まならい

SS 飛行禁止区域選定会議は終わらない（石橋 日親視点）

　飾戸（かざりど）空襲（くうしゅう）の始（はじ）まりはクラゲ型（がた）【ウミック】が意味（いみ）もなく、降（ふ）って来（き）た時点（じてん）からなのだろう。それが22時。時間（じかん）は経（た）って、現在（げんざい）時刻（じこく）は、端末（たんまつ）によると……駄目（だめ）だ。電波（でんぱ）障害（しょうがい）でまともに時刻（じこく）も表示（ひょうじ）されなくなった。

　クラゲ型【ウミック】。旧（きゅう）石狩（いしかり）湾（わん）から上陸（じょうりく）後（ご）に上空（じょうくう）へ急（きゅう）上昇（じょうしょう）したクジラ型【ウミック】に、追（お）いやられて、低空（ていくう）に吹（ふ）き溜（だ）まっている。

　新（しん）旧（きゅう）も詳細（しょうさい）も不明（ふめい）の【ラダー】が柱（はしら）の形（かたち）を模（も）しながら輝（かがや）き、紫陽花（あじさい）寮（りょう）をピンポイントに囲（かこ）っている。

　俺（おれ）と一条（いちじょう）は、「いつでも」新兵器（しんへいき）が投下（とうか）されても良（い）いように待機（たいき）している。

　でも、日本（にほん）国防（こくぼう）空軍（くうぐん）の哨戒機（しょうかいき）も戦闘機（せんとうき）も飾戸市内（しない）上空にはいない。

　＜ちゃん！……アリスちゃん！……クララちゃんを保護（ほご）した大蕗（おおぶき）寮生は帰寮（きりょう）中（ちゅう）。現在、紫陽花寮から上（かみ）区（く）内（ない）へ入（はい）った。

　君（きみ）も逃（に）げなさい＞

「五重虹（ごじゅうにじ）中佐（ちゅうさ）、それは出来ません」

　＜いいや、逃（に）げてもらう！＞

「ここで敵（てき）を潰（つぶ）さないと、一条が死（し）ぬ！一条が死ねば、俺（おれ）の妹（いもうと）が死ぬんだよ！」

　＜アリスちゃんの個人（こじん）的（てき）な思（おも）いで、……ジジジ……日本は戦争に巻（ま）きこまれるわけにはいかない。飾戸市の地下（ちか）避難所（ひなんじょ）は鉄壁（てっぺき）だ。わざわざ、……ザザザザザ……に応戦（おうせん）する必要（ひつよう）は無（な）いんだ。避難しなさい……ジッ……＞

「酷（ひど）い雑音（ノイズ）だ！

　世界中（せかいじゅう）の軍（ぐん）・政府（せいふ）・国際（こくさい）組織（そしき）関係者（かんけいしゃ）！

　兵器（へいき）事業者（じぎょうしゃ）！

　招待客（しょうたいきゃく）が多（おお）いな！」

「でも、失敗（しっぱい）だよ」

「どういうことだ！」

「五重虹中佐の見立（みた）て通（どお）り。おそらく、日本国防空軍の上層部（じょうそうぶ）も、各国（かっこく）の空（くう）対（たい）空（くう）・空対地（ち）兵器購入（こうにゅう）情報（じょうほう）を耳（みみ）にしている。

　困窮（こんきゅう）国（こく）が新兵器を買（か）わされたら、どうすると思う？

　模倣（もほう）して、コピー兵器を作（つく）るのには時間がかかる。それこそ、終戦（しゅうせん）後に間（ま）に合（あ）うかどうか。

　自国（じこく）保有（ほゆう）を続（つづ）ける」

「飾戸の地下処理（しょり）施設（しせつ）の旧型【ラダー】を破壊（はかい）するためには、新型兵器をたくさん投入（とうにゅう）するんだろ！」

「だから、安価（あんか）な対人（たいじん）兵器で地下処理施設の【ラダー】では無く、『とりあえず飾戸を無差別（むさべつ）空爆（くうばく）』」

　世界最大（さいだい）の兵器のエキスポ。そういう雰囲気（ふんいき）だったのに。

　信（しん）じられなかった。

　耳（みみ）を疑（うたが）った。

　だって、この戦闘（せんとう）は第四次世界大戦（たいせん）だ。

　ありえない。

「……本当（ほんとう）なのか！

　新欧州連合（ネオユーロ）軍が旧々（きゅうきゅう）型対人兵器を使（つか）うなんて！」

　新型兵器は新型の【ラダー】と新型【ウミック】。【ウミック】が破壊されても、すぐに新型【ラダー】が吸（す）いこめば、即席（そくせき）【ウミック】として再（さい）構築（こうちく）・再利用（りよう）が可能（かのう）だ。

　旧型は第三次世界大戦開戦（かいせん）からの【ウミック】。

　旧々型は第三次世界大戦開戦以前（いぜん）に使用（しよう）された、爆弾（ばくだん）だ。

【ウミック】に触（ふ）れれば、青（あお）く光（ひか）る傷（きず）となって、修復（しゅうふく）フィルムや修復ジェルが無ければ、一生涯（いっしょうがい）、ビリビリとした痺（しび）れと痛（いた）みに悩（なや）まされる。

