12月25日

13話 悪友こぞりて(前編)(浮島 終世界視点)

 ルナが操作そうさしていた【ラダー】のパンパスが消失しょうしつした直後ちょくご、ルナが魔銃まじゅうにぎりしめたままたおれた。

「ルナちゃんの【ラダー】が魔油まゆれをおこしただけだ。装甲車そうこうしゃにルナちゃんをはこぶよ」

 涙堂るいどう先生せんせいのはだけたYワイシャツからのぞいている修復しゅうふくフィルムからはがにじんでいる。とてもじゃないけれど、ルナをかつぐなんて無茶むちゃだ。


「涙堂先生、無理むりしないでください」とブルーメを担ごうとしてよろめいた涙堂先生をきとめる。

って。

 ここに、てきった形跡けいせきがある。

 屋内おくないでの銃撃じゅうげきせん

 かえしたのはだれ?」

 血痕けっこんい。廊下ろうかかべと、地下室ちかしつつづくドアには、銃弾じゅうだんがめりこんだあと

「わたし、小川おがわです。いざとなれば、抗戦こうせんするようにめいじられていました」

 紫陽花あじさいりょうのバンクカウンセラーの小川先生が左手ひだりて挙手きょしゅをした。みぎ手にはまだ、拳銃けんじゅうにぎられている。


「涙堂先生とおなじ、普通ふつうのバンクカウンセラーじゃないってことですね。

 まずいですね。非常ひじょうによろしくないです。

 そして、みなみ飾戸かざりど陸軍りくぐん駐屯地ちゅうとんちみなさんがけつけて、なんぷんですか?」

「三十分もっていない。ニ十分程度ていどだ」と小田山おだやまさんが返答へんとうした。だけれど、くわしいはなしはしようとしない。わたしたちにってしいのだろう。

 彼等かれらだって、撤退てったいしたい。

 でも。


しん兵器へいき誘導ゆうどうちゅう

 軍事ぐんじ衛星えいせい陸上りくじょう新欧州連合ネオユーロぐんはどちらからも監視かんちはするはずだけれど、『クララちゃんをいまさらうごかす』って、どこに?

 おかしい。

 なにかがおかしい」

 新欧州連合ネオユーロぐんけい外国がいこくぐんであり、なおかつ、誘導を阻止そししたいならば。そもそも、どもにかって発砲はっぽうしない。情報じょうほうして、座標ざひょう情報を発信はっしんしている「ブツ」をこわせばい。


「エンド、かんがぎじゃい?」

 ブルーメは涙堂先生をささえきれず、廊下に二人でしゃがみこむ。


新欧州連合ネオユーロぐんやどわれた傭兵ようへい、あるいは義勇ぎゆう兵。

 誘導が失敗しっぱいすれば、【ウミック】地下ちか処理しょり施設しせつ以外いがい誤爆ごばく

 誤爆の損益そんえきなんだ?

 そして、その損益をえる、『誤爆の利益りえき』はなんだ?」

 かんがえても、考えても、こたえがない。


「さあ、エンド!

 大蕗おおぶき寮へかえらなきゃ!

