SS 空爆予告(石橋 日親視点)

 あー、マジで最悪さいあく

 今日きょうも、同寮生どうりょうせいの、中一ちゅういち愚図ぐずに、あしられた。

 きじゃくってるだけで、なんなの、アイツ。年上としうえくせに、一体も破壊はかい出来できずに、パニクッてさ。

 はぁー。


 毎日まいにち岸野きしの亜炭あたんりょう全員ぜんいんに、破壊すうノルマがせられている。

 おれ小学しょうがく五年生だけど、「大学生だいがくせい相当そうとう」として、中型ちゅうがた四体小型こがた三十体。

 あの愚図はたかが「小型十体」で、毎日おおケガして帰還きかん

 しかも、不適切ふてきせつ回避行動かいひこうどうで、破壊活動中かつどうちゅうだった俺等おれらのところへ【ウミック】をいてきやがった。

「ごめんなさい」を絶叫ぜっきょうした愚図。


 俺等小学校高学年三人をおとしめようと故意こいに【ウミック】をって来たのは間違まちがいない!

 バンクカウンセラーに報告ほうこくして、やっと「危険行為きけんこうい常習じょうしゅうによる謹慎きんしん処分しょぶん」で、明日あしたあさりょう追放ついほう処分しょぶんすることになった。


 この寮は「格闘技かくとうぎ無差別むさべつ階級かいきゅう」的な位置いち

 るものこばまず。でも、メチャクチャきびしい。

 でも、軍隊ぐんたいしき教練きょうれん一切いっさいい。

 破壊活動のノルマさえ達成たっせいしていれば、ホテル生活せいかつってかんじだ。

 無力むりょくくせに、なん入寮にゅうりょうみとめられたんだろう……。


 端末たんまつ双子ふたごいもうとから通信つうしんはいった。

 ウルサイ声量せいりょうくだらない内容ないようこえて、半分はんぶんいていられない。

 <どうしよう、ソル!>

「何?何?性格せいかくわるくて、仲間なかまはずれにされちゃった?」

 <そういう言い方、やめてよ!>

「あのさー、毎晩まいばん連絡れんらくして来てなんなの?

 消灯しょうとう時間じかんよる九時ちかいんだぞ。

 家族かぞくからの電話でんわってことで、大目おおめてもらえてんの。

 雑談ざつだんなら、る」

 <って、待って>


 かくかくしかじか。

「ルナがあの、一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありすのクリスマスケーキのイチゴをぬずいした」という衝撃的しょうげきてき告白こくはくいてしまった。

「ルナって、そんなにイチゴ好きだったか?」

 <だって、ソルとママは、クリスマスケーキのトップイチゴはくれてたじゃん。

 だから、クリスマスケーキのときはトップのイチゴ三個食べるのがたりまえだったから、つい……>

「でも、一条 白黒有栖はルナの家族じゃ無いだろ。

 御前おまえあまえてんな~。

 役立やくたたずのお荷物にもつなんだ。仕方しかたない。

 明日あしたには魔習まならせい失格しっかくで家にもどされるぞ」


 <ルナ、お荷物じゃないもん!>

昨日きのうと今日で、ちょう小型【ウミック】二体ずつのくせに。

 兄だからって、何で、別寮べつりょうの妹の破壊数がすくないことまで、亜炭あたんりょうのバンクカウンセラーにおこられなくちゃいけないんだよ」

 <だって、せっかくった魔具まぐよごれちゃうじゃん!

 それに、こっちの寮の先谷さきたに先生は全然ぜんぜん怒こらないよ?>

「やる気の無いルナに朗報とうほう

 亜炭寮の出来がわるやつ、明日のあさ退寮たいりょう処分まっしぐら!」

 <ふざけないでよ!

