6話 雷撃の傷跡は青く光る(後編)

 とにかく、十歳ととせ方面ほうめんまでつづけた。

 とおくから爆発ばくはつおんこえる。

 地響じひびきのような、えらくデカイおと

 その直後ちょくご、ピロリロリーンという警報けいほう音が四回、みみながれた。

 <『雷撃らいげき感知かんち

 ただちに周囲しゅうい警戒けいかいせよ。

 かえす。

 雷撃感知!

 ただちに周囲を警戒せよ』>

 通信つうしん装置そうちkokoniココニ」の自動じどう警報が作動した。


 大型おおがた【ウミック】の雷撃が四方しほう六方ろっぽう八方はっぽう飛散ひさんする。

 前方ぜんぽう真正面ましょうめん。ブルーメと思われる子のひたいには雷撃がさったまま。

 そのまま、一人、落下らっかしていく。

 <アリス!破壊はかいして!>

 さっきまで跳躍ちょうやくこわがっていたエンドにまよいはかった。いきおいをつけて滑空かっくうして、ちていくブルーメをすくいあげようとする。

「ブルーメをよろしく!」


 大型【ウミック】一体だからこそ、なにをしてくるかてき意図いとちから必要ひつようになって来る。


 わたしをきずつけたいだけなのか。もてあそびたいのか。ころしたいのか。仲間なかませる時間じかんしいのか。

 わからない。

 でも、油断ゆだんねらってっこんで行ったであろうブルーメは弄ばれた。


 わたしは魔具まぐにぎに力をこめる。

 どんどん【九連くれん黒燈こくとう】がねつをもっていく。

すべてのかがやきをむしばめ、暗幕あんまく!」


 魔具の【九連ノ黒燈】から弾幕だんまく連射れんしゃされる。

 一瞬いっしゅんにして、フワフワッとただよっている【ウミック】の周囲しゅういに暗幕が展開てんかいされた。

 暗幕のように散った弾幕は追尾ついび弾幕で、圧搾あっさくによる粉砕ふんさいで【ウミック】をつぶした。

 あつをかけて、【ウミック】をしぼる。

 すぐに片付かたづいてかった。

 そこへ、エンドからの悲鳴ひめいこえる。

 <わたし一人じゃ、さされない!

 緊急きんきゅう降下こうかする!>

 わたしはすぐに、ブルーメをかかえるエンドを支える。

 これで、緊急降下の必要は無くなった。

わったよ。

 このまま、りょうもどろう」



 午前10時18分。

 路面電車ろめんでんしゃ停留所ていりゅうじょ飾見かざりみざか」にだれもいなかったので、降下する。

「ここからは、自分じぶんあしあるいて」

「……ッ」

「アリス、ブルーメがかわいそう」

「わたしにおんぶされて、戻りたい?」

「……自分で、歩く」

「アリス、背負せおってあげて!」


 わたしがアリスをかついで、跳躍台ちょうやくだい無しで跳び上がって、大蕗おおぶき寮まで再度さいど跳躍する。

「やめて……おろして……」


「イギリス空軍くうぐん大手おおでって、おかえりだぞー!」

 大蕗寮の三つのアンテナをいじっている作業員さぎょういんがブルーメの姿すがたに気づいて、口笛くちぶえいてはやてる。

 馬鹿ばかだ。

 彼等かれら民間みんかんの「作業員」なんかじゃない。

 空軍の制服せいふくていないだけで、最寄もよりの空軍基地きちから派遣はけんされた施設しせつ設備せつび整備せいび担当者たんとうしゃだ。

「やめろ!」と大人おとなおとこひと怒鳴どなごえが聞こえてから、今度こんどへんしずまりかえった。



 一階の浴室よくしつにブルーメをしこみ、シャワー入浴にゅうよくさせて。

 それから脱衣所だついじょで、修復しゅうふくフィルムをいてやる。

「大型【ウミック】へまともに突っこんだら、全身が雷撃で皮膚ひふただれる。

 重傷じゅうしょうだと、二週間は隔離かくり治療ちりょう

 魔具がけなくて良かった」

 とりあえず、くびからしたは修復フィルムさえ巻いておけば、どうにかなる。

「ブルーメ、わざとでしょ。

 今すぐ、転寮てんりょう希望きぼうを出すべきね。

 ケガすれば、冬期とうき魔習まならいをサボれるなんて、あまいのよ。

 雷撃程度ていどなら、修復フィルムでなおっちゃうんだから……」

 額の雷撃こんは青色に発光はっこうし続けている。見えている傷痕きずあとだけで七つ。


 剃髪ていはつするのはかわいそうなので、頭髪とうはつ部分ぶぶんには修復ジェルをりこんだ。それから、頭皮とうひ・頭髪用修復フィルムを巻きつけてやる。

「……ッ」

 ブルーメはいたみなのか、かゆいのか、ときどきかおきつらせる。


 さわぎに気づいて、涙堂るいどう先生せんせい救護室きゅうごしつにノックをして入って来る。

「……まあ、今回は大型【ウミック】をたおそうとした破壊はかい意欲いよく評価ひょうかしよう。

 つまり、宮村みやむら 婚姻花ぶるーめ書類上しょるいじょうには、故意こい暴走ぼうそう行為こういについては記載きさいしない。

 あくまでも、跳躍ミスをしたことにたいしての口頭こうとう注意ちゅうい

通院つういんの必要は無いから、きちんと自分で修復フィルムを巻いて。

 今後こんごは気をつけて跳ぶように』。

 はい、口頭注意おしまい。

 僕はね、おふるのレーダーをアリスちゃんやエンドちゃんのために運用うんよう再開さいかいしようと計画けいかいしているんだ。

 ブルーメちゃん、邪魔じゃましないでね」


 バタバタバタ。

 先谷さきたに先生の足音あしおと息遣いきづかいが聞こえてくる。

 ルナがブルーメを心配しんぱいして、先谷先生を電話でんわび戻したようだ。

貴方あなたのおとうさんとおかあさんにはもうわけ無いけれど、これ以上いじょうの治療は無理むりなのよ。

 貴方は優先ゆうせん順位じゅんいひくいから、我慢がまんしてね。

 アリス、エンド。

 二人とも、ブルーメをれ戻してくれてありがとう」

 先谷先生は、タオルケットを頭からかぶって簡易かんいベッドの上でまるまっている、ブルーメを見守みまもっている。

 はなしをするわけでも無く、でてやる訳でも無く。

 ただ、そばにいてあげる。

 そんなことじゃ、なに解決かいけつしないのに。

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