 ここに居残いのこれば、新兵器がちて来るのよ!涙堂先生を運び出すの、手伝てつだって!」


「クララちゃんの魔銃と充電じゅうでんちゅう端末たんまつは?」

「寮に残して、クララ以外いがいの紫陽花寮生は駐屯地で保護ほごするって」

「ごめん、ごめん。修復フィルムをきつくぎていたみたい」

 涙堂先生が今度こんどはしっかりがって、ルナを担いで、裏戸口うらとぐちから装甲車そうこうしゃへとスタスタあるいてく。

 助手席じょしゅせきにルナがしこめられた。


 クララちゃんをせたブルーメは装甲車のうしろのドアからみぎ後部こうぶ座席ざせきりこむ。

 わたしもひだり後部座席にすわる。

陸戦りくせんなら、アリスよりわたしのほうにがある。

 そとまかせて」

「エンドちゃんはおねーちゃんの……おともだち?」

 いつもならねむっているはずのクララちゃん。もう、お目目めめがトローンとしてた。あねのブルーメに再会さいかい出来て、安心あんしんして、緊張きんちょうれてしまった。

「友だちなんかじゃ無いわ。

 同じ寮のメンバーってだけ」


「エンドちゃんがおこると、おっかないよ。

 クララちゃん、だまっておきなさい」

 涙堂先生が後ろをいてクララちゃんに微笑ほほえみかけ、発進はっしんさせようとした。

 アクセルをんだ瞬間しゅんかん、ブレーキをかけた。ガックンと車体しゃたいとわたしたちの身体からださぶられた。


こわいサンタさん、また来た」


 クララちゃんが窓から姿すがたかくすように座席のしたでうずくまる。

「え?なんで、サンタ?」

「さっきも怖いサンタさんが来て、みどり兵隊へいたいさんがはらったの。

 銃しつけられて、いたかった」


 涙堂先生は装甲車から下りて、拳銃けんじゅうかまえる。

 銃を構えたさきには、血塗ちまみれのひとが銃を構えている。

 わたしもそとに出て、狙撃そげき魔銃を構える。銃の先は上空じょうくう。【ウミック】を撃ち落として、てき頭上ずじょうらせる準備じゅんびととのった。


「子どもにちかづくな、変態へんたいども!」


「涙堂先生。人を撃ったこと、あるの?」

射撃しゃげき訓練くんれんけている」


 でも、一発も撃って来ない。

 わたしたちよりも背後はいごを気にして、こちらに退避たいひしたがっている。

 装甲車にかくれたがっている?

 敵じゃない?

 でも、クララちゃんが『銃を押しつけられて痛かった』って言った。どういうこと?


 視界しかいにキラッキラッのなにかがうつる。

 ブルーメが23にちていた跳躍ちょうやくふくと同じいろ水色みずいろ透明とうめいはい色のたい【ウミック】迷彩めいさい

「カナダ空軍くうぐん・イギリス空軍仕様しようの跳躍服!」とブルーメも、装甲車後部座席の窓からて、そうさけんだ。



「ハンネル先生!アラスカに出稼でかせぎにったんじゃ無かったの?」

 ズシンッ。

 心当こころあたりがあるい、ハンネル先生が拳銃を構えながら装甲車の真上まうえ降臨こうりんした。

 さっき受けったメッセージの出だしには、「こちらは、極寒ごっかん北極圏ほっきょくけんです」だったのに。


おれはもう、あたらしい戦争せんそう最前線さいぜんせんにはついていけない。

 それに、クリスマスだ。

 我等われら次世代じせだいあたえられるものがあるなら、与えよう」

 ハンネル先生は装甲車のルーフからび下りて、血塗れの敵五人を一人一人殴なぐたおした。


 かおかくしていた目出めだぼう。スカーフ。マフラー。手袋てぶくろすべがされていく。

 わたしたちとはちがう、ヨーロッパけい顔立かおだち。五人中一人、おんなもいた。

 女が、防寒ぼうかんのマスクをはずしたハンネル先生の顔をて、アジア人では無いとわかって、混乱こんらんしている。


「イギリスは新欧州連合ネオユーロ前身ぜんしん欧州連合ユーロ脱退だったいしている。ヨーロッパに足並あしなみをそろえる必要ひつようは無い」と、何かいたそうな女にくぎした。


「俺がしたことをめるようなくに所縁ゆかりあるおうならば、日本へ亡命ぼうめいうだけだ。

 英連邦王国コモンウェルス・レルム弾丸バレットだ。

 メリークリスマス」

 はじめて人が人をころす瞬間を見る。

 それがハンネル先生がらずの「わたしたちをおそらく殺すかつかまえようとしていたグループ」の人たちを殺すなんて。


何故なぜたない!この野郎やろう!」

 グループのリーダーがニヤニヤわらっているハンネル先生におそいかかろうとする。でも、ハンネル先生はリーダーをかる足蹴あしげりして、大人おとなしくさせてしまう。


わるい子はサンタクロースのってるブラックリストに名前なまえっている。

 残念ざんねんだったな。

 遺族いぞくになれるはずだった御前おまえ家族かぞくに遺族年金ねんきんのプレゼントは無い。

 御前は捕虜ほりょとしてもあつかわれない。

 わかるだろ?」

 そうハンネル先生にわれても、リーダーもわたしもポカンとしている。


「日本政府せいふ宣戦せんせん布告ふこくされても、モタモタしているんだ。

 戦争はこの日本こくにおいて、まだはじまったことになって無い。

 つまりは、御前等は『戦争が始まっていないのにフライング』した。『十歳以下いかの子どもの身体からだ接触せっしょくした凶悪きょうあく小児しょうにせい犯罪者はんざいしゃ』だ」

