窓際の彼と八方美人姫

「空が曇っていたからです」
　医師から過量服薬の理由について訊かれたとき、かつて《八方美人姫》と呼ばれていたミステリアスな女性――宮原こずえは、その理由を答えられなかった。

「これまでの自分を見つめ直すように」とノートを渡されたこずえは、入院中の暇潰しも兼ねて、回顧録を書き始める。

　いまの自分を形成するきっかけとなった大学時代の出会い――《窓際の彼》倉野正一と過ごした日々。

《窓際の彼》と《八方美人姫》
　恋とも友情とも違う、奇妙な関係の二人だった。

　あれから五年。
　こずえはいまも、あの頃のモラトリアムから抜け出せずにいる。
　自分という人間を、今日も探し続けている――。

【完結済みです】