9話 岸野空爆(前編)

 21時10分ニヒトヒトマル十歳市ととせし

 十歳ととせ空軍くうぐん基地きち北部ほくぶ方面部ほうめんぶ通信つうしん司令しれい


 じつは、仮宮村かりみやむら姉妹しまい里親さとおや大枝おおえださんの顔合かおあわせのあと。ブルーメを大蕗おおぶきりょうおくってから、最寄もよりの陸軍りくぐん駐屯地ちゅうとんちのヘリポートから空軍くうぐんヘリでこっちの基地まで夜間やかん飛行ひこうしてていた。わたしのとなりには笑顔えがおくずさず端末たんまつでいろいろなひと連絡れんらく涙堂るいどう先生せんせい……ううん。(ヘリにまえに空軍の制服せいふく着替きがわってたから)涙堂中佐ちゅうさ

 だって、制服の階級章かいきゅうしょうればすぐわかる。ぎん桜星さくらぼし二つに、二重線にじゅうせん


 しろ雪原せつげん誘導灯ゆうどうとうとヘリポートがかすかにえた。真っ暗闇くらやみなかあかるい誘導灯は見やすいけれど、ゆき景色げしきの中で見つけるのは結構けっこう大変たいへんだろうな……。初日しょにち厭鈴えんりん大湿原だいしつげんちかくでの破壊はかい活動かつどうはあくまでも日没前にちぼつまえまで。真冬まふゆ夜戦やせん防寒ぼうかん対策たいさくなんて無意味むいみになる。それでも、やらなくちゃいけない……。


 大人おとなたち(全員ぜんいん空軍関係者かんけいしゃ)はどもが大人しくすわっているのに、くにからの指図さしず文句もんくっている。

もち餅屋もちや」のことわざのように、たたかうのが専門せんもん日本にほん国防こくぼうぐんでも戸惑とまどっている作戦さくせんって、なに

「『特別とくべつ臨時りんじ軍事ぐんじ作戦』?

 まんまじゃないですか!」

 なんだその、ネーミング。特別臨時急行列車きゅうこうれっしゃとか、特別臨時チャーター便びんみたいなノリをかんじる。わたしは人型ひとがた公共交通こうきょうこうつう機関きかんじゃないのに。でも、もっとそのまんまになっちゃう「お子様こさま作戦」なんてフザけた作戦名さくせんめいがつかないだけまだマシだよね。

「そのままの意味だ。他意なんて無い」

機密きみつ情報じょうほうにしないんですか?」

「しない、しない。

 作戦会議は三分だ」

「カップめんつくるんじゃ無いんですから~」

 それでも、空軍の人たちはとしどころを見つけて、まとまった。

岸野きしの市内しない避難所ひなんじょ完全かんぜんにロックしました」

 岸野市内を防犯ぼうはんドローンが自動じどう配信はいしん飛行して、通行つうこう車両しゃりょうや避難していない人がいないことをうつす。

 通信司令部の巨大きょだいモニターでの目視もくし作業さぎょうわせて、機械きかいによる自動じどう作業も終わって、モニターがべつ映像えいぞうわる。

「特別臨時軍事作戦エントリーは一名のみ、一条いちじょう 白黒ものくろ有栖ありすくん

「はい」

 わたしは一応いちおう返事へんじをしておく。

「あの子のスペアは?」

編成へんせいへの異議いぎみとめない。

 これは岸野・十歳空軍基地のどちらでも無く、北部方面部主導しゅどう

 全権ぜんけんわたし、北部方面部隊長たいちょう桑原くわばらにある」

 桑原部隊長のかたには銀の桜星三つに、二重線。大佐たいさの階級章。

はなしちがう!岸野基地は機能きのうしている!」

 まとまりかけていたのに、岸野空軍基地司令が納得なっとくしていない。司令は制服の上着うわぎずに、痛々いたいたしい修復しゅうふくフィルムを見せつけるように長袖ながそでうでまくりして、桑原部隊長に抗議こうぎつづける。


 これじゃあ、作戦会議が三分でわらないとおもっていたら。

「一条さん」と声をかけられた。

五重虹ごじゅうにじしょ……中佐。ご昇進しょうしんおめでとうございます。

 あらためまして、こんばんは」

 五重虹少佐しょうさが涙堂中佐とおなじ階級章をつけていて、あわてて中佐となおして、ペコとちいさくあたまげる。

「こんばんは。昇進はきみ戦績せんせきからんだことで、大袈裟おおげさ評価ひょうかけただけ。

 精進しょうじんするよ」


 涙堂中佐に手招てまねきされ、コソコソ作戦会議(ばなし状態じょうたい)がはじまった。

「十二時間前、【ウミック】の大規模だいきぼ襲来しゅうらい予測よそく感知かんち

 共闘きょうとう関係かんけいに無い他国たこく軍によって岸野市が空爆くうばくされるから、こちらも空爆する。

【ウミック】とね、領空りょうくう侵犯しんぱんする他国軍も撃墜げきついして。

 一条君の最速さいそく空爆で通信つうしん不安定ふあんていになるだろうから、いきう五重虹中佐に通信をお願いしようね」

「涙堂中佐。

 魔銃まじゅう人畜じんちく無害むがいのはずですよね?魔銃ではひときずつけられない……人肉じゃ無いってことですか?」

情報じょうほう開示かいじすくないほうが一条君もらくだろう」と言いながら、ニヤニヤ涙堂中佐がわらいかけてくる。「アリスちゃん」びから、わざと「一条君」呼びとか、調子ちょうしくるうな。


