SS ネオユーロの計画(涙堂 泉中佐視点)

 21時49分フタヒトヨンキュウ

 特別とくべつ臨時りんじ軍事ぐんじ作戦さくせん予定よてい22時00分フタフタマルマルよりもはやくに接敵せってきによりはじまり、わってしまった。

 窓辺まどべから地吹雪じふぶき夜景やけいをただただながめる桑原くわばら大佐たいさかれに【ラダー】コレクターという印象いんしょうかった。必死ひっしにアリスちゃんをまもろうとしていた。

「作戦が終われば、あとは報告書ほうこくしょにサインするまでひまだよ」

「アリスも、貴方あなた仲間なかまも、わかってますよ。

 貴方はものになったアリスを【ラダー】融合兵ゆうごうへいとして十歳ととせ基地きちない残留ざんりゅうさせることで、人権じんけん保障ほしょうしようとしました。

 岸野きしの基地にあった北部方面部隊がまるまる十歳基地にうつるのは、【ラダー】融合兵の導入どうにゅう計画けいかく凍結とうけつ一部いちぶゆるめるからですね?桑原のおじさん」

 桑原大佐の右横みぎよこには、ゆきはられていない作業服さぎょうふくおんなの子がっていた。

 つよ信念しんねんっていたはずの桑原大佐の左眼がれている。

【ラダー】融合兵は魔銃まじゅう暴発ぼうはつによる傷病兵しょうびょうへいれのて。魔銃の材料ざいりょうである【ラダー】をびた兵士へいしひととしてのこるために、傷病退役たいえきしていく宿命しゅくめいだ。

 この「った感触かんしょくが無い勝利しょうり」はいったい、なんだろう。


「アリスは自分じぶん役目やくめ理解りかいしています。

 日本にほん第四次だいよじ世界大戦せかいたいせん応戦おうせんするためには、『ぜん日本国民こくみんいかりとにくしみにめる必要ひつようがある』のです。

 そのためのおお舞台ぶたいは、地下ちか処理しょり施設しせつ規模きぼが大きい岸野きしの消失しょうしつではありません。

 みなみ硝海道しょうかいどうにある唯一ゆいいつ政令せいれい指定してい都市とし用意よういされました。

飾戸かざりど市への【ウミック】奇襲きしゅう』。

『世界人類じんるいのため、新欧州連合ネオユーロによって実行じっこうされる、人口じんこう四百万人にふくがった飾戸市無差別むさべつ空爆くうばく』」

対人たいじん攻撃?」

 おじさんと女の子。この二人の話を盗み聞きする気は無かったが、咄嗟に声に出てしまっていた。

「いいえ。対人にかぎっていません。飾戸市を壊滅かいめつさせるためのありとあらゆる人道的じんどうてき武力行使ぶりょくこうしです。飾戸ノ大蕗寮の涙堂先生、こんばんは」

「いつまでもふるい【ラダー】を使つかつづけ、対人たいじん兵器へいきしょくつよまった新型しんがた【ラダー】購入こうにゅうをしぶった日本がわるい。

 世界人類のために積極的せっきょくてきに世界大戦に参戦さんせんしない、非戦ひせんくに

 たたかわずにらくして平和へいわ宣言せんげんばかりしている日本がきらわれたんだ。

 理想りそうばかりで、ほかの国にうとまれた。

 涙堂中佐、我々われわれ日本の大人おとな後手後手ごてごてだ。子どものように柔軟じゅうなんにはうごけない」

 桑原大佐はより威力いりょくしていく暴風雪ぼうふうせつ景色けしきながめたまま、女の子のあたまをヨシヨシでる。

 自衛隊じえいたい国防軍こくぼうぐんになっても、国外こくがい派兵はへい表向おもてむきんじたまま。領土りょうど領海りょうかい領空りょうくう専守せんしゅ防衛ぼうえいでも、すごいことだと、世界は理解りかいしてくれない。



