SS カレーうどんを食べれる時代(先谷 闇剣視点)

 大蕗おおぶきりょうおんなが四人やってた。

 でも、本当ほんとうは九人入寮にゅうりょうのはずだった。

 鈴木々すずきぎさん。

 二重虹にじゅうにじさん。

 はやしさん。

 帆立ほだてさん。

 山口やまぐちさん。

 この五人の女の子はより過酷かこくな、【ウミック】出没しゅつぼつ多発たはつ注意ちゅうい地域内ちいきない岸野きしのの「岸野ノ銀花ぎんか寮」けい転寮てんりょうとなった。

 あそこには、いくつもの「岸野ノ銀花寮」がある。第一、第二、……たしかか、第五十六とうまであったはず。


 岸野市は第三次世界せかい大戦たいせん、陸軍北部ほくぶ方面部ほうめんぶ拠点きょてんだった。

 飾戸かざりどおなじじく陸軍北部方面部補給ほきゅう拠点きょてんだった。


 それから、戦後せんごの【ウミック】汚染おせん地域ちいき拡大かくだいによる、「陸軍北部方面部防衛線ぼうえいせん拠点」があらたに指定していされていた。脂水やにみず市だ。


 魔油まゆ精製所せいせいじょ鈴湾すずわん市と岸野市をつなぐ、脂水市内しないきゅう鉄路てつろ霧香きりか線。

 戦後せんご開通かいつうして六年で【ウミック】による爆破ばくは

 それからは、鈴湾市・胡桃並くるみならべ経由けいゆ・飾戸市の仮設かせつ迂回うかい線(現在げんざい氷留ひどめ線)が死守ししゅされている。


 終戦しゅうせんの2024年から八年。

 いまの陸軍北部方面部最大さいだい拠点は、もとの岸野市内へもどされたまま。

 きゅう脂水市境界線きょうかいせんよりこうがわ厭鈴えんりんだい湿原しつげん

 そこは【ウミック】汚染地域とされ、日本にほん陸軍りくぐんによる浄化じょうか作戦さくせん継続けいぞくちゅう。現在もぐん関係者かんけいしゃがい立ち入りが禁止きんしされている。



 今、転寮した彼女かのじょたちの最新さいしん情報じょうほう閲覧えつらんしたら、「魔具まぐがい患者かんじゃ差別さべつ思想しそうあり」と追加ついかされていた。

 おそらく、彼女たちの両親りょうしんの情報にも、「魔具害患者差別思想有」と追加ついかみだろう。


 一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありすさん。ああいう、毛髪もうはつ皮膚ひふ灰色はいいろ色素しきぞ感染症かんせんしょうではなく、後遺症こういしょう

 狭義きょうぎでは「米国製べいこくせい魔具過敏症かびんしょう」だ。二度と米国製魔具はあつかえない。

 おもに、第三次世界大戦傷病しょうびょうへいの後遺症で多くみられた戦傷せんしょうびょう

 まさか、戦後に軍事とは無関係むかんけいの「子ども」が「たんなるイジメ」で魔具インシデントにきこまれてしまうとは、だれ想定そうていしていなかった。



 旧軍事施設しせつの寮。その右隣みぎどなりは十番地。ひだり隣は十一番地。

 だから、ここは「十ト十一狭間はざま番地」。

 終戦後しゅうせんご区画くかく再整理さいせいりでも、「明番めいばん」されなかった。

 その多くが今や「魔習まならいのいえ」として、夏休なつやすみ、冬休ふゆやすみに利用りようされている。

 今後こんごは一年をとおして「魔習いの家(放課後ほうかごデイサービス)」の話も出ている。

 より子どもたちに魔術まじゅつを習わせる。

 何せ、夏休み・冬休み・放課後は「学校がっこう教育外きょういくがい」。


 子どもの少年しょうねんへい歯止はどめをかけようと教員きょういん有志ゆうし団体だんたいを立ち上げては保護者ほごしゃによってつぶされている。

「学校は駄目だめ駄目否定ひていしてばかりで、実際じっさいは何もしてくれない」のだ。

 学校の先生は「指導しどう要領ようりょう沿っておしえることだけがお仕事しごと」。


 世界せかいってはくれない。

「戦争はわったんですよ」じゃない。

つぎの戦争にそなえましょう」なのだ。


 地下室ちかしつつうじる階段かいだん本棚型ほんだながたかけとびらかくされている。

 ここは利用禁止。

 軍事機密きみつ情報ではなく、くらくてころんだらあぶないから。

 戦時中は食糧庫しょくりょうこや魔油の保管庫ほかんこだったそうだ。


「ジャンプハーネスと跳躍ジャンプだい

 これだけで、空軍くぐん兵は七十二時間、【ウミック】の完全かんぜん破壊体はかいたい地上ちじょうらせていました。

 彼等かれらは【ウミック】回収袋かいしゅうぶくろめるひまなんてありませんでした」

 未確認みかくにん疑似ぎじ生物せいぶつ兵器へいきである【ウミック】の死骸しがいはこの世界で一つも存在そんざいしないことになっている。何故なぜなら、生物ではないから、死をカウントしない。

