1話 魔具専門店・祭花堂

 ショッピングモール「シャリオン飾戸かざりどてん」五かい

「ジュニア魔具まぐ特設とくせつ催事場さいじじょう


冬期とうきならびらまえ」ということもあって、まあまあんでいる。

 今年ことし小学生しょうがくせいけ「夏期かき魔習い開き」はおくられた。

 そのあいだに、米国べいこくせい魔具まぐ回収かいしゅうされた。

どもたちをまもるため」という大義たいぎ名分めいぶんがあったから、出来できた。

 でも、十年後二十年後には、また米国製の輸入ゆにゅう再開さいかいされるだろう。

 常葉ときわしゃぎんとおし社、三雲みくも社。

 そして、シャリオグループのプライべートブランドも参入さんにゅうしている。

 はいってみたけれど、すぐ催事場出入でいぐちまでもどってちゃった。

一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありすさま、どうぞおってごらんになってください!」って、催事場スタッフさんたちに、情熱じょうねつをぶつけられちゃった。

 ちょっと、こわかった。

 やっぱり、この灰色はいいろかみ皮膚ひふで、「魔具まぐがい患者かんじゃ」だってすぐにづかれちゃう。


 一年半いちねんはんまえなつの、米国製魔具暴発ぼうはつインシデント。わたしは自分じぶんの魔具、くろがね二本目をだい部分ぶぶんうしない、他人たにん魔具まぐびた。

 鉄一本目のように鉄二本目も魔具供養くようすことをすすめられたけど、鉄二本目の欠片かけら一つはいまも、小箱こばこれて、しまってある。

「ごめんね、おとうさん。やっぱり、無理むりだった。今ってる国産こくさんの魔具、こわれないとおもうけど……」

 せっかくお父さんが自動車じどうしゃ運転うんてんして、飾戸かざりど郊外こうがいのシャリオンまで来てくれたのに。

 おかあさんだって、催事場以外いがいでおものしたそうだったのに。

収拾しゅうしゅうがつかない」ほどの混乱こんらんになってしまって、シャリオンの無料むりょう立体りったい駐車場ちゅうしゃじょうから、く。


「いや。催事場は混んでいて、イモあらいだったな。

 べつみせへ行くか?」

いの?」

「そうね。祭花まつりかどうのほうがゆっくりれるんじゃない?」

 お母さんが「祭花堂」へ行こうとした。



 ちかくの有料ゆうりょう地下ちか駐車場の一般いっぱん駐車場にくるまめた。

 まえ、「魔具害患者手帳てちょう」を使つかってお母さんに車をめてもらっことがあった。買い物がわって戻って来たら、車のフロントにコーヒーをぶちまけられていた。

 あれからは、優先ゆうせん駐車スペースを利用りようしなくなった。


 祭花まつりかどう

 百貨店デパート専門店せんもんてんがい隙間すきまっている、ビルディング。全館ぜんかん、魔具専門せんもんフロア。

 ジュニアコーナーはい。

職人しょくにん仕事しごとで、ジュニアよう大人おとな用とくくっておりません。

 ごゆっくりどうぞ」

 お父さんとお母さんは早速さっそく、おちゃを飲みながら、おみせひとはなしている。


 一階はフェアやキャンペーン。

 二階は携帯けいたい用品ようひん修理しゅうり用品・贈答ぞうとう品。

 三・四・五・六階は魔具と試射ししゃじょう

 七・八・九階は会員かいいんせい販売はんばいフロア。


 ジュニア用と大人用にかれていない。

 わたしがっても、良いのかな?

