堕ちる雫（仮）

episode.47 決着

EBE的にもっとも最悪な状況は魁斗と雫が一緒にこの世界から脱出すること。即ち、このなかで最も最優先にするべき行動は魁斗の排除だった。

ァァァァァァァァァァァァァァァァァァ！！

雄たけび、奇声とも呼べる声を上げながらEBEは魁斗に猛進する。

「くっ！？」

影で作った刀でEBEの猛進をいなす。魁斗はそれと同時にEBEの周りに影で斬撃をつけたがまるで効いている様子は無い。

「魁斗！EBEは私と一時的にでも一体化したことで、異能による攻撃に耐性があるみたいなの！」

「つまり！？」

「一度使った、一度EBEに傷を付けた異能による攻撃はEBEには効かないの！」

「マジか…」

再び猛進してくるEBEを刀で弾き返し魁斗自身も距離を取る。雫を後ろで庇いながら戦う魁斗は強制的に防戦一方を強いられる。

「キリがない！！」

弾き、受け流す。だが魁斗の体力も無限ではない。精神体故、その力にも綻びが生じる。言わば時間制限があるのだ。

この時間内にEBEを仕留めなければ次は無く、後がない状況。決死の攻防が続く。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「止まった…？」

魁斗がEBEの深層心理で苦戦している中、外の状況も依然緊迫した状況が続いていた。魁斗がEBEの深層心理へと入ったと同時、EBEは動きを止めた。外に居るメンバーは畳みかけるべきか迷っていた。

（恐らく、中に入ってきた異分子の魁斗を排除するためだろう…なら）

「麗央、落葉！大技！！」

「おっしゃ！異能も復活したことだし派手にやるぜ！」

「はいはい…全く人使いが荒いなぁ～」

“二重延焼(ダブルヒート)・焔”

“峰竜の螺旋(ウィンドレイン)”

麗央の放った技は二撃連続で攻撃する高出力攻撃。一撃目は相手の外角を破壊する為、異能力を使わずに攻撃する。二撃目は破壊した外角の内側を“陽炎”の異能を使用し、炸裂させる。

落葉は竜巻を一点集中し、確実に相手の外角を削りダメージを与える。二つの高出力の攻撃。神器も思わず「ほう…」と声を溢すほどのものであった。

EBEは白い巨人、人型となっても元々あった外角が残っており、非常に硬くなっている。そして相手は心中に居る魁斗に手一杯で動けない。故に外側からの攻撃に対処ができなかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギャァァァァァァァァァァァ！！！

防戦一方の魁斗を目の前に再び奇声を上げるEBE。魁斗はEBEの苦