　受傷（じゅしょう）が深（ふか）ければ深いほど、劇症（げきしょう）脳炎（のうえん）でショックを起（おこ）して、絶命（ぜつめい）する。

　でも、旧々型は圧倒的（あっとうてき）な火力（かりょく）で、人間（にんげん）を吹き飛（と）ばす。

「【ウミック】の層（そう）で日本列島（れっとう）を覆（おお）い尽（つ）くして、新型【ラダー】のお食事（しょくじ）が始（はじ）まる。

　礼儀（れいぎ）作法（さほう）なんて無いお食事が終（お）われば、グチャグチャに割（わ）れた皿（さら）が残（のこ）る。

　日本（割れるだけの皿）は『戦（たたか）わない』のではなくて、『戦う前（まえ）にテーブルから片付（かたづ）けられた』ことにされる。

　でも、そんなに都合（つごう）良（よ）くはいかない。

【ウミック】の供給（きょうきゅう）が間（ま）に合（あ）わないか、非（ひ）協力（きょうりょく）的な国（くに）が出（で）て来る。

　最新（さいしん）兵器を自国（じこく）外（がい）へ放出（ほうしゅつ）するのは勇気（ゆうき）がいる。

　そして、非協力的な国は勝手（かって）な考（かんが）えで動（うご）き始める。

　要（よう）するに、新型【ラダー】と【ウミック】が日本を破壊する。

　ならば、新型兵器の威力（いりょく）に相当（そうとう）する、『旧々型兵器を大量（たいりょう）投入（とうにゅう）』すれば良（い）い」

「小（ちい）さな戦争に慣（な）れていない新欧州連合（ネオユーロ）軍。

　新兵器を売（う）りたい兵器商人（しょうにん）。

　戦闘慣れし過（す）ぎた某（ぼう）国（こく）軍。

　使い勝手（がって）が良い、古（ふる）い爆弾」

「日本は世界大戦化（か）するには、小さくて狭（せま）過ぎる。

　あくまでも、試（ため）し撃（う）ち」

「南（みなみ）硝（しょう）海（かい）道（どう）にこだわるのは何故（なぜ）だ！

　日本各地（かくち）に旧型【ラダー】の地下処理施設があるのに！」

「残念（ざんねん）。

　年末（ねんまつ）年始（ねんし）にかけて、西（にし）日本は北米（ほくべい）大陸（たいりく）製（せい）【ラダー】の派生（はせい）亜（あ）型（がた）、日本製【ラダー】を導入（どうにゅう）中。

　残（のこ）る東（ひがし）日本も亜型を順次（じゅんじ）導入。

　北（きた）日本の南硝海道は旧型」

「寒冷（かんれい）地（ち）運用（うんよう）研究（けんきゅう）がまだだから、ここは遅（おく）れてる」

「餅（もち）は餅（もち）屋（や）」

「何を待（ま）っている！」

「どの防（ぼう）区（く）を放棄（ほうき）するか、しないか。その判断（はんだん）を待っているの。

　最短（さいたん）で十時間。最長（さいちょう）で七十二時間。

　その間（あいだ）、飛行（ひこう）禁止（きんし）区域（くいき）に留（とど）まり続（つづ）けなくちゃいけない。

　わたしの融合（ゆうごう）体（たい）は飛行禁止区域の一掃（いっそう）にちょうど良い」

「日本国防空軍北部方面部。

　日本国防軍省空軍幕僚（ばくりょう）部。

　日本国防軍省統合（とうごう）幕僚部。

　日本内閣府（ないかくふ）」

「飾戸市長（しちょう）と南硝海道知事（ちじ）もオブザーバーとして会議（かいぎ）に参加（さんか）している」

「日本飛行禁止区域が暫定的（ざんていてき）に設定（せってい）された。

　飾戸市。

　ただし、第五から第九防区を除（のぞ）く」

「そういう暫定的な選定（せんてい）でいくことにした。

　次（つぎ）の戦闘に備（そな）えて、兵材（へいざい）は温存（おんぞん）するべき」

「そうじゃない！

　第一防区から第四防区までは、個人（こじん）住宅（じゅうたく）に地下室が無い場合（ばあい）が多いんだ。第五防区から第九防区までは、集合（しゅうごう）住宅以外（いがい）建（た）てられない決（き）まりだ！

　再開発（さいかいはつ）前に一戸（いっこ）建（だ）ては解体（かいたい）済（ず）み！

　地下避難所に避難しない奴（やつ）が多（おお）い地域（ちいき）を守（まも）るために、第五防区から第九防区の家（いえ）が犠牲（ぎせい）になるんだ！

　いつまでも、戦争反対（はんたい）だとか、自分（じぶん）は避難したくないとか我儘（わがまま）言う馬鹿（ばか）な奴等（やつら）のせいだ！

　御前の家は爆弾が落（お）とされても、何もしてくれないまま吹き飛ばされるんだぞ！」

「うん、そうだね」

「……」

「自分は戦争が嫌（きら）いだから、誰（だれ）かが死ぬから、戦争反対。

　でもね、結局戦争が嫌いな人と戦争から逃（に）げた人が生（い）き残（のこ）るんだよ。

　でもね、そんなの、どうでも良い。

　わたしは地下に避難した人たちのために守ってあげてるなんて思わない。

　わたしは避難した人たちを守るつもりは無いから」

「『わたしはわたしを人間として扱（あつか）ってくれる日本国防空軍が大好（だいす）き。

　わたしを大切（たいせつ）にしてくれるお父さんとお母さんが大好き。

　わたしはもう、魔銃（まじゅう）害（がい）患者（かんじゃ）じゃない。

【ラダー】融合兵だもん。

　ちゃんと、勲章（くんしょう）集（あつ）めていかないとね』ってことか！」

「御前（おまえ）は勲章のために、おかしなことを続けるのか！

　俺の妹（いもうと）も、御前みたいになるのか！」

「わたしで、傷病（しょうびょう）少年（しょうねん）兵（へい）の介護（かいご）練習（れんしゅう）しないでよ」