 機械きかいと同じ。家具かぐ家電かでんのように、「もの」扱い。

 十番地は魔習いの家に理解りかいある、大森おおもりさん一家いっか

飾見坂かざりみざか年々ねんねん大型おおがた【ウミック】の飛来ひらい確認かくにんされています。

 飾見坂町内会ちょうないかいも、【ウミック】回収・清掃せいそうちからを入れていますが。

 やはり、通年の魔習いの家開設かいせつを市やくに嘆願たんがんしようという機運きうんたかまっています。

 近隣きんりんの寮『飾戸ノ柏手かしわで寮』と『飾戸ノ森王しんおう寮』の子等こらも、国際こくさい魔具使用ジュニアライセンス二級保持者ほじしゃです。

 ぜひ、ここの寮も優秀ゆうしゅう人材じんざい配備はいびしてくださいね。

 バンクカウンセラーの貴方の報告書ほうこくしょにものこしてもらわないと!」

 かみ中央ちゅうおう区は安全あんぜん。そんな安全神話しんわはもう通じなくなるだろう。

 上区で魔習いの家が開かれたということは、ここの上空じょうくうにも【ウミック】が来てしまっているあかし


 大森さんとの話を切り上げて、寮内へもどると、ブルーメが昼食ちゅうしょく準備じゅんびはじめていた。

「魔具がとどくまでやることがありませんので、お手伝てつだいします。

 アリスからは通信つうしんが入って、『行動食こうどうしょくべるので昼食はいらない』だそうです」

 ブルーメはテキパキと、冷蔵庫れいぞうこ冷凍庫れいとうこにあるものでカレーうどんをつくってしまう。

「貴方一人でやること無いのよ。

 ルナは?」

 わたしもあついうどんが入りそうなどんぶりを食器しょっきだなからり出す。

「ルナはホームシックで、部屋へやにこもっています」

「そう……」

「カボチャ、いたんでいましたか?」

 あさのカボチャのポタージュではくさりかけていた部分ぶぶんけずとして、なべには入れなかったはずなのに。

「どうして?

 ……そうなの。うえ半分はんぶんが腐っちゃって、した半分は残さなくちゃと思ってね」

 嗚呼ああ蓋付ふたつきゴミばこなかのぞいたら、カボチャの半分がてられていたから気づいたのね。

家庭かていでは、カット野菜やさいしか扱わないじゃないですか。

 こういうまるごと野菜やさいって、きっぱなしになって、いざ料理りょうりしようとしたら腐っているんです。

 カボチャはカットして冷凍庫に保管ほかんしましょう」


 居間いまには、「日本にほん空軍くうぐんん北方方面部飾見臨時りんじ基地きち直轄ちょっかつ基地きち所属しょぞく大蕗学生がくせい部隊ぶたい(2023)」の集合しゅうごう写真しゃしんが残っている。

 さあ、食べようと思っていると、通信が入る。

「こちら、飾戸ノ大蕗寮です」

 <ウミドリ便びんです。時間じかん指定してい内に魔具をお届けする予定よていでしたが、今おうかがいしてもよろしいですか?>

 寮の外から大型おおがたトラックのエンジンおんこえる。了承りょうしょうして、玄関へ行くと、小包こづつみをかかえたウミドリ便の配送員はいそういんっていた。


「日本国土交通こくどこうつうしょう通達つうたつで、日没後にちぼつご配送の計画けいかく休止きゅうしとなりました。

 明日あすの午前中にお届けになるはずだったんですが、『魔具』は日没前に優先的ゆうせんてきに届けろとのことでしたので」

「わざわざ、優先してくださってありがとうございます。ブルーメ!」

 ブルーメが台所だいどころからやって来て、大事だいじそうに小包みを受け取り、きしめる。

「ブルーメさん、たしかにお届けしました。

 では、ご安全あんぜんに!」

「「ご安全に」」

「……」

 配送員とすれちがって、エンドが午前の破壊はかい活動かつどうから戻った。


「あっ、浮島さん。

 お帰りなさい」とブルーメはエンドに気を使つかうが、もう小包みを持ったまま、そのでジャンプしてよろこびをおさえられていない。

「ほらほら、見て。

 ブルーメの純国産じゅんこくさん魔具が届いたのよ」

「何が、『ご安全に』よ。

 ゲンかつぎやジンクスで世界大戦にてたら、苦労くろうしないわ。

 点数てんすうかせぎのつもりだろうけれど、無駄むだよ。

 先谷さきたに先生、わたし、ひるはんを食べに戻っただけですから」

 エンドは台所でブルーメが作ったカレーうどんに我先われさきに手をつけようとしたので、「わたしが配膳はいぜんするから、ルナをおねがい」と言って、二人にはルナを居間へんでくるようおねがいした。


 この子たちはどんなにめぐまれているか、らない。

 わたしたちの修学旅行しゅうがくりょこうは陸軍駐屯地ちゅうとんち演習えんちゅう

 わたしたちの遠足えんそく魔弾まだん射撃しゃげき演習遠征えんせい

 わたしたちの学校給食がっこうきゅうしょく食糧しょくりょう危機ききで行動食訓練くんれん

 わたしは摂食せっしょく障害しょうがいにはならなかったけれど、偏食へんしょく障害の乾燥食かんそうしょくしょう湿食しっしょく嫌悪けんお症になった。

 この子たちは「水質すいしつ汚染を想定そうていした水粉みずこ訓練くんれん」なんて未経験みけいけんだろうな。

 よう常温じょうおん保存ほぞん可能かのうなかきこおり圧縮あっしゅくされて、粉になっている。めてみこむと水になる。

 唯一ゆいいつのごちそうですら、カボチャのポタージュじゃなかった。

 第三次世界大戦は一年だけ。

 一秒ごとに地獄じごくがやって来た。

 この子たちは二歳くらい。まだ小さかったから、何も知らなかった。


みんなで食べたほうが美味しいから。

 さあ、ルナもせきについて。

 はい、姿勢しせいただして。

 ブルーメが作ってくれたカレーうどんをいただきましょう」

「「「いただきます」」」

 かった。

 エンドもルナもブルーメに向かって、「いただきます」と言ってくれた。

 ルナも少し元気げんきが無いし、目元めもとあからしていたけれど、食欲しょくよくはあるみたいだ。

 それにしても。

 アリスは今、どこをんでいるのかな?

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