリとゼントは二人で広大なガレリア王国を旅し、あらゆる洞窟や遺跡を巡り、お宝を発掘していくことにする。その間のパパイヤンの運営は、ムツと会号衆達が中心となって行った。

 

 約一年ほどかけて一通りの宝を手に入れたところで、スセリとゼントはパパイヤンに戻るため、徒歩でモントーヤ州の街道を歩いていたが、流石にまだまだ遠すぎる、ということで、二人は立ち止まり、馬車が通り過ぎるのを待つことにした。


 そして二人の前に、まるで運命のように幌つきの高級馬車がやって来る。


「おい、ゼント、馬車だ。あの馬車に乗せてもらおう」 

「本当に上手く行くのか? リョウマ」

「心配するな、ウチに任せろ」


 スセリは元気一杯に、「おーいぜよ、おーいぜよ」と声を上げて、馬車を呼び止めることに成功したのであった。その偶然の出会いが、彼女の運命、ひいては、この世界の命運をも大きく変えるものになるとは、15歳になったばかりのお姫様でも、完全に予想外であった。

 

 それから始める、運命の旅。リョウマ・サイタニことスセリ・サラバナの街作りと大冒険は、まだまだ始まったばかりなのである。



悪役令嬢だけがレベルアップ出来るRPGに続く

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リョウマちゃんの遺伝子 伊可乃万 @arete3589

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