第6話『リョウマの決意』

 守護霊が憑いておかしくなってしまったスセリの状態を心配したムツは、彼女の部屋を頻繁に訪れていた。しかし、スセリは自らの事を「ウチのことはリョウマと呼んでくれ」とよく解らないことを言う。ムツは狼狽した。そしてスセリは、二言目には「ウチは決意した。この国を出て、自分の理想の街を作るぜよ」と彼女に話すのである。その姫の発言を聞いた侍女は、国王のヨウドウ公に告げ口したのだが、王は眉一つ動かさず、寧ろそのときが来たのだな、と解釈した。

 サラバナ王国では、王族は若い頃、無一文で諸国漫遊、放浪の旅に出させる、という古い風習がある。それは第三公女であるスセリビメも例外ではない。通常は15歳になってからその旨を告げられ、一年ほど世界を旅させるのであるが、スセリは今すぐ行きたいと願っていた。スセリはその風習があることは当然知っている。だが、今すぐ旅に出たいとは父に告げていなかった。

 

 さっそくヨウドウ公は、スセリビメの命を救った剣士、ゼント・ナムジを王宮に呼び寄せ、謁見することにした。べヒーモスを一人で討伐するほどの熟練の剣士。さぞかし腕のいい男なのであろうとヨウドウは考えた。国王は挨拶代わりに、彼に国の王宮騎士団に入らないかと勧めたが、ゼントはそれを固辞した。勿論、彼が異を唱えてくる事は織り込み済である。大臣は、ゼントの国王に対する不遜な態度に苦言を述べたが、彼は異に介さず、こう告げた。


「所詮俺は金を稼ぐ、ただの用心棒にすぎない。他の者をあたっていただきたい」


 玉座でそれを聞いたヨウドウ公は、ゼントにとある提案をした。


「そなたは用心棒なのか? なら、何故娘を助けてくれた?」

「報酬は、貰ったからだ」

「ほう・・・なるほどな。では、報酬さえ払えば、これからもスセリを守ってくれるか?」

「金さえ貰えれば、極悪人でも護衛する。ただし、悪人の護衛料は法外だがな」


 ヨウドウは薄ら笑みを浮かべ、ゼントを見据えた。そして更に眼前の美しい顔をした少年剣士にこう切り出してきたのである。


「間もなく、我が娘が無理やり家出をしようと画策するだろう。そのとき、貴殿が力を貸してやってくれないか? 無論、報酬は前金で払おう。1000万ジェルでどうだ?」

 

 国王の高額な家出の手引き料に、ゼントは即座に応じた。


「いいだろう。ただし、その後のことは知らんぞ」

「貴様!! 先ほどから黙って聞いていればっ世界の中心たるサラバナの国王に対して、その口の聞き方は何だっ礼節をわきまえろっこの蛮族めっ」


 怒り狂う大臣集団達を、ヨウドウは右手で制し、「構わん」と言い、話を続けた。


「貴殿が用心棒として生きたいなら、その後は、スセリから毎月金を取れ。そうだな、お主の腕なら、一ヶ月100万ジェルといったところか」

「100万ジェル・・・」

「そうだ。家出の手引きをした後、毎月一ヶ月、100万ジェル、スセリから金を奪い、用心棒になってくれ。」

「もし金が払えなくなったときは?」

「いつでも見捨てて構わんぞ」


 ゼントは傅き、承知した、と低めの声で応じたのであった。

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