14話 わたしを許さない人(前編)

 03時18分マルサンイチハチ

 飾戸かざりど第二防区ぼうく紫陽花あじさいりょう上空じょうくう


 旧型きゅうがたの【ラダー】やしん型の【ヘリックスラダー】はまばゆひかりはな共通きょうつう特性とくせいがあった。


 真夜中まよなかぎて、そろそろそらあかるくなってくるころ……冬至とうじを過ぎたばかりで、は6時か7時か。

 ゆきくもりだと、日の出が何時なんじかわからない。

 北国きたぐにふゆはいつの間にかあかるくなっていく。

 ……でも、今日きょう冬空ふゆぞらじゃ無い。

 熱気ねっきひどい。

 この熱気はくろけむりといっしょに空へ空へのぼっていく。


 やっぱり、ふる爆弾ばくだん投下とうかされたんだ。

【ウミック】がっても、だい規模きぼ火災かさいきない。

 博物館はくぶつかんのジオラマでた、「大火たいか」みたい。

 滞空たいくうしているわたしの下は、えていないのに。中央ちゅうおう区・かみ区、第一防区から第四防区は爆弾がちていない。飛行ひこう禁止きんし区域くいきないはまだ安全あんぜん維持いじ出来ている。

 ただし山嶽さんがくさかさ山嶽さんがくはこの飛行禁止区域内上空にずっと展開てんかいしっぱなし。

 ものすごいねつけむり

 がってながれて来ても、【ラダー】融合兵ゆうごうへいのわたしは燃えないし、あつくないし、煙をうことも無い。


 建物たてものひと街路樹がいろじゅも。燃えて、くずれて、なにも無くなる。

 飛行禁止区域がいの第五防区から第九防区。それらの地下ちか避難所ひなんじょげた人の救出きゅうしゅつは、この火災の消火しょうか活動かつどう不発弾ふはつだん処理しょり活動で、今日から二週間以上いじょうはかかるだろうな。


「パパの魔具まぐたおしなさいよ!

 アンタはどうして、いつも、いつも上手じょうずにこなせないの!」

 ルチア・トウダイに言われても、こまるな。

 一条いちじょうのおじさんの魔銃まじゅうで【ヘリックスラダー】を倒しても、おじさんが評価ひょうかけることなんて無いのに。

少年しょうねんへい一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありす!」

「わたしは少年兵でもありません」


「飛行禁止区域の暫定的ざんていてき設定せっていは、それが理由りゆうであります。

日本にほん国防こくぼうぐん一切いっさい、飾戸空爆くうばくさいして治安ちあん維持いじ派遣はけんもされない』のです。

 つまり、たった一人の傭兵ようへい支払しはらうおかねしぶっているのですよ。

 何せ、前例ぜんれいがありませんから」

 ルチアはとうとう、わたしから魔銃をうばおうととびかかる。

 でも、滞空姿勢しせいたもてず、フラフラとわたしのわきけてんでいってしまう。

 そして、もう一度かえると、またヨロヨロとわたしの脇を抜けて跳んでいく。

一夜いちやかびりの空爆に、たとえ最新さいしん兵器をちこまれようが。商売ビジネスです。

 二億・四億・十三億円のおおまかなコースがあります。

 二億円、飾戸市内の中央区のみ。四億円、中央区・上区のみ。

 十三億円、中央区・上区・第一防区から第四防区。

 でも、それはあくまでも、依頼主いらいぬし条件じょうけんです。

 わたしにもゆずれない条件がありました。だから、ある条件で、十三億円でおけしました」

 とうとう、わたしにつかみかかることで、滞空姿勢を保てたルチア。

 でも、片手かたてでわたしにつかまりながら、わたしの右手ににぎられた魔銃をもう片手でつかもうとするも、上手くいかない。

貴方あなたは依頼でいそがしいわたしから、【九連くれん黒燈こくとう】を略奪りゃくだつしたかったのでしょう。どうぞ」


あくあくじき


 詠唱えいしょうしたわたしに反応はんのうして、魔銃の外層がいそうがパックリれて、九つのつらなった黒炎こくえん球体きゅうたいしになる。

 それまたたに、あたりをただよっているはい色の粗悪あおあく【ウミック】を吸いくしていく。

過剰かじょう粗悪【ウミック】のおあじはいかがですか?」

「やめて!パパの魔具がおかしな灰色になっていく!」

「それは魔銃。【ウミック】の魔油まゆを吸う【ラダー】から作られました。

 上級じょうきゅう魔油をこのむ魔銃が下級かきゅう以下いかの粗悪な魔油を吸えば、どうなるか?