 三階はまもものもじかい魔具)。四・五階は中物ちゅうもの。六階は長物ながもの

 中物や長物はあつかいがむずかしいので、三階にしぼってさがしてみる。

漁火いさりびりゅう」はお父さんが使つかってる。

 カッコイイ……。

 守り物サイズで、わたしでも扱えるのは……とく無資格むしかくでも所持しょじ・携帯がみとめられるって、ちょっと物騒ぶっそうだな。

おう】、【なぎ】、【飛石とびいし】。

 この三シリーズなら、大丈夫だいじょうぶそう。

 ちなみに、資格しかく条件じょうけんは「国際こくさい魔具使用しようジュニアライセンス二級あるいは国際魔具使用ライセンス十級以上」と明記めいきされている。

「アリスちゃん、国際ジュニアライセンス二級よね。インシデント直前ちょくぜん修了しゅうりょう証書しょうしょをもらったじゃない?」

「でも、一年半のブランクがあるんだよ……」


 でも、めなくちゃ。

 わたしのレベルにった魔具で、そのうち「漁火流」の魔具は三シリーズ。

「あの、【ろう】と【れん】と【湿しつ】でまよっているんですけど」

「三シリーズともていますが、作家さっかことなります。

 どれも漁火流魔具職人です。

 第三次だいさんじ世界せかい大戦たいせんちゅう最前線さいぜんせん活躍かつやくした大規模だいきぼ戦術せんじゅつ魔具の後継こうけい矮小化わいしょうかされて、大手おおてメーカーの量産品りょうさんひんとなりましたが。

 やはり、量産されたものには短所たんしょがございます。

【浪】は海戦かいせん経験けいけんのある職人が。

【連】は空戦くうせん経験のある職人が。

【湿】は陸戦りくせん経験のある職人がいのちきこみました」

 店員てんいん鈴宮すずみやさんが丁寧ていねいおしえてくれるけれど。

 ものすごく、くせがありそうな「作品さくひん」ばかりだ。

 さわるのも、ちょっとこわいな……。


見本品みほんひん試射ししゃなさってはいかがですか?」

 わたしがさらに戸惑とまどっているのをて、鈴宮さんがおなじフロアのおくにある試射場へれて行ってくれる。

「良いんですか?」

「はい」

 試射場にはもう三シリーズの見本品がならべられていた。どうやら、鈴宮さんが無線むせん指示しじおくっていたらしい。

 三つとも、おもい。

 あっ、今までのがジュニア用だったから、かるぎたのか。

 試射だいからすこはなれたところには、【ウミック】をしたまとがた

「それでは、試射をはじめてください」

 安全あんぜんドアがめられて、お母さんと鈴宮さんが別室べっしつから見守みまもってくれている。


 パチュン、パチュン、パチュン。

【浪】で、三連射れんしゃ

 照準しょうじゅんらぎは若干じゃっかん。おそらく、見本品で使つかわれてきているからだろう。

 連射おんたかひびく。

 魔術が弾性だんせいから面性めんせいへと変化へんかする。

 でも、爆裂ばくれつではない。広範囲こうはんいひろがる高波たかなみのようだ。


 シュン、シュン、シュン。

【連】で、三連射。

 照準が適格てきかく。おそらく、半自動セミオート照準。このお値段ねだん(十万円から二十五万円)で?

 こんなのっちゃったら、買いえは必要ひつよういだろうな……。

 おそらく、五年十年はメンテナンスしながら使えちゃう。

 普通ふつうの魔具なら、使いて。二年に一度買い替えれば、メンテナンスは必要無い。

 おとしずか。


 ポーン……ポーン……………………ポーン。

【湿】で、三連射。

【ウミック】を模した的のきだ。

 連射は二発まで。

 三発目までのクールダウンがながい。

 でも、一発目でも広範囲こうはんいにものすごい影響えいきょう

 でも、今期こんきの魔習いの家は住宅街じゅうたくがい

 市街戦しがいせん想定そうていだから、これだと、ちょっとやりづらいかな。

 使う人と戦闘せんとう地域ちいきえらぶ魔具だ。

 補助ほじょ魔具として、人気にんきがあるらしい。

 大人は複数ふくすう装備そうびが認められているから、良いのかも。


 し。決めた。

「【連】のなかからえらびます。

 どれもしくなりますけど。一つにします」

 上段じょうだん中段ちゅうだん下段げだん陳列棚ちんれつだな

 下段は在庫ざいこ

 上段と中段は全部ぜんぶ「作品」だ。

 その中で、ものすごく気になったものがあった。


九連くれん黒燈こくとう

 価格かかく:9万円

 制作せいさく年:2025年

 流派りゅうは漁火いさりび

 属性ぞくせい幻炎げんえん

 最大さいだい連射:五十六連射

 平均へいきん連射:十六連射

 エコ連射:九連射

 緊急きんきゅう偽熱フレア:十二連射

 国際基準きじゅん:2032年再認証さいにんしょう

 国内基準:同年再認証済み


 店員さんに【九連くれん黒燈こくとう】にするとつたえると、サービスで自販機じはんき魔術まじゅつ燃料ねんりょう魔油まゆ給油きゅうゆしてもらうことになった。

 歩道ほどうにも、おみせにも、どこにでも、自動じどう多機能たきのう販売機はんばいき設置せっちされている。

 飲料いんりょう行動食こうどうしょく救急きんきゅうキット、魔油、携帯よう魔油、【ウミック】回収袋かいしゅうぶくろ、スペア魔具など。

 おかねを入れて、ボタンをすと、それぞれ利用りよう購入こうにゅう出来る。

 鈴宮さんが三十円を入れて、「上級じょうきゅう魔油」のボタンをタップした。

 え?


