12話 はじめての行進(後編)~パンパスが揺れている~(石橋 月親視点)


「パンパスがらぎつづけるだけ」


 はしわたってすぐ、大量たいりょうのクラゲがた【ウミック】の山々やまやま車道しゃどうふさがれていた。

 でも、ルナがそうとなえると、またたに【ウミック】が消失しょうしつしていく。

 しろなパンパスが出現しゅつげんし、【ウミック】に揺れるだけで浸食しんしょくし、消滅しょうめつさせる。

 きスペースがあると、すぐそらからちてる【ウミック】にまたみちもれてしまう。

 仕方しかたいので、パンパスでトンネルをってしまう。

 トンネル上部じょうぶのパンパスめがけて落ちて来た【ウミック】は一瞬いっしゅんにしてなくなる。


 ルナは魔銃まじゅうがい患者かんじゃでは無い。魔銃過敏かびんしょうや魔銃嫌悪けんお症でも無い。

 アリスみたいな魔銃害患者は、「適性てきせいの無い魔銃(相性あいしょう最悪さいあく)」による融合ゆうごう合意ごうい無い侵食しんしょくによる体質たいしつ変化へんかや魔銃過敏症をかかえている。

 ルナは魔銃融和ゆうわ症。完全かんぜん融合の魔銃融合症よりおとっている。すぐれていない。

 いところは、どんな魔銃でも使つかいこなせるところ。

 わるいところは、どんな魔銃も誘引ゆういんしてしまうところ。

 だから、ルナはほか一緒いっしょ魔具まぐ演習えんしゅうをすることが出来なかった。指導しどうしてくれる先生の魔具も「誘惑ゆうわく」してしまった。

 ルナのおねがいを絶対ぜったいいてくれる【ラダー】。だからこそ、【ウミック】も一気いっき破壊はかい出来てしまう。


「これでも、【ラダー】をコントロールする範囲はんいひろくなったから、誘引することも無くなったよ」

「それって、わたしの狙撃そげき魔銃にも『て・おすわり・お・おかわり』を仕込しこんだってこと?」

「狙撃魔銃は厳重げんじゅうにエンドの部屋へや保管ほかんしてたんでしょ?

 全然ぜんぜん気づかなかったよ。今夜こんやまで」

本当ほんとうに?」

「うん、本当」


「じゃあ、紫陽花あじさいりょうまで行こうか。みなみだね」

きた、北。きた

「ブルーメ、どっち?」

「こっちよね、ブルーメ!」

きゅう月野つきの公園こうえん今年ことしみなみ飾戸かざりど児童じどう魔具まぐ演習場えんしゅうじょうとしてオープンしたの。クララの魔習まならいのいえはそのちかく」

少年しょうねん魔具競技きょうぎかいの飾戸会場かいじょうだったわ。

 行ったことあるもの」

「アンビシオンきたしょうはバス遠征えんせいじゃん。ってことは遠回とおまわりして、団体だんたいバス駐車場ちゅうしゃじょうったんだよ。ここの施設しせつ駐車場、デカいから駐車場も敷地内しきちないすみらばってるんだ」