 わかりますよね。

 でも、仕方しかたが無いですよ。

 わたしはつかれました。

 岸野きしの空爆くうばくしのいで、飾戸の一部もまもって、休憩きゅうけいしたいんです。

 融合兵のサブ装備そうびの魔銃の使つかみちとしてはちょっとはやくちますね」

 でっぷりとふくらみぎた九連の炎球えんきゅうはわたしの右手のうえでユラユラ浮遊ふゆうしている。けっして、ルチアにはちかづこうとしない。

攻撃こうげき対象たいしょうは【ウミック】地下ちか処理しょり施設しせつ内部ないぶの【ラダー】だろうけれど。わたしみたいな融合兵に攻撃されたら?

 反撃はんげき可能かのう

 攻撃を予想よそうして、迎撃げいげき出来るかな?」

 ルチアが炎球に手をばすけれど、熱さをかんじたのかすぐ手をっこめる。

 わたしはべつに熱くないけれど。


「どうもなりませんね。

 どんなに【ヘリックスラダー】に近づいても、【ラダー】融合兵は吸収きゅうしゅうされません。

 同期どうき拒否きょひです。

 この新型兵器は旧型兵器を統括とうかつ制御せいぎょする機能きのう付与ふよされていません。

 たかが旧型【ラダー】を破壊するしかのうが無いのに。よくもまあ、新型兵器としてろうとおもいますよね。

 不思議ふしぎ、不思議」

 昨日きのうよるかり宮村みやむら姉妹しまい里親さとおや顔合かおあわせのさい工房こうぼうからち出した

 これで、【ヘリックスラダー】に切開線せっかいせんをつけられた。

 切開線をひろげて、粗悪【ウミック】を吸って劣化れっかしてしまった【九連くれん黒燈こくとう】をおくへ奥へとめこむ。

 魔銃工房には、ラダーをけず道具どうぐがいっぱいある。

 ゴミばこから、れて使つかえない刃をひろって来ただけ。

 別に、最新兵器に最新兵器をぶつける必要ひつようは無い。

 使えるものなんでも使って、手早てばやく破壊すればい。

 別に、正規せいき軍じゃ無いし。


【ヘリックスラダー】がピキリッピキリッとヒビがはいった瞬間しゅんかんふし発生はっせいし、こぶ異常いじょう増殖ぞうしょく

 あっけない、新兵器の活動かつどう停止ていし

 いまはもうひかりもせずに、残骸ざんがいのこるだけ。

 世界中せかいじゅうへの披露目ひろめはおひらきになった。


【ヘリックスラダー】の全体ぜんたいが瘤でおおわれ尽くしたあと

九連くれん黒燈こくとう】とともに、【ヘリックスラダー】の外殻がいかく粉々こなごなになって、黒煙のかぜにのってえてしまった。

 剥き出しになった【ヘリックスラダー】の残骸に、汚染おせん確認かくにんされなかった。

 展開てんかいつづけていたわたしの融合体【ラダー】ただし山嶽さんがくさかさ山嶽さんがくにのみこまれて消化しょうかされてしまった。


「ああああああ!!!!」


 さけごえをあげているのはルチアだけ。

 づけば、わたしたち二人の周りに、日本政府せいふ関係かんけい職員しょくいんかこんでいる。

 警察官けいさつかんでも、消防庁しょうぼうちょう救助隊きゅうじょたいでも無い。

 りく軍やくう軍の制服せいふくでも無い。

 黒の跳躍ちょうやくふくつつんでいて、最初さいしょはどこかの傭兵ようへいか、犯罪はんざい組織そしきかとおもった。

 ルチアは黒煙をいかけたいのか、黒煙が流れるさきの粗悪【ウミック】のそうへ跳びこんでいこうとする。


新欧州連合ネオユーロ工作員こうさくいん灯台とうだい ルチアの拘束こうそく尽力じんりょくいただき、ありがとうございます。どうぞ、おかえりください」

命令めいれいしないでください。貴方たちにやとわれていません。

 早く退避たいひしないなら、飛行禁止区域内侵入しんにゅうとみなして、しますよ」

 だまって一礼いちれいし、あやしい黒の集団しゅうだん退散たいさんしていった。

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