まならい

SS 魔銃法即時施行（漁火流魔匠一条 北天視点）

　飾戸（かざりど）市（し）中央（ちゅうおう）区（く）、祭花（まつりか）堂（どう）九階。

　早（はや）めに店（みせ）じまいをしていた今夜（こにゃ）。

　一階から、会員制（かいいんせい）魔銃（まじゅう）販売（はんばい）フロアの七、八階まで。既（すで）に従業員（じゅうぎょういん）総出（そうで）で陳列（ちんれつ）変更（へんこう）がされていた。

　空戦（くうせん）特化（とっか）の魔具（まぐ）を陳列棚（だな）から出（だ）して、魔銃として陳列し直（なお）す。

　今日（きょう）の夕方（ゆうがた）から臨時（りんじ）国会（こっかい）召集（しょうしゅう）で、一部（いちぶ）議員（ぎいん）がボイコット。

　魔銃法案（ほうあん）が全会（ぜんかい）一致（いっち）で両議院（りょうぎいん）にて可決（かけつ）、即時（そくじ）公布（こうふ）・即時施行（しこう）。

　待（ま）った無（な）しで、「魔術（まじゅつ）道具（どうぐ）」と「魔術」が不適切（ふてきせつ）用語（ようご）入（い）り。テレビや新聞（しんぶん）も一斉（いっせい）に「魔銃」と「魔弾（まだん）」に言（い）い直し、書（か）き直し。

　教育界（きょういくかい）や財界（ざいかい）も、すぐに「国家行動（こっかこうどう）宣言（せんげん）には屈（くっ）することなく抗議（こうぎ）する」と声明（せいめい）を出した。しかし、もう弾（はず）みがついてしまった日本（にほん）を誰（だれ）もとめることは出来（でき）ない。もちろん、豊（ゆた）かな日本経済（けいざい）への弾みでは無い。軍国（ぐんこく）主義（しゅぎ）への弾みでも無い。

　第四次（だいよじ）世界大戦（せかいたいせん）への弾みだ。

「魔銃法は、魔術道具を魔銃であると認（みと）める法。つまり、魔弾による軍事（ぐんじ）行動が可能（かのう）だ。

　そういう拡大解釈（かくだいかいしゃく）も許（ゆる）されてしまう。

　少年兵（しょうねんへい）も事実上（じじつじょう）、認（みと）められた」

　小休憩中（しょうきゅうけいちゅう）の他（ほか）の職人（しょくにん）も従業員とヒソヒソ情報（じょうほう）を交換（こうかん）している。

「今回（こんかい）国会を通過（つうか）した法案は特措法（とくそほう）・時限（じげん）法にしなかった。

　日本国民は戦争への覚悟（かくご）を決（き）めるしか無い。

　ギリギリでも国外脱出（こくがいだっしゅつ）した奴等（やつら）は命拾（いのちびろ）いしたな。

　もう、日本国籍（こくせき）離脱（りだつ）が絡（から）む海外渡航（かいがいとこう）は無理（むり）だ」

「一条（いちじょう）。

　魔銃職人（しょくにん）協会（きょうかい）から通知（つうち）だ。

　俺等（おれら）はたった今から魔銃職人協会員（かいいん）だと。

　とにかく、祭花堂の会員制向（む）け工房（こうぼう）スペースの陳列変更、チャッチャッとやっちまおう」

　大炭（だいたん）流（りゅう）魔匠（ましょう）の玉岡（たまおか）は、心（こころ）ここにあらずの俺の背中（せなか）をバシッと叩（たた）く。

　弟子（でし）たちも弟子たちで、手（て）を動（うご）かさずに口（くち）を動かしている。

「米国（べいこく）製（せい）輸入（ゆにゅう）解禁（かいきん）か？」

「いいや。これからも、純（じゅん）国産（こくさん）だ。

　米国製魔銃じゃ、安全性（あんぜんせい）と馬力（ばりき）のどちらも、足（た）りないんだよ」

「魔術省が魔銃省に名称（めいしょう）を変更するなんて、どうでも良いだろ？

　俺等は魔銃をつくるだけが仕事（しごと）だ」

　あーでもない、こーでもない。

　好（す）き勝手（かって）に喋（しゃべ）っている弟子たち。

「開戦（かいせん）が近（ちか）いな」

　どんどん耳（みみ）に情報が届（とど）く中で、ふとこぼれた俺の言葉（ことば）。

　子（こ）どもが魔習（まなら）い前（まえ）に、ショッピングモールの催事場（さいじじょう）で買（か）ったような、下級（かきゅう）魔油（まゆ）用（よう）魔銃でも、日本製だ。確実（かくじつ）に、実戦（じっせん）で化（ば）けるだろう。

　日本は間（ま）に合（あ）った。

　戦争（せんそう）の準備（じゅんび）に間に合ってしまったのだ。

「アリスちゃん、岸野（きしの）へ向けて跳（と）んでいったそうです」

　いや、もう準備は終（お）わっていた。

　もう、少年兵（しょうねんへい）が派兵（はへい）され始（はじ）めた。

　事実上の開戦を、養女（ようじょ）の白黒（ものくろ）有栖（ありす）の動静（どうせい）で知（し）ることになるとは思（おも）いもしなかった。