7話 静かな夜の霜降りイチゴ(前編)(石橋 月親視点)

 いよいよ明日あしたはクリスマス・イブ。

 幼子おさなご降誕こうたんいわ宗教行事しゅうきょうぎょうじ

 世界平和せかいへいわおもう日。

 だから、今日きょうはクリスマスの準備じゅんびをする日。

 夕食後ゆうしょくごにスポンジケーキをく。


 午前中ごぜんちゅうはブルーメがケガをしてりょうもどってた。

 ケガは【ウミック】の雷撃らいげきおそわれたあかしあおひか傷跡きずあと

 夕方ゆうがたまではベッドでいじけていた。

 気持きもちをえられたのかな。

 いま普通ふつうに、おはな出来でき状態じょうたい


 ちなみに、今年のクリスマスは最悪さいあく

 日本政府にほんせいふ国民こくみんたいして、クリスマス関連かんれん消費自粛しょうひじしゅくをおねがいしているせい。

 むかしながらの、サンタクロースのかざりもし。

Merry Christmasメリークリスマス」のチョコプレートも無し。

 プラスチックせいヒイラギの飾りも無し。

 トッピングのイチゴも無し。

 ホイップクリームも飾らない。

 じゃあ、スポンジケーキはどうかって?もちろん、あのやわらかいフワッフワの生地きじも無し。


 わりに、日本政府からは国民へ「世界平和文化ぶんか維持いじしょくそう菓子がし)」という名前なまえ配給はいきゅうされるブツがある。

 スポンジ・ベリーけい・チョコレート・クリーム・スポンジの五層ごそう構造こうぞう

 そう、断面だんめんだけはキレイにえるブロックタイプの予備食よびしょくおなじだ。


 ただし、事前じぜん予約よやくをしておかねさえはらえば、ホールケーキがえる。

 シンプルなイチゴジャムのクリスマスケーキ(五号)で、三万円。


 個人的こじんてき旧式きゅうしきクリスマスケーキとして、デコレーションりを購入こうにゅうすることはみとめられているけれど。

 ものすごく高額こうがく

 本物ほんもののゴロゴロッとしたイチゴがトッピングされている旧式クリスマスケーキ(十八号)は五万円。


 ただし、冬期とうき魔習まならいのいえ福利厚生ふくりこうせい士気しきたかめるために、クリスマスケーキを事前購入予約しているところがおおい。

 大蕗おおぶきりょうはきちんとした台所だいどころがあるので、スポンジ生地から手作てづくりしてオーブンレンジでいていた。

 トッピングのイチゴは最寄もよりのスーパーマーケットで事前予約をませていた(バンクカウンセラー様様さまさまだ)。



 トローッとしたスポンジの生地を、まあるいケーキがたなかけてらしていく。

 ゆるい生地だから、つつかなくても、ケーキ型の中でたいららにおさまっていく。


 オーブンはどもじゃあぶないから、バンクカウンセラーの先谷さきたに先生せんせい天板てんばんにケーキ型をのせて、オーブンへしこんだ。

 180く。

 十分もするとあま熱気ねっきが一階にただよってくる。


 それから、四十分は焼いたかな。

 くしして、トロリとした生地はついてこなかった。し。スポンジがなまでは無くなった。


 粗熱あらねつを取ったら、型からスポンジを取り出す。

 上部じょうぶそこの焼きをそれぞれナイフでいでいく。

 おうちではママがちゃんと削いでくれてた。これを削がないと、ひんのあるケーキにならないんだって。

「はじっこ!はじっこ!」

 エンドがれた手つきで削ぎおとしたスポンジの焼き目のはしをルナがゲット!

「ルナ、お行儀ぎょうぎわるい」

「まだ、クリームをらないんですか?」と元気げんきの無かったブルーメも、たのに先谷先生に質問しつもんしている。

「クリームはあぶら熱々あつあつの焼きたてスポンジにのせたら、ジュワ~ッてけちゃうよ。

 粗熱をとるために、一晩ひとばんかけてまそう。

 明日、クリームと果物くだものはさむから、楽しみしてて」

 小躍こおどりせずにはいられない。

 スポンジケーキの切れ端はげ目がついていて、切り落とされる。

 こういうをつまみいするのが楽しいのに……。


 ルナは我慢がまん出来ずに、冷蔵庫れいぞうこあさる。

 あれ?

 ケーキの切れ端のほかに、もう一つのつまみ食い予定のイチゴ。イチゴのパックが冷蔵庫のどこにも無い。

 でも、何故なぜか、パイナップルの缶詰かんづめやされている。

「冷蔵庫にイチゴのパックが無いよ?

 何で、パイナップル?」

 最悪さいあくだ。

 先谷先生は缶詰のフルーツでクリスマスケーキを誤魔化ごまかすつもりなんだ。

「パインなんて、いやだ!

 イチゴがい!」

上段じょうだん段のスポンジのあいだに挟むイチゴジャムしかもう無いの」と先谷先生に言われた。

 しんじられない。

「やだ!やだ!」

「ルナ、台所でさわがないで。危ないでしょ」とエンドにおこられても、なみだまらない。


 ルナのごえいて、一階の通信つうしんしつでセッティングしていた涙堂るいどう先生もやって来た。

「イチゴはスーパーで事前予約でしたっけ?」とやる無さそうにとりあえず先谷先生に確認を取るだけ。役立やくたたずな涙堂先生。

「クリスマスケーキようイチゴ栽培さいばいハウスが【ウミック】空襲くうしゅう全壊ぜんかい半壊はんかい

 みなみ硝海道しょうかいどうのイチゴ生産せいさん十歳ととせ産が多いそうです。

 事前予約が店側みせがわから一方的いっぽうてきされました」

 イチゴがべられないことはわかった。

 でも、ルナはイチゴを食べたいの!

「イチゴショック。

 混乱こんらんおこさないために、問題もんだいの無い在庫ざいこ首都しゅとけん優先ゆうせん輸送ゆそうですからね。

 それにイチゴの出荷しゅっかが出来ないのは、国防こくぼう北部ほくぶ方面部ほうめんぶのミスですから、仕方しかたがありません。

 中央ちゅうおう東西南とうざいなんのせいではありません」

「先谷先生、ちなみにデパートは?」エンドがいてくれた。エンドだって、やっぱりイチゴが気になるのね。うんうん。

連絡れんらくしたけれど、つながらなかった。

 きゅうな予約が殺到さっとうして、通信回線がパンクしたみたい」

 先谷先生はもう方々ほうぼうに電話するは無いみたい。

 この先生は、ルナたちが頑張がんばって【ウミック】をたおつづけてるのに、あきらめたんだ。

 ずるい。


 クリスマスに、イチゴがトッピングされないケーキなんて、いらない。

 ひどい。

 ルナ、頑張ったのに。

 魔習いなんて、嫌なのに。

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