「新型【ラダー】は【ウミック】と人間にんげんを無差別に空爆可能かのうでしょ。子どもだって、知ってる子は知ってます」



 空軍跳躍兵ちょうやくへいらしいこわった笑顔えがおをする、女の子はこわいことを淡々たんたんと話す。

新欧州連合ネオユーロ暴走ぼうそうめられるのは、日本政府でも国防軍でも無い。

 涙堂中佐。

 それでも、地下ちか避難ひなんせずに飾戸市へもどるのか?」

 桑原大佐はまどから視線しせんらして、私を見つめる。

「いいえ。ただたんに、大蕗おおぶきりょう魔習まならせいがバンクカウンセラーのかえりをっているだけですよ。

 失礼しつれいします」


涙堂るいどう中佐ちゅうさ!」

五十虹ごじゅうにじ中佐?」

 オペレーターとして数分すうふん活躍かつやくした五重虹中佐は子どもに気づかず、私にけ寄って来る。

「飾戸市は魔銃まじゅう工房こうぼうと魔銃職人しょくにんかかえる職人ざかがあります。大量たいりょう生産せいさん魔銃まじゅう工場こうじょうのある都市ではありません。

 新欧州連合ネオユーロたたくとしたら、地下処理施設と木梯もってい保管ほかん倉庫そうこのある職人坂です」

 五重虹中佐はそこで息継いきつぎをふかくして、あらたな話題わだいを私にって来た。

「それにしても。

 新欧州連合ネオユーロとは友好ゆうこう関係かんけいだったのに。

 ここに来て、本当ほんとう理解りかい出来ない。

 第四次世界大戦は何のためでしょう?」


きたる第五次世界大戦へのそなえだよ。

 飾戸市上空じょうくうで、世界最大級さいだいきゅう武器ぶき兵器へいき展示場れんじじょう開催かいさいされるの」

そなえあってもうれり、だな」

 五重虹中佐が現れて急にうつむいた女の子と桑原大佐がこの話題にざって来た。

「展示場で子どもが展示ひんこわすなんてことは事故じこだよ」


「オーロラいろしん欧州おうしゅう連合れんごう袋詰ふくろづめしないで、対人殺傷さっしょう能力のうりょくのあるクリスマスプレゼントを空中くうちゅう投下とうかします。

 新欧州連合にしてみれば、最高さいこうのクリスマス・イブです。

 アリスちゃん、十歳基地に帰還する予定だったかな?いつ、戻って来たの?」

 正体不明の雪塗れの女の子に優しく話しかける五重虹中佐。

「五重虹中佐、その子はアリスちゃんじゃ無いですよ」

 私でも、アリスちゃんでは無いとわかるのに。この人はどれだけ、疲れているんだ?

「え?」

「パパ、自分のむすめの声も忘れちゃったの?」


 気づくと、不審ふしんな女の子の正体しょうたいたしかめようとしている基地警備隊けいびたいかこまれていた。

「五十虹の娘のにしきです。

 アリスは寮へかってません。想定そうていされる爆心地ばくしんちに向かってんでいるはずです」

「俺に、アリスちゃんをめろ、と?

 悪いが、子どものお守りは苦手にがてだ。それに、アリスちゃんは何かを空軍にかくしていた」

「アリスが?

 桑原のおじさん、何か知ってるの?」

「アリスちゃんのおともだちに、外国がいこく国籍こくせきの子はいるか?

 もしくは、はん政府せいふ主義しゅぎ思想しそうのあるいえの子。

 海外かいがいらしの子はどうだ?」

「……ドイツ出身しゅっしんの日本残留孤児こじ姉妹しまいのうち、あねが大蕗寮生ですよ。

 姉妹は二時間前に、アリスちゃんのいで、里親さとおや顔合かおあわせをませています。

 アリスちゃんは作戦まえに里親の書類しょるいをそろえていました」

 私は隠しても意味いみが無いとおもい、かしてしまう。少々しょうしょう冗談じょうだんまじえてね。


「さて、しずかなよる問題もんだいです。

 アリスちゃんは姉妹のどちらの所属寮しょぞくりょうへ向かっているでしょうか?」

「ふざけるな!」と五重虹中佐が真っ先に怒鳴どなったのは意外いがいだった。

「ふざけたことをかんがえたのは新欧州連合ネオユーロです。

 小学三年生の女の子か。

 小学五年生の女の子か。

 どちらかに、四百万人がむ飾戸市を座標情報ざひょうじょうほう送信そうしんさせているんですから」

っていて、めなかったのか?」

 桑原大佐も「おにのような形相ぎょうそう」だ。

兵器へいき誘導ゆうどうのための座標情報です。送信を遮断しゃだんしたら、仮宮村かりみやむら姉妹になにこるか想定そうてい出来ませんでした。

 だから、最初さいしょから最後さいごまで兵器を誘導させてあげましょう。

 迎撃げいげき出来る兵材へいざい配置はいちみです」

「五十虹中佐!

【ラダー】融合兵と魔習い生がみなみ飾戸陸軍りくぐん駐屯地ちゅうとんちレーダーで感知かんち

 どうしますか?」

「一人はアリスちゃんだな。

 もう一人は不明のままで良い」

石橋いしばし 日親そるちか

 今日きょう、岸野上空を見事に一掃して跳び回ってた。

 岸野の地下避難所から脱出して、アリスと合流ごうりゅうした」

にしきちゃん!避難命令めいれい解除かいじょされてないよ!

 そもそも、何で、基地にいるの?」

 途端とたんおやかおをする五重虹中佐。でも、娘になめられている。

「パパたち大人おとなはもう、アリスにてられたんだよ。

 子どものわたしがアリスにはなしかけたほうが言うこといてくれるよ」

「そんなこと無い」

「そんなことあるんだよ。

 アリス、空軍の通信つうしん回線かいせんっちゃってるでしょ?

 おこってるんだよ。ともだちの名誉めいよきずつけられつづけていること」

「アリス、魔具まぐがい患者かんじゃでしょ。灰色はいいろかみ

 でも、さっき、すれちがったとき、もうフードかぶって無かった」


「友だちをたすけにったんだよ。

 日本国防軍や日本国民を助けるためじゃ無い」


「だったら、なおさら、錦ちゃんは大人の話にくわわるべきじゃない。

 最後さいごまで、アリスちゃんのお友だちでいてあげるべきだ。

 パパの仕事しごとはパパがする」

 うーん。全然ぜんぜん、娘はいてないよ。かわいそうな五重虹中佐。

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