12話 はじめての行進(前編)~橋の向こう側は第二防区~(石橋 月親視点)

 22時53分。

 ルナと、エンド、ブルーメの三人で涙堂るいどう先生せんせいから命令めいれいけた。

新型しんがた兵器へいき誘導ゆうどうするための座標ざひょう情報じょうほう新欧州連合ネオユーロぐん送信そうしんしているフランスせい魔銃まじゅう所有者しょゆうしゃ仮宮村かりみやむら 女光々クララ飾戸かざりど紫陽花あじさい寮生りょうせい)を保護ほごしようね」

 簡単かんたんなことじゃい。

 それに、エンドはサブ装備そうびとして、狙撃そげき魔銃もかついでいる。

夜目よめくルナが先頭せんとうのほうがいとおもう」

「ルナが一番前?じゃあ、エンドが一番うしろ?」

後衛こうえいはわたしがやる。無防備むぼうびな狙撃へいまもらなくちゃね。でも、サブ装備の出番でばんが無いと良いね」


 エンドはキリッとしたかおでルナとブルーメに指示しじす。

「五分で準備じゅんびして、玄関げんかん集合しゅうごう

 新欧州連合ネオユーロがクララちゃんをころすか人質ひとじちにとるか、再利用さいりようするかわからない。

 保護したあとは、大蕗おおぶき寮にもどる」

 せっかく作業服さぎょうふく防寒ぼうかん服をこんだけれど、本日ほんじつ最後さいごのトイレタイムでもう一回

 一階のトイレを順番じゅんばん使つかった。


 陸戦りくせん。もっとせまかただと、「たい空戦くうせん」。地上ちじょうにいながらそらにいるてきや空からってる兵器をやっつける。

 でも、エンドは「対人たいじん市街地しがいち戦」も想定そうていしている。


「何で、冬期とうき魔習まならいに、サブで狙撃装備そうびちこんでるの?」とブルーメは我慢がまん出来ず、エンドにいている。

「アンビシオン系列けいれつでは、陸軍りくぐん狙撃兵をそだててるの。わたしもそうなるよう目指めざしてた。

 狙撃魔銃は背負せおえるから、にしないで」

 二人とも、ルナに全然ぜんぜん注目ちゅうもくしてない。


「いや、いや、二人とも。ルナの【ラダー】融合体ゆうごうたい無視むし

 ルナだって、融合兵候補こうほだよ!

 すごいでしょ!」

 ……全然、すごくないって気持きもちが二人からつたわって来る。

「うん……でも、狙撃魔銃のほうが迫力はくりょくあるから」

 ルナの融合体パンパス。コイツ、フワッフワッしてるだけだもんね。しかも、融合体は平時へいじのとき、出現しゅつげんしないもん。狙撃魔銃みたいに、背負うもんでも無いし。

 有事ゆうじのときだけ出て来て、【ウミック】をっちゃうだけ。

 魔銃は【ラダー】を守るためのから

 魔銃は【ラダー】をしばるための拘束具こうそくぐ

 魔銃といううつわからび出した【ラダー】はひとと融合出来る。そして、融合体を宿やどした人は、融合兵以外、「魔銃がい患者かんじゃ」としてあつかわれる。



 23時00分。

 寮の正面しょうめん玄関げんかんもったゆきを雪かきで簡単かんたん除雪じょせつする。玄関ドアがひらくように、歩道ほどうへの動線どうせん確保かくほ

 大蕗寮の前の歩道は、おとなりさんが一生懸命いっしょうけんめい除雪をしてくれていた。

大森おおもりさん?

 まだ、避難ひなんしてなかったんですか?」

飾見坂かざりみざかのおうちにはそれぞれ、地下室ちかしつがあるから、避難所へ行かないのよ。

 先谷さきたに先生は地下室ね?」

「はい」

貴方あなたたちはたたかうってめたのね?」

「はい」

「いってらっしゃい。

 かならかえって来るのよ」

 大森さんがルナたち一人一人をきしめて、おくり出してくれる。でも、このさむささで大森さんのぬくもりはかんじられなかった。



 飾戸市上区かみく飾見坂四丁目十ト十一狭間はざま番地ばんちから、坂道さかみちくだっていった。

 街灯がいとう意図的いとてきされ、おおきな交差点こうさてんにある信号機しんごうきあか信号が点滅てんめつしているだけ。あお黄色きいろ、赤の変化へんかは無し。

 くるまはしっていない。

 ジョギングしている人もいない。

 住宅街じゅうたくがいけると、学校施設がっこうしせつ

 そして、普通ふつうはしと普通のかわ

 普通じゃない、バリケード。

 警察けいさつ消防しょうぼうもいない。

 ほかにあるのは「【ウミック】襲来しゅうらいのため通行つうこうめ」とかかかれた大きな看板かんばん

 第三次世界大戦でえぐられた川やちたはしなおしてはある。


 夜空よぞら見上みあげると。

 青くギッラギッラひかくも……じゃ無かったクラゲがたの【ウミック】のれの切れ間。

 そこから、そら飛行機ひこうき騒音そうおんが聞こえた。

 いま国家こっか行動こうどう宣言せんげんと、特別とくべつ臨時りんじ軍事ぐんじ作戦さくせん、避難命令ちゅう

 日本の民間みんかん航空機こうくうきは飛ぶはずが無い。かといって、日本空軍の戦闘機せんとうき高速こうそくで飛びけて行くおとともちがう。

きゅうドイツ民間航空機?

 まだ、飛べてたの?」

 でも、飛行機は目視もくし出来ない。背負っていた狙撃魔銃の望遠ぼうえんスコープをのぞいてみるエンドにも見えていない。

「ドイツだけじゃ無くて、ヨーロッパの古い民間航空機。

 カラーリングをイジッて、イギリスとフランス等々とうとう諸外国しょがいこく山分やまわけしたはず。

【ウミック】のおとりに使えるの。もともと、クラゲ型【ウミック】は敵軍の戦闘機や偵察ていさつ機をからめとってこわ役割やくわりあたえられてたって聞いたことがある。

 寒空さむぞらなかで、燃料ねんりょうやしてタービンまわしてジェット機を飛ばしてるでしょ。

 だから、アリスも偽熱ぎねつ発射はっしゃして、【ウミック】が熱に反応はんのうしている間に回避かいひ行動こうどうってた。

エンドも、ルナも。あらがすべがある日本の、まれでかなりとくしてるのよ」


きゃくせなくなった古い飛行機も再利用さいりようする価値かちがある。

 ヨーロッパ大陸たいりくいてる大型【ウミック】をって、大陸間たいりくかん飛行して、日本上空へ廃棄はいきする。

 世界せかい最大さいだいの【ウミック】処理場しょりじょう。それがきた北海道ほっかいどう外資系がいしけいリゾート開発かいはつ地区ちく地下ちかにあった。でも、そこが受け入れをやしぎて、爆発ばくはつ事故じこきた。

 増え過ぎた【ウミック】は北の大地だいちくってしまった。

 日本国防空軍が破壊活動をしているのは、余所よそくにてていく未確認みかくにん疑似ぎじ生物せいぶつ兵器。

 おなじことは北米ほくべい大陸のアラスカにも言える。大西洋たいせいようからアラスカへ捨てる。

さあ、ルナ。進むわよ」

 エンドは狙撃魔銃を背負いなおして、いつも使っている魔銃のリアライズをかまえる。

 モタモタしてないですすめってことね。はい、はい。

 ルナは先頭なので、安全あんぜん確認かくにんしつつバリケードを突破とっぱして、前進ぜんしんする。


「もう、世界のどこにも捨て場が無いから、『効率こうりつ良く処理しょりしている日本』にしつけていたけど。

 新欧州連合ネオユーロ軍が日本しき処理施設は安全性が高過ぎて効率悪い施設を破壊しに来た」

 エンドは橋の中間ちゅうかんに来て、橋梁きょうりょうにリアライズをちかづける。

「上区・中央ちゅうおう区に接続せつぞくする橋はすべて、【ラダー】のものを利用している。だから、【ウミック】の大量たいりょう襲来しゅうらいにも、しのげるんだ」

 魔銃と橋が【キーンキーン】と共鳴きょうめいう。


 世界は【ウミック】でみちちている。

 きた硝海道に続いて、南硝海道も放棄ほうきさせる。日本国防空軍北部ほくぶ方面部ほうめんぶ撤退てったい時間じかん問題もんだい

 新欧州連合ネオユーロ軍の新兵器が飾戸へ侵攻しんこう


「ドイツ再興さいこう支援しえんしていた国々くにぐにうちの一国が日本。日本がたくさん支援したけど、日本がつぶれる前に、ドイツが日本を捨てた。

 新欧州連合ネオユーロにらまれながら、日本と仲良なかよくするのはそんでしょ。

 これで、もう、ドイツは国じまいして、本当ほんとうに無くなっちゃった」

 ブルーメは除雪作業がんでいないはしの歩道で転倒てんとうしかけて、エンドにささえてもらう。


最新さいしん処理施設を建設けんせつするのには、やすくてこわれない旧型きゅうがた処理施設は邪魔じゃまなの。

 だから、世界中せかいじゅうの処理施設を潰してまわってる。

 新欧州連合ネオユーロはイギリスの地下処理施設もこわわってる。イギリスはもう、川がまっちゃうから、【ウミック】をうみに捨ててた」

 ブルーメはまだキレイなままの飾戸市の川を橋の欄干らんかんに近づいて見下みおろしながら、作業ぐつ靴底くつぞこみぞにくっついた雪を落とす。


「日本主導しゅどうでのドイツ再興をこばんだ。

 日本にはまだ旧型地下処理施設がある。

 新欧州連合ネオユーロ主導のドイツ再興および全世界への新型処理施設普及ふきゅう事業じぎょう着々ちゃくちゃくすすんでいる。イギリスは反発はんぱつしたから、新型処理施設が建設けんせつされないまま」


 新しいシステムや兵器、処理施設を導入どうにゅうするか、しないか。

 そんなことでめに揉めて、第四次世界大戦が始まっちゃう。

 本当に最悪さいあくだ。


「旧型【ラダー】と新型【ラダー】のちがいは?」

「旧型は完全かんぜん無害むがい浄化じょうか処理施設。

 でも、第四次世界大戦あるいは第五次世界大戦には、【ウミック】の供給きょうきゅうおくれて、使いたしてしまう。【ウミック】の需要じゅようをどうコントロールして、兵站へいたん補給ほきゅうをしていくか。

 そのためには、破壊した【ウミック】を再利用するしか無い。

 でも、破壊された【ウミック】はうごけない。粗悪そあくな【ウミック】を使うことにしたみたい」



 橋のこうがわへ行くために、規制線をまたいだ。そして、対岸たいがんの規制線も跨ぎ終わった。

 橋をわたり切った。

「通行止め」のて看板と、「地下へ避難しましょう」という規制線にも、【ウミック】がせまってきている。


 もう、上区じゃ無い。第二ぼう区。

 でも、先に進めない。

 目の前には、落下して来る【ウミック】が雪のように積もった、【ウミック】のかべが出来上がっていた。

 迂回うかいするか、どうするか……。


 低空にはクラゲ型の【ウミック】がたくさんただっている。居心地いごこちわるそうに、だんだんと圧縮あっしゅくされていってる。

 どんどん、【ウミック】が空から落ちてきている。


 その【ウミック】の群れが青くチカチカッとかがやいた直後ちょくごおくれた大人たちの悲鳴ひめいが聞こえる。

 中には避難所へ避難しない人もいる。

 ペットをってる人。

 人混ひとごみが駄目だめな人。


 それでも、わたしたちは飾戸ノ紫陽花寮へいそがなければいけない。

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