SS 初日破壊目標数はニ十体(浮島 終世界視点)

 2032年12月1日。

 飾戸かざりどだいいちぼう学園がくえん十九丁目。

 私立しりつアンビシオンきた小学校しょうがっこう五年三十三組教室きょうしつ

 担任たんにん教諭きょうゆのハンネル先生せんせい、母、わたしの三者さんしゃ面談めんだん


 わたしの「冬期とうき魔習まならいのいえ希望きぼう調査書ちょうさしょ」をみながら、冬休ふゆやすみのごしかたはなう。

 第一希望:脂水やにみず外輪そとわりょう(脂水市)

 第二希望:脂水ノ内輪うちわ寮(脂水市)

 第三希望:岸野きしの銀花ぎんか寮(岸野市)

 私立アンビシオン北小学校高学年こうがくねん模範的もはんてき記入きにゅうれいまったおなじだ。

 たい【ウミック】陸上りくじょう防衛線ぼうえいせん最前線さいぜんせんもっとちかりょうえらんだ。危険きけんだけれど、【ウミック】破壊数はかいすう記録きろくとしてのこされ、学校の「冬休み中の評価ひょうか」に加算かさんされる。【ウミック】をたおせば、エリートとして期待きたいされる。中学校ちゅうがっこう受験じゅけんだって、有利ゆうりになる。

 冬休みけにはまた三者面談がある。それで、中学志望校しぼうこうえら放題ほうだいになる。

 ただ、第一希望から第三希望には「落選らくせん」の深緑ふかみどりいろのスタンプがされていたのがになった。


 ハンネル先生は「えんど世界せかいさんは入寮にゅうりょう困難こんなん児童じどうだ」と言い出した。

「受け入れ困難、ですか?

 えんど世界せかいが?

 ご冗談じょうだんですよね?」と母はわらった。

「四月から六月にかけて、終世界さんによる悪口わるくち仲間なかまはずしがイジメとしてもうてがありました。

 終世界さん、調査ちょうさを受けたよね?」

「はい。でも、たりまえのことを言っただけです。くない言動げんどうには注意ちゅういしました。

 仲間外しでは無く、意欲いよくたかい子と仲良なかよくしていただけです」

「娘が異議いぎ申し立てをして調査した結果、相手あいての申し立ては却下きゃっかされました。それなのに、受け入れ困難児童扱いするのはおかしいでしょう」

 母はわたしの意見いけんにのせて、先生の言動がハッキリ「おかしい」と言った。

「では、この動画どうがをごらんください」


 先生たちがつねONオンにしている指導しどう記録カメラの動画どうがデータ。

 <こわれた中古品ちゅうこひんでわたしの魔具まぐかって、射撃しゃげきしないで!>

 <ち、ちがうよ。【ウミック】に当てたかったの>

 <故意こいねらったのか。

 照準癖しょうじゅんぐせひどいおふるか。

 どっちかみとめなさい!>

 <うっ……ひっく……ごめん……>

 <くくらいなら、今すぐその魔具をてるか。矯正きょうせい施設しせつ自主的じしゅてきに入ったら!>

 おもしたくもない。

 四月に射撃演習場えんしゅうじょうでふざけていた女子だ。

「この子は『故意に終世界さんに照準をわせた魔具ない記録』をみとめて、退学たいがくねがいを出しました。

 しかし、十一月末に、退校たいこう処分しょぶんを受けました」


「いなくなって、良かったわ。

 まさか、娘を【ウミック】あつかいしてたなんて」


 ちがう。

 ……先生はわたしをあそびでころそうとした子をうしなったのがしいんだ。

「終世界さんはわかっていますね。

 良かったです」

「どういうことですか?」

跳躍台ちょうやくだい使るかえる子を退校処分にするなど、ありえません。

 我々われわれアンビシオンは一人の有能ゆうのう兵材へいざいを失いました。

 よって、アンビシオンは跳躍者育成いくせいのために、終世界さんを飾戸ノ大蕗おおぶき寮へ推薦すいせんしました」

「飾戸市のやかたはレベルがひくいから、市外しがいの寮にさせたのに!」

 母は空軍くうぐん跳躍者ジャンパーを単なる「危険職きけんしょく」ではなく、「ジャンプぐるい」とさげすんでいる。わたしには、ほかのアンビシオンせいのように、陸軍りくぐん志願しがんをしてしいのだ。

「終世界さんは跳躍台未経験みけいけんなので、『同寮生どうりょうせいやバンクカウンセラーから特別とくべつ介助かいじょ支援しえん必要ひつよう』だと評価ひょうかされました。

 頑張がんばってくださいね」

 ハンネル先生は空軍くず独特どくとくのスイートスマイルを母に向けた。



 入寮にゅうりょう初日しょにち午前ごぜん中に【ウミック】をつぶしているあいだも、ひどい三者面談のことを思い出すばかり。

 午前の【ウミック】破壊はかい活動かつどうはやめにげて、大蕗寮一階でひる休憩きゅうけい

 冬靴ふゆぐつから作業靴さぎょうぐつえて活動かつどうしていたけれど、見事みごと全身ぜんしんあせだく。

 下着したぎまでえないと、風邪かぜきそう。

 でも、バンクカウンセラーの先谷さきたに先生はわたしにも「自由じゆうごしてね」とねんした。

「エンド、おかえりなさい」と先谷先生が玄関げんかん出迎でむかえてくれたけれど、やっぱり先谷先生に聞いておこう。

 わたしは着替えわると、先谷先生に質問しつもんした。

「午前中で小型こがたを九体も完全かんぜん破壊。

 どうですか?」

「どうって?」

「初日最多さいた破壊はかいすうになりますか?」

「魔習いは【ウミック】の破壊数をきそうのが目的もくてきじゃ無いよ」

 わたしには誰も期待していない。ノルマもあたえない。

 自分でどんどん行動こうどうしていかないと、自由過ぎてなまけてしまいそうになる。

午後ごごも頑張ります」



 ひろめの居間いま食卓しょくたくテーブルには、石橋いしばし るなちかがのんきに、カレーうどんをすすっている。

「新魔具がとどくのをっていた宮村みやむらさんは仕方しかたないけれど、石橋さんはたたかうべきでしょう」

「でも、先谷先生が自由にしていよって言ってたもん!」


「じゃあ、家に帰れば?」


 口から、ポロッと本音ほんねが出た。

 やさしいこえかけを期待してたであろう石橋 月親がき出した。ホームシックにしては情緒じょうちょ不安定ふあんていぎる。

 こんなのと一緒いっしょじゃ、いきまりそう。


 わたしのささえは破壊数だけ。

 大丈夫だいじょうぶ。初日破壊目標数二十体はおおくもすくなくも無い。

去年きょねん、冬期魔習い開きは無かったので)一昨年の冬からさかのぼった五年間の、小学五年生の初日の全国平均破壊数。たった二体。

 初日は、入寮の移動いどう自己じこ紹介しょうかい。寮内での過ごし方確認かくにんかかり分担ぶんたん

 各寮かくりょうごとに【ウミック】を見つけて破壊する管轄かんかつこまかく規定きていされているわけじゃ無い。

【ウミック】も魔具も全て、魔術省と国防こくぼうぐんしょうがレーダーで監視かんししている。

 一応いちおう、破壊数カウントは夕方ゆうがた六時で区切くぎられる。

 カレーうどんをったら、また活動出来る。

 大丈夫。わたしはアンビシオンでもエリートなんだから。

 大丈夫。

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