まならい

SS 国家行動宣言（浮島 終世界視点）

　今夜（こんや）9時から、内閣府（ないかくふ）が緊急（きんきゅう）会見（かいけん）だって発表（はっぴょう）。もう、お腹（なか）いっぱいで寝（ね）たいのに。

　ルナも眠（ねむ）そうで、談話室（だんわしつ）から寝室（しんしつ）へ移動（いどう）しようとして、涙堂（るいどう）先生に止（と）められた。

「先谷（さきたに）先生、これ見（み）る必要（ひつよう）あるの？」

「わたしも、こんな強制（きょうせい）受信（じゅしん）の内閣府記者（きしゃ）会見なんて初（はじ）めてよ」

　でも、涙堂先生はブルーメだけには「休（やす）みなさい」と優（やさ）しく接（せっ）していた。それはそうだ。だって、さっきまで里親（さとおや）に面会（めんかい）しに出かけてたんだから。

　でも、ブルーメは「日本人（にほんじん）として見るべき」と談話室に留（とど）まった。

　＜ここに国家（こっか）行動（こうどう）を宣言（せんげん）し、極秘（ごくひ）作戦（さくせん）を実行（じっこう）します＞

　ルナが通信（つうしん）端末（たんまつ）を一生懸命（いっしょうけんめい）イジっているけれど、通話（つうわ）が全（まった）く出来なくなっていた。

「電話（でんわ）が使（つか）えない。何（なん）で？」

「第三次（だいさんじ）世界大戦（せかいたいせん）下（か）の個人（こじん）行動（こうどう）制限（せいげん）と同（おな）じよ。

　魔習（まなら）いの家（いえ）は除外（じょがい）されるけど、全（ぜん）避難所（ひなんじょ）は開設（かいせつ）準備（じゅんび）しなくちゃいけないの」

「開戦（かいせん）？日本（にほん）が？

　厭（えん）鈴（りん）大湿原（だいしつげん）奪還（だっかん）作戦って、ただの噂（うわさ）じゃ無いの？」

　夜になると家族と電話ばかりしているルナは端末が使えないと困（こま）るのだろう。先谷先生がなだめてあげている。

「まだ、開戦じゃ無い。『日本国民（こくみん）』がどんな行政命令（ぎょうせいめいれい）にも従（したが）う宣言をしたんだ」

　涙堂先生はこんなときでも笑顔（えがお）を崩（くず）さない。

「児童（じどう）疎開（そかい）、始（はじ）まるのかな？」とルナはさらに「食事（しょくじ）が予備食（よびしょく）になるから嫌（いや）だな」と不満（ふまん）を口（くち）にした。

「旧型（きゅうがた）の短期（たんき）滞在型（たいざいがた）から長期（ちょうき）滞在型避難所移行率（いこうりつ）は国内（こくない）30％。

　それを補（おぎな）うために、小学生（しょうがくせい）全員の無理矢理（むりやり）冬期（とうき）魔習（まなら）いが解禁（かいきん）。しばらくは美味（おい）しい食事を用意（ようい）出来る」と先谷先生がフォローして、ルナは少（すこ）し機嫌（きげん）を良（よ）くした。

「ブルーメの妹（いもうと）は寮にいるの？」

「妹のクララは小学校三年生で、入寮（にゅうりょう）OK（オーケー）だったの。わたしに何かあっても、里親さんが守（まも）ってくれるから、大丈夫（だいじょうぶ）」

　ブルーメは悲（かな）しそうに笑（わら）った。

　＜夜間の私的（してき）な通信回線（かいせん）利用（りよう）は日本国総務省（そうむしょう）によって、制限されます。

　冬期魔習い中の皆さんは、バンクカウンセラーの指示（しじ）に従って、通信回線を利用しましょう＞

「大蕗（おおぶき）寮は明日の夜九時から九時五分の五分間。

　三親等（さんしんとう）以内（いない）であれば、一通話可（か）。

　一応（いちおう）、事前（じぜん）申請（しんせい）するから、アカウント記入（きにゅう）よろしくね」

「……」

　先谷先生の手際（てぎわ）の良いマニュアル通（どお）りの説明（せつめい）。きっと、前々（まえまえ）から決（き）まっていた「流（なが）れ」なんだ。

「強制（きょうせい）受信（じゅしん）以外（いがい）のテレビと衛星（えいせい）放送（ほうそう）、動画（どうが）配信（はいしん）サービスは休止（きゅうし）だって。

　ラジオ放送だけは残すみたい。

　ただし、インターネットも制限かけるから、ラジオ受信専用機器（せんようきき）を買（か）えってさ」

　ルナは偽（にせ）暖炉（だんろ）の上（うえ）に放置（ほうち）されているラジオの埃（ほこり）の溜（た）まり具合（ぐあい）に絶望（ぜつぼう）する。

「ポスト投函（とうかん）制限。荷物（にもつ）集荷（しゅうか）配送（はいそう）制限（せいげん）もだ。どんどん、物流（ぶつりゅう）がとまるね」

　ブルーメは夕刊（ゆうかん）新聞（しんぶん）に紛（まぎ）れていた、「物流制限・遅延（ちえん）のお知（し）らせ」のチラシを発見（はっけん）する。

「公共（こうきょう）交通機関（こうつうきかん）は？」

　わたしも夕刊を広げると、計画運休（けいかくうんきゅう）と「再開（さいかい）しても減便（げんびん）は覚悟（かくご）してね」という残念（ざんねん）なお知らせ記事（きじ）を発見する。

「計画運休だって。クリスマス・ディナーで見逃（みのが）してた」

　先谷先生は大判（おおばん）の封筒（ふうとう）からここにいる子どもの人数分（にんずうぶん）のパンフレット三部を取（と）り出した。

「小学五年生用（よう）国家行動パンフレットを配（くば）るね」

「先谷先生？」

「備（そな）えあれば憂（うれ）い無し。

　こんなパンフレットはどの国の子どもたちも、常時（じょうじ）学校鞄（がっこうかばん）の中に一部忍（しの）ばせているわ」

　ダラダラと組木（くみき）内閣総理大臣（そうりだいじん）が記者会見を続（つづ）けているけど、全部（ぜんぶ）聞いていられない。

　パンフレットは写真（しゃしん）付（つ）きですごくわかりやすい。

　パンフレットには、こう書（か）かれてあった。

　日本政府は君（きみ）と君の大切（たいせつ）な人（ひと）を守（まも）るために三つを宣言するよ

　日本国家と共（とも）に行動しよう

　魔銃（まじゅう）から【ウミック】に向（む）けて魔弾（まだん）を放（はな）てるよ

　世界（せかい）と日本（にぽん）に必（かなら）ず奉仕（ほうし）しなければいけないね