13話 悪友こぞりて(後編)(浮島 終世界視点)

 どこにでもいるようなおじさん。

 防寒具ぼうかんぐ着膨きぶくれしている。

 でも、国家こっか非常ひじょう事態じたい最中さなか普通ふつう屋外おくがいあるいている。しかも、通信つうしん制限せいげん電波でんぱ障害しょうがい端末たんまつみみてている。

 だれかと電話でんわをしたまま、わたしたちにけてかる右手みぎてを振ってみせた。


「もしもし、アリスちゃん?

 うん、うん。無事ぶじだよ。

 わたし傷病しょうびょう退役たいえき軍人ぐんじん協会きょうかい飾戸かざりど支部しぶ忘年会ぼうねんかい出席しゅっせきしていたんだ。

 ……私が防空ぼうくうマンションの地下ちか避難所ひなんじょ運営うんえいしないのか?

 運営しないよ。

 私は平時へいじの防空マンション管理人かんりにん有事ゆうじさいしゃばれない。

 さあ、紫陽花あじさいりょうまえいたよ。

 きみ予想よそうどおり、新欧州連合ネオユーロの……とにかく、ヨーロッパけい軍人が日本にほん国防こくぼう陸軍りくぐんへい拘束こうそくされている。

 おそらく、仮宮村かりみやむらいもうと尋問じんもんするか人質ひとじちって、あねの仮宮村 婚姻こんいんブルーメをおびき出す計画けいかく。それが失敗しっぱいわったんだろうね」

 無言むごんで、涙堂るいどう先生せんせいがおじさんにあたまげる。


 フードをかぶったままのおじさんのわきからは白色しろいろでは無い、みどり色の救急車きゅうきゅうしゃがサイレンをらさずにび出してた。

「防空マンション風車かざぐるまとうもと管理人の室田むろたです。

 傷病退役軍人協会飾戸支部所属しょぞく

 ケガをした紫陽花寮魔習まならせい最優先さいゆうせん軍病院ぐんびょういん搬送はんそうさせます。

 こちらに、涙堂先生はいらっしゃいますか?」

「はい……」

「アリスちゃんから電話です」


 室田さんはスピーカー機能きのうONオンにしてから、涙堂先生に端末をわたす。

「もしもし、アリスちゃん?」

 <はい、アリスです。

 紫陽花寮閉寮へいりょうと寮生の受け入れさき調整ちょうせいんでいます。帰寮きりょうもと陸軍兵の室田さんにまかせて、涙堂先生も大人しく軍病院へはこばれちゃってください>

「僕が大蕗おおぶき寮までくるま運転うんてんしないと駄目だめだよ。

 室田さんが大蕗寮生を帰寮させて、空軍くうぐん基地きち装甲車そうこうしゃかえすなんて、たのめない」

かまいませんよ。

 涙堂先生をうしなうより兵材へいざいらすほうがこまりますから」と室田さんはしぶ表情ひょうじょうのまま。こういうときに笑顔えがおつくる涙堂先生とはちがう。



 わたしは左後部座席に戻り、室田さんは運転席にすわった。

 狙撃そげき魔銃まじゅうは車内で構えられないので、日中にっちゅう使つかっているリアライズを構えながらまどこうを警戒けいかいする。

 窓のハッチをけようとすると。

「エンドちゃん、やすんでいよ。

 べつ兵器へいきを装甲車のまわりに投入とうにゅうみ。

 車内しゃないで休んでてね」


「おじさん。それ、何?」

「アイスポット・ドローン。てき眼球がんきゅう位置いち把握はあくして、照射てんしゃするドローンだよ」

「しょーしゃ?」

つよくてまぶしいひかりで、銃をとうとしている人のを使えなくするんだ。

 旧々きゅうきゅうがた兵器だけれど、こういう移動いどうには最適さいてきなんだよ。

 移動中に私たちがんじゃわないように、ドローンが頑張がんばってくれるよ」



「照射の威力いりょくは?

 殺傷性さっしょうせいは無いんですか?」

「ロケット花火はなび程度ていどだよ」



 室田さんの運転する装甲車はおかしなくらいれなかった。

 車道しゃどうもった何体なんたいもの【ウミック】を蹴散けちらしているのに。

 もう、はしが見えて来た。

 もう、第二防区の境界きょうかいになっているかわ

 あの橋をわたれば、かみない

 今まで揺れていなかったのに、きゅう加速かそくして、橋を渡りった。

 それでも、装甲車のスピードがちない。

 川の近くに公立こうりつ小学校しょうがっこう開放かいほうされたままの通用つうようもんとおけて、川にけてっている四階校舎こうしゃかげかくれる。

 い影とあかるい、っ白なゆきもったグラウンド。

 グラウンドがダイアモンドダストみたいにキラキラしはじめた。

 まるで、一面がダイアモンド鉱山こうざんみたい。


「さらに強い光が来るよ。

 目蓋まぶたじて」

 地震じしん速報そくほうの「強い揺れに注意ちゅういしてください」みたいな口調くちょう

 最新さいしん兵器の【ラダー】のれが光のはしらになって、紫陽花寮の上空に滞空していた。あの【ラダー】の光より強い光なの?

みんな右腕みぎうでで目蓋をかくして、左腕ひだりうであたままもってせようね」

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