 今度こんどはクスクス笑いだすハンネル先生。


性的せいてき接触は無い!」

 口々くちぐちに五人グループは反論はんろんし始める。


「子どものくちみみあなに銃の銃口じゅうこうを押しこんだ。立派りっぱせい被害ひがいだ。

 保護者ほごしゃ許可きょかなく、夜間やかん面会めんかいした。わいせつ目的もくてき以外に考えられない。だって、まだ戦争は始まっていないんだからな。消去しょうきょほうだよ。

 自殺じさつ予防よぼう一番いちばんきびしい司法しほう施設しせつめぐれるぞ。警察署けいさつしょ拘置所こうちしょ検察庁けんさつしょう裁判所さいばんしょ刑務所けいむしょ

 有罪ゆうざい服役ふくえき。刑務所出所しゅっしょからの強制きょうせい送還そうかんは、御前等の母国ぼこく軍法ぐんぽう裁判で証言しょうげんしてやる。パジャマ姿すがた裸足はだしの子どもたちをジーッと見続みつづけていたってな。

 いか?

 強制送還されても、御前等は絶対ぜったい不名誉ふめいよ除隊じょたいにならない。

 わかるだろ?

 軍法裁判にかけられても、御前の母国の軍では推定すいてい無罪むざいなんだよ。

 軽蔑けいべつでは無く、疑心暗鬼ぎしんあんき眼差まなざしだ。安心あんしんしろ」


ちがう!違う!違う!

 我々われわれにせの座標情報を仕込しこんで、こちらの本物ほんものの座標情報を破壊はかいしに来ただけだ!

 偽の座標情報はきた硝海道しょうかいどうりに仕かけた!

 破壊させてくれないか!

 時間じかんが無いんだ!」


「違うだろ。

 偽の座標情報なんて存在そんざいしない。

 御前が殺したかったのは、いもうとじゃない」

「そうだ!子どもなんか、殺さない!」

 リーダーがたすけを乞うようにハンネル先生ににじりる。


「その車の中にいるものりたいから、もどって来たんだろ?」


 狙撃魔銃を両手りょうてから落としかけたわたしは狙撃魔銃をきしめたまま、もうまえを見ることも、左右さゆうを見ることも出来なくなって。ただただ、したいたままかたまった。


「おいおい、俺の頭上に【ウミック】を降らせる場面ばめんだぞ?

 エンドはあまいな。激甘げきあまだ」

 小言こごとらしながら、金属きんぞくのシャベルをひろったハンネル先生は起き上がれない五人の両膝りょうひざを左右それぞれ滅多めったちにして、粉砕ふんさいしていく。


「ルイ。まよったら、子どもがぬぞ」

「私に撃たせたくなかったんでしょ?

 ここで、Mrミスターハンネルが撃ったほうが『混沌カオス』をびこめる」

 涙堂先生は否定ひていしてくれない。淡々たんたんと、犯罪はんざい集団しゅうだんグループを、だまって見ていた小山田さんにたくす。


「紫陽花寮はそのうち全壊ぜんかい

 ルイは負傷ふしょう

 俺が装甲車を運転うんてんしてやっても良いが、それをモノクロアリス・イチジョーはみとめない。

 ほら、モノクロアリスによる増援ぞうえん足音あしおとだ」


 ハンネル先生は涙堂先生とおたが笑顔えがお握手あくしゅわした後、ジャンプだいも無しで、跳躍しようとする。

「……ハンネル先生!」

いまこたわせの時間じゃない。

 答えが用意よういされた問題もんだいとは違う。

 わかるね、エンド?」


 ハンネル先生と一緒いっしょにはげられない。

 先生とわたしの所属先しょぞくさきが違う。国籍こくせきも違う。

 そして、先生はカナダ空軍をめた人。

 わたしはこれから日本国防軍にはいる人。

 これ以上いじょう親密しんみつに、劇的げきてきに、まじわることはあってはいけない。

 ハンネル先生は紫陽花寮の裏道うらみちから、跳んでいった。

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