まならい

SS 初日最多破壊数（先谷 闇剣視点）

　新（しん）バンクカウンセラーの涙堂（るいどう）先生（せんせい）を加（くわ）えて、子（こ）ども四人と大人（おとな）二人の、六人で食卓（しょくたく）テーブルを囲（かこ）んだ。

　午後（ごご）6時30分から夕食（ゆうしょく）のシーフードドリアを食（た）べていたけれど、皆（みんな）何（なん）だかソワソワして、急（いそ）ぎながら食べていた。

　食後（しょくご）はすぐに食器（しょっき）を台所（だいどころ）のシンクに下（さ）げて、テレビの前（まえ）に集（あつ）まる子（こ）どもたち。

　対（たい）【ウミック】公共（こうきょう）放送（ほうそう）チャンネル。

　平時（へいじ）のときは全国（ぜんこく）各地（かくち）および海外（かいがい）の対（たい）【ウミック】情報（じょうほう）が流（なが）れている専門（せんもん）チャンネル。

　冬休（ふゆやす）みの間（あいだ）は、毎日（まいにち）18時50分から十分間の冬期（とうき）魔習（まなら）い番組（ばんぐみ）が放送（ほうそう）される。

　＜こちらは日本（にほん）国（こく）魔術省（まじゅつしょう）広報（こうほう）です。

　昨日（きのう）、無事（ぶじ）、冬期魔習い開（びら）きが各（かく）学校長（がっこうちょう）より宣言（せんげん）されました＞

　一年半前に敷星（しきぼし）インシデントで渦中（かちゅう）となった敷星市。

　そこの市立（しりつ）星海（せいかい）小学校校長が体育館（たいいくかん）のステージ上で「魔習い開き」の宣言をした取材（しゅざい）映像（えいぞう）が流（なが）れる。

　＜北部（ほくぶ）・東（とう）部・西（せい）部・南（なん）部方面部（ほうめんぶ）の順（じゅん）に、今日（きょう）の魔習いの家の映像をお届（とど）けします＞

「北部方面部だ！」

「静（しず）かにして！」

　はしゃぐルナを注意（ちゅうい）するエンド。

　しかし、二人はすぐに何かを察（さっ）して、黙（だま）ってしまう。

　嗚呼（ああ）、そういうことか。

　魔習いのための十分間番組でも、「難民（なんみん）受（う）け入（い）れ空港（くうこう）」周囲（しゅうい）で一生懸命（いっしょうけんめい）【ウミック】に魔術を放（はな）つ子どもたちが映（うつ）る。

　＜【ウミック】が破壊（はかい）され、空港には続々（ぞくぞく）とヨーロッパからの避難民（ひなんみん）を乗（の）せた特別（とくべつ）臨時（りんじ）航空機（こうくうき）が着陸（ちゃくりく）しています＞

　岸野（きしの）空港（くうこう）は難民受け入れ指定（してい）空港として、機能（きのう）し始（はじ）めた。

　世界（せかい）の行動食（こうどうしょく）・予備食（よびしょく）で一番（いちばん）美味（おい）しいのはMADE（メイド） IN（イン） JAPAN（ジャパン）だと評価（ひょうか）を受（う）けている。

　それに、日本全国（ぜんこく）軟水（なんすい）で、水道水（すいどうすい）も蛇口（じゃぐち）から、飲料水（いんりょうすい）として飲（の）める。

　食と衛生（えいせい）に強（つよ）い日本。

　今までは難民受け入れ反発（はんぱつ）が大きいから、あまり報道（ほづおう）しないようにしていたみたいだけれど。

「この現実（げんじつ）を受け入れましょう」ってことなんだろうな……。

　でも、陸続（りくつづ）きじゃない島国（しまぐに）日本に逃（に）げる不安（ふあん）って無（な）いのかな。

「あっ、日（そる）親（ちか）だ！」

「ルナの弟？」

「兄（あに）、兄。でも、双子（ふたご）だから、兄とか妹（いもうと）とか差（さ）は無いよ。

　ねえねえ、難民の子、魔習いの家に来るかな？」

「……」

「検疫（けんえき）待機（たいき）期間（きかん）と、日本の防空（ぼうくう）生活（せいかつ）訓練（くんれん）と、語学（ごがく）研修（けんしゅう）で難民の大人も子ども、忙（いそが）しいよ」