 <祭花堂従業員じゅうぎょういん・鈴宮 晴人はると販売はんばい商品しょうひんに上級魔油を給油きゅうゆちゅうです>


 自販機の自動じどう音声おんせいながれる。

「上級魔油!」

 わたしはビックリする。

 下級十円、中級二十円、上級三十円。

「下級油を使う魔具はりがはやいのですが、上級は減りがおそいですよ」

 鈴宮さんがそう言ってくれるけれど。

 寄宿先きしゅくさき住所じゅうしょ飾見かざみざか四丁目。【ウミック】出没しゅつぼつ多発たはつ注意ちゅうい地域ちいきだったら、どうしよう……。

 あのあたりは、あまり行ったことが無い。

 でも、試射場でも、上級魔油に違和感いわかんは無かった。わたし、心配しんぱいし過ぎなのかな。


「でも、上級って、ぐん関係者かんけいしゃ御用達ごようたしあぶらですよね。一般庶民いっぱんしょみんのわたしには……あ、ちがうのか……そうなのか……」

「お気づきになられましたか?

 白黒ものくろ有栖ありすさまがリハビリで使用された魔具はおそらく、傷病兵しょうびょうへいリハビリ魔具の後継こうけいです。上級油のほうが今はしっくりくるのかもしれませんね。

 油によって、性能せいのうわるのではなく、魔具それぞれの性格せいかくに合う合わないだけです。

 実際じっさいに、大手三社でも上級魔油限定げんてい魔具も多くあります」

「大手三社で上級魔油は大人用ですらない、プロ用ですよね……れるまで、緊張きんちょうします」

「大丈夫よ。アリスちゃんは気にし過ぎ。過敏かびんになってるだけ」

「うん。あー、ドキドキして来た……」

「では、正式せいしきに魔具登録とうろく防犯ぼうはん登録をこちらでおこないますね。

 ライセンスカードの番号ばんごう記入きにゅう、お間違まちがえ無いようにおねがいいたします」

「そういえば、お父さんは?」

へんに緊張しちゃって、店内てんないをブラブラしてるって」

魔匠ましょうの一条先生でも、緊張なさるんですね。……あっ、失礼しつれいしました!」

 鈴宮さんが、窓辺まどべのベンチでやすんでいるお父さんのうし姿すがたに気づいて、お父さんのかって一礼する。

「……もしかして、これって、お父さんが作ったの?」

らないで、買ったの?」とお母さんがクスクスわらいだす。

「うん。すごく良かったから」


「お父さんね、アリスちゃんにはまだ国産大手ジュニア用じゃなくちゃあぶないって、自分の作品に興味きょうみたないようにかくしていたのよ。

 アリスちゃんがあんなことにきこまれて、職人仲間なかまからも何で娘に自分の魔具を使わせなかったんだってたたかれてね。お父さんも、おやとして、職人として、くるしい思いをして。

 でも、アリスちゃんがリハビリも頑張がんばったでしょ。

 だから、今回。お父さんはまんして、祭花堂にれて来てくれたのかもね」

 お母さんはわたしの灰色の髪を手櫛てぐしでてくれる。


「でも、お父さんってさ。わたしに何でもしつけないよね」

「お父さんがしんじられない?

 ほらほら。結局けっきょくくるまの中でもお店の外でも待てなくて、お店の中をウロウロしてるでしょ。

 手をってあげて」

「こっちを振ってあげたほうがはやいと思うよ。

 お父さん!見える?買ったよ!」

 わたしは買ったばかりの魔具・漁火いさりびりゅう九連くれん黒燈こくとう】をかかげる。


 お父さんがもうダッシュでやって来て、わたしをきしめてくれた。

 それから、お母さんのことも抱きせた。


 お父さん、お母さん。わたし、冬期とうき魔習いの家、頑張るよ。

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