「岸野の【ラダー】は正常せいじょう稼働かどうしていますか?」

「君はどこまでっているんだ?

 ぼくむすめ同学年どうがくねんだろう?

 なんて、世代せだいなんだ」

 五重虹中佐はきたくなかったと、ためいきをつく。

敷星しきぼしインシデントから、魔具まぐがい患者かんじゃとしてぐん病院びょういんのお世話せわになったあいだ、どこまでも知りました。

 きた半球はんきゅうユーラシア大陸たいりく使用済しようずみ【ウミック】のための、旧型きゅうがた地下ちか処理しょり施設しせつは日本各地かくちにありました。

 非戦ひせんくにだからこそ、得体えたいの知れない兵器へいき安全あんぜん処理を一任いちにんされていたんですよね。

 旧型施設ないには人目ひとめれない【ラダー】によって制御せいぎょされています。

 我々われわれ魔習まならせい軍人ぐんじんにある魔銃は、廃棄はいき【ラダー】からつくられていますね」

 この魔銃の原材料げんざいりょう【ラダー】も【ウミック】も、だいたい同じ疑似ぎじ生物せいぶつ兵器だ。

「桑原部隊長のコレクションから提供ていきょうがあった。

 漁火いさりびりゅう魔銃がよりはだ馴染なじむだろう。

 魔銃害患者の君なら、【ラダー】との完全かんぜん融合ゆうごう可能かのうだ」

 疑似生物兵器の私的してきコレクションかと勘違いするところだった。

 まあ、公私こうし混同こんどうで。積極的せっきょくてきに【ラダー】をあつめてるよね。


「【ラダー】は【ウミック】をべます。みます、かな。

 魔油まゆ原料げんりょうは【ウミック】のしぼじるです。

 新型しんがた【ラダー】が旧型きゅうがたおそ理由りゆうつく必要ひつようがあります。

【ウミック】まみれにして、【ウミック】もろとも、岸野もろとも、地下にかくされた旧型【ラダー】を空爆くうばくすると想定そうてい

 旧型【ラダー】は【ウミック】地下処理施設で稼働。

 ……岸野市地上ちじょう空爆では無く、さらにふかい、岸野地下施設空爆なんですね」


「さいごに。

 だれかとはなしたいか?」と岸野基地司令。

「……」


士気しきげるな」


 容赦ようしゃ無い涙堂中佐のつめたいこえ=国防軍省ぐんしょう職員しょくいんっぽい。

当然とうぜん権利けんりだ。この子どもは正規せいき軍ですらない。未成年みせいねん一般市民いっぱんしみんだ。

 君、岸野空爆をすれば、どうなると思う?

 岸野の都市とし機能きのう放棄ほうきされ、岸野市民は避難所ひなんじょから一歩でもれば、『空襲くうしゅう避難民ひなんみん』として自由じゆううしなう。

 岸野空港くうこうも破壊しつくされて、利用りよう出来なくなる。

 やるなら、十歳市上空じょうくうまできつけて、撃墜してくれ!」

 岸野地下空爆は、岸野地下避難所もかなりの被害ひがいけるだろうな。それをってて、危険きけん地域ちいきの地下に避難させた。

 いったい、十時間以上あったのに、どうして地下の避難させたんだか、理解りかい出来ない。

 十歳市上空へてきをおびきせることが出来ると、この岸野空軍基地司令はおもった。

 そう思うことは、つみじゃ……。


 でも、今回こんかいの特別臨時作戦には人的じんてき被害にかんしては一切いっさいれられていない。

「【ラダー】と融合して、岸野空爆しようね」と言われただけ。



 通信司令部の部屋から外に出て、十歳空軍基地ジャンプだいへ。

 今夜こんやのジャンプ台利用りようはわたし一人だけ。

 ジャンプ台のそばには巨大きょだいなコンテナがかれてあった。

 コンテナの中に、【ラダー】の一部が厳重げんじゅう保管ほかんされてた。

 おとうさんの工房こうぼうのぞたことある。

【ラダー】が活動かつどう停止ていし硬化こうかした「木梯もってい」よりも、うるおってる。

 まだ、ビクビクうごいている【ラダー】に両手りょうてをかざす。


万融ばんゆう万統ばんとう


 わたしはコンテナないまばゆひかりつつまれていった。

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