　ブルーメが黙（だま）ったままでいるので、アリスがそう答（こた）える。

「難民だから、日本国籍（こくせき）も永住権（えいじゅうけん）も無い以上（いじょう）、日本の空（そら）はなかなか跳（と）ばせてもらえない。

　勝手（かって）なんて、させない」

　エンドは相変（あいか）わらず「我（わ）が道（みち）を行（い）く」感（かん）じ。言葉（ことば）に思（おも）いやりのかけらも無い。

　＜初日（しょにち）最多（さいた）破壊数（はかいすう）は情報（じょうほう）統制（とうせい）法（ほう）により非公開（ひこうかい）となります。

　明日（あす）の天気（てんき）は……＞

「軍事（ぐんじ）機密（きみつ）情報（じょうほう）が含（うく）むってこと？まさか……」

　初日に小型（こがた）【ウミック】十九体も破壊（はかい）したと書（か）かれた魔習い日誌（にっし）。エンドの手（て）から、その魔習い日誌がパサリと床（ゆか）の絨毯（じゅうたん）に落（お）ちた。

「魔習い日誌、書（か）き終（お）わりました」

　そこには……。

　厭鈴（えんりん）大湿原（だいしつげん）近（ちか）くの「涙（なみだ）の壁（かべ）」まで行って戻（もど）って来たこと。

　大型（おおがた）【ウミック】を三十体破壊したこと。

　日本空軍より照会（しょうかい）通信（つうしん）を受信（じゅしん）した。

　上級（じょうきゅう）魔油（まゆ）の消費（しょうひ）具合（ぐあい）を確（たし）かめたかったが、全然（ぜんぜん）減（へ）らないので、安心（あんしん）して帰還（きかん）したこと。

　一ページにまとめられていた。

　アリスが書いた日誌はパタリと閉（と）じられた、涙堂先生によって。

「皆（みんな）の魔習い日誌には、僕が『読（よ）みましたハンコ』を押（お）して、コメントしておきますね」

　出た、スイートスマイル。

　こういう媚（こび）た笑顔（えがお）は相手（あいて）にしたくない。

「涙堂先生は、何者（なにもの）なんですか？

　館（やかた）の場合（ばあい）は、二十人の子どもに対してバンクカウンセラー一人。

　寮は子ども九人に対して、バンクカウンセラー一人です。

　寮は十人以上十八人以下じゃないと、バンクカウンセラー二人体制にはならないはず。

　大蕗寮生は現在、四名。

　説明（せつめい）してください」

　わたしの問いかけにも、涙堂先生は笑顔を崩（くず）さないまま。

「ここは、五人も転寮（てんりょう）する問題（もんだい）寮だから」

　すかさず、答えが聞こえた。エンドの声。

「初日最多破壊数」が非公開になって、不機嫌（ふきげん）なエンドが涙堂先生に詰（つ）め寄（よ）る。

「浮島（うきじま）さん、正解（せいかい）」

「正解・不正解（ふせいかい）なんてどうでも良いので、わたしの邪魔（じゃま）はしないでください」

　わたしはただ、飾戸（かざりど）大未来（だいみらい）大学生（だいがくせい）として、冬休み中の、ボランティア活動（かつどう）評価（ひょうか）が欲（ほ）しかっただけ。

　寮外（りょうがい）引率（いんそつ）はしないけれど、「転寮でリーダーシップを発揮（はっき）出来ない」なんて低（てい）評価をつけられたら、困（こま）る。

　嗚呼、最悪（さいあく）。

　事前（じぜん）の希望（きぼう）調査（ちょうさ）の段階（だんかい）で、もっと大規模（だいきぼ）寮にしておけば良（よ）かった。

　そんなことをすぐ考（かんが）えてしまう自分（じぶん）にも嫌気（いやけ）。