 どうしたら、アリス、ゆるしてくれるかな?>

「何で、そんな気にするの?」

 <ルナがイチゴ盗み食いしたけど、全然気にしてないの。大蕗おおぶき寮のことはどうでも良いみたい。

 夜間やかん外出がいしゅつしちゃった>

馬鹿ばかだな。

 一条 白黒有栖がって来ないのは、どっかで夜戦やせんちゅうだからだよ」

 <え?>

「亜炭寮の奴でさ。初日しょにち軍事ぐんじ機密きみつ回線かいせんをたまたまいた奴がいたんだよ、あんましくわしいことはわかんないけど。

 初日最多さいた破壊数は一条 白黒有栖だよ。

 脂水やにみずよりもまだとおくまでんだって話だ。

 俺も、けてらんないな。

 それじゃあ、おやすみ」


 俺はあわてて通信を切った。だって、個室こしつそとにはバンクカウンセラーの鉈本なたもと先生がっている気配けはいがしたから。

「ソルチカ、青傷あおきず具合ぐあいはどうだ?

 修復しゅうふくフィルムはりた?」

普通ふつうに跳べます。

 フィルムはギリギリ足りました」

 そう。フィルムさえきつければ、何てこと無いアピールを全力ぜんりょくでしないといけない。

 俺はなまけない。


「妹さんのいる飾戸ノ大蕗寮も大変たいへんだな。

 アンビシオンの問題児もんだいじ

 日本にほん残留ざんりゅう孤児こじ

 きわめつけの、魔具まぐがい患者かんじゃ

「岸野の地獄じごくを見せてやりたいですよね」

 鉈本先生は魔習いの女の子たちが集団しゅうだんでゴチャゴチャしゃべりながら跳んでいるのが大嫌だいきらいなんだって言ってた。

 俺の妹の無駄話むだばなしなんて、虫唾むしずはしるだろうな。


 突然とつぜん、端末がバイブレーションでふるえだす。同時どうじに、警報音けいほうおんが端末からながす。

 ファーンファファファファ。

 ファーンファファファファ。

空襲くうしゅう警報ですか?」

 端末の画面がめんをタップすると、緊急きんきゅう速報そくほう既読きどくあつかいになって、警報音がらなくなった。

「いや、味方みかたによる空爆くうばく予告よこくだ。端末の画面に、該当がいとう地域ちいき情報じょうほう表示ひょうじされるはずだ。よくんでおきなさい」

「あんな警報音、聞いたこと無いですけど」


 ファーンファファファファ。

 ファーンファファファファ。

 ほかの寮生も端末を操作そうさして、警報音をめてしまう。

 そこへ藤野ふじの先生が鉈本先生を呼びに来た。

「鉈本先生、亜炭寮夜間やかん管制かんせい空軍くうぐんによってめられた。

 高校生こうこうせい魔習い全員、帰還だって。

 夜間誘導灯ゆうどうとうつけて出迎でむかえるぞ!」

「じゃあな、ソルチカ」



「何だったんだ、あのおと?」と話しかけて来たのは同じ小五の矢森やもり まつる

「マツル、ソルチカ。

 空爆予告だってさ。

 ほら、れいの魔具害患者がさ」

 またまた同じく小五の竹山たけやま しのぶあらわれて、情報を仕入しいれて来た。 

「一条?」

「そう、飾戸の一条が夜戦に出るって。ソルチカ、御前の妹って一条と同じ大蕗寮なんだろ?

 何か、聞いてない?」

 俺は当たりさわりなく「聞いていない」と返事へんじをするしか無かった。

 何だよ、ルナ。俺、イチゴを盗み食いした話しか聞いてないぞ。


 俺もたたかいたい。

 一条と一緒に跳んでいたい。

 何で。

 ルナは女って言う理由だけで、一条と同じ寮で、いつだって一緒に跳べるのに。

 ルナは跳ばない。

 ルナは【ウミック】を破壊しない。

 俺はなんで、岸野ノ亜炭寮で。

 俺は何で、愚図の尻拭しりぬぐいばかりで。

 俺は何で、あおきずついているんだろう。

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