端末たんまつ地図ちずアプリが使つかえなくなった!エンド、どうしよう!」

「ブルーメ、落ち着いて。これは【ウミック】の壁のせい。

 でも、ルナは余力よりょくのこしておいて。やっぱり、自力じりきで寮まで行かなくちゃ」

全然ぜんぜん平気へいきだよ」

かえるときも、またルナのパンパスが【ウミック】をくさなきゃ、大蕗おおぶき寮にはもどれないでしょ。

 だから、ルナ!無理むりしないで!もう、たおれてもらないわよ!」


 パンパスを蹴散けちらし、まえへ、前へ。

 フワッフワッのみちうごいている。

 空港くうこうにあるエスカレーターの動く歩道ほどうみたい。

 どんどん進んでいく。


 パンパスがオレンジ色に一瞬まった。

 エンドはパンパスのトンネルに狙撃魔銃を突っこんで、望遠ぼうえんスコープでのぞいている。

せて。

 パンパスのなかまって。

 大人おとながいる」

火事場かじば泥棒どろぼう?」

 でも、パンパスに直接的ちょくせつてき被害ひがいは無い。だって、パンパスのトンネルは、空中浮遊くうちゅうふゆうだもん。


「エンドの狙撃魔銃って高価こうかなんじゃない?」

「これは陸軍りくぐん幼年ようねん学校がっこう仕様しよう軽量けいりょう特化とっか価値かち無し。

 あの人たち、アンビシオンの先生たちの気配けはいあるかたてる」

「アンビシオンって軍人ぐんじん再雇用さいこよう促進そくしんしてるでしょ。じゃあ、正体しょうたい不明ふめいのアイツ等さんは軍人かもと軍人?

 なん邪魔じゃましちゃったルナたち、ころされちゃうの?」

仲間なかまでは無いのはたしかだね。

 だって、わたしたちはクララをけに行くグループ。

 目障めざわりなのね」

「ブルーメ、かなわない相手あいてよ。

 とにかく、ここは子どものりをして、前進あるのみ」



「あれ、何?」



 たことの無いしろひかりはしら何本なんぼんしたから真上まうえかって、のびている。

 まるで、光の雑木林ぞうきばやしだ。

 でも、不思議ふしぎなことに、ほんの一区画ひとくかくしかひかってない。

「光をけて、クラゲ型の【ウミック】が落ちて行ってる。

 はしのときと一緒いっしょだ」

「じゃあ、あの光は【ラダー】が発光はっこうしているの?

 あれ?端末の電波でんぱ受信じゅしん回復かいふくしてる。

 あそこの家から、新兵器しんへいき誘導ゆうどうする座標ざひょう情報じょうほう発信はっしんしているんだ」

 あと、少し。

 この防風林ぼうふうりんの上をければ、演習場敷地がい


「ここからはパンパスのトンネルを使つかわずに前進しよう」

 エンドの指示しじで、パンパスのゆるやかなスロープを作って、雪道ゆきみちりて行く。


 目のまえにはおおきな道路どうろ

 歩行者ほこうしゃよう横断歩道おうだんほどう信号機しんごうきしボタンに何度なんどれるけど、信号機は無反応むはんのう

 仕方無いので、左右さゆうからくるまが来ていないことを確認かくにんして、わたる。


 除雪じょせつ雪山ゆきやまけて車道しゃどうへ出る。

 車道片側かたがわ二車線にしゃせん中央ちゅうおう分離帯ぶんりたい、また片側二車線をなな横断おうだん

 除雪の雪山をまた避けて歩道ほどうに入る。



 四階ての魔習まならいのいえ

 表札ひょうさつには、「紫陽花あじさいりょう」とある。

 周囲しゅういの雪には、魔習いの家にふさわしくないあか茶色ちゃいろよごれた雪。

 何かがこった痕跡こんせき


「クララ……ひどい……」

武装ぶそう解除かいじょして!

 ルナはパンパスの融合をけるだけ、解いて」

 エンドの注意ちゅういしたがって、ルナたちは一斉いっせいに魔銃を解除する。


「こちらは飾戸ノ大蕗寮生三名です」

 エンドのびかけにたいして、かすかなうごきがあった。

 でも、友好的ゆうこうてきな動きでは無い。

 正面玄関しょうめんげんかんのドアの隙間すきまから、機関銃きかんじゅうを向けられていた。

 人をきずつけることが出来る、普通ふつうの銃だ。


「南飾戸陸軍駐屯地ちゅうとんち方々かたがたですね?

 浮島うきじま えんど世界せかいです。先日せんじつは狙撃演習場を利用りようさせていただき、ありがとうございました」

きみうわさになってた狙撃ちゃんか。

 なかへ入りなさい」

 隙間から銃口じゅうこうえた。



 ルナたちはゆっくり正面玄関へと近づき、中へ入る。

 廊下ろうかには、流血りゅうけつしてガタガタえている陸軍兵一名と正面を守る二名。のこる三名は魔習いの家の裏手うらて警戒けいかいしているようだ。

「子どもたちは地下室ちかしつだ。何者なにものかにたれたソイツはもうあきらめるしかない」と、小隊しょうたい隊長たいちょうのような人がエンドにはなしかけ、談話室だんわしつ案内あんないしようとする。

 でも、エンドは躊躇ためらわずにこしのポーチから修復しゅうふくフィルムをり出した。

「それじゃあ、りないし。我々は子どもたちにすべ使つかってしまったんだ!」

購入後こうにゅうご邪魔じゃまにならないように、ロールを解いて、蛇腹じゃばらりたたんでいます。全部ぜんぶで六まきありますのでご心配しんぱい無く。

 今からでもこの人に修復フィルムをけば、応急おうきゅう処置しょちになります」

「君たちの命綱いのちづなだ。もらえない」

「巻きます!」

 エンドはまるで、小学校の応急救護きゅうご実技じつぎテストみたいに、無駄むだな動き無い。

 陸軍へい血塗ちまみれのふくがして、修復フィルムを胸部きょうぶどう部・でん部にグルグル巻いて行く。

 すぐに、ガタガタ震えていた身体からだは落ち着く。


「わたしたちは『仮宮村かりみやむら 女光々クララちゃんを保護ほごして、大蕗寮へれて行く』命令めいれいけています」

「大蕗寮は空軍しょくつよい魔習いの家だね。

 我々は一時間前、『仮宮村かりみやむら 女光々クララちゃんを南飾戸駐屯地へ護送ごそうする』命令を受けていた。しかし、てき鉢合はちあわせするような結果けっかになってしまった」

「今回の連携れんけいミスは陸軍と空軍でクララちゃんをった結果でしょ。

 どうして、陸軍がクララちゃんをしがるの?

 空軍にまかせればかったのに」

「魔習い初日しょにち。陸軍鉄道てつどうって、冬期とうき陸軍実習生じっしゅうせい志願しがんした大学生dあいがくせいれた。そして、空軍にせきく、一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありす救助きゅうじょされて、『ありがとう』とれいを言った。

 メンツをつぶされた陸軍北部ほくぶ方面ほうめん上層じょうそうは、空軍主体しゅたいで第四次世界大戦を開戦かいせんするなど、ゆるせなかったんだ」

「我々はすでに、撤退てったい命令と南飾戸駐屯地への帰還きかん命令を受けている。

 修復フィルム、ありがとう。

 おかげで、コイツも連れ帰れる」



 談話室にクララちゃんたち紫陽花寮生が二十名ほどぞろぞろと入って来た。

「クララ」

「……」

「クララ、おともだちにおわかれの挨拶あいさつをしましょう」

「クララちゃん、行っちゃ駄目だめ!」

「そうだよ!そとあぶないよ!

 また、【ウミック】の触肢しょくしでビリビリするって!」


 でも、有無うむわさないブルーメの一睨ひとにらみで、寮生は大人おとなしくなった。

「紫陽花寮の皆さん、クララとお友だちになってくれてありがとう。

 クララはあねのわたしが所属しょぞくする魔習いの家にうつります。

 さようなら」

 クララちゃんは「きたくない」とは言わなかった。

 でも、「行きたい」とも言わなかった。


「こちら、ブルーメ。涙堂るいどう先生、こえますか?

 無事ぶじ、クララを保護しました。

 これより、帰寮します」


「あっ、聞こえた。聞こえた。電波障害しょうがい、酷いね」

 ルナたちの背後はいご突然とつぜん大人の気配がする。

 そして、このこえ

 涙堂先生だ。

小山田おやまだくんおそいよ」

 陸軍兵の「小山田君」とばれた人が機関銃をかまえるけれど、遅かった。

 涙堂先生は容赦ようしゃなく、小脇こわきかかえたクラゲ型【ウミック】の残骸ざんがいを小山田さんの顔面にげつけた。


23時59分フタサンゴキュウ

 パンパスのみち特殊性とくしゅせいたかい。徒歩とほよりはやいね。

 さあ、帰寮の時間じかんだ」

 一時間もあるいてたんだ。

 ……何だろ?

 すごく、ねむい……。

いよ。

 帰りは僕が運転うんてんするくるまで帰ろうね」

 涙堂先生のやさしい声と、修復フィルムのにおいがした。

 くすりくさい。

 病院びょういんより病院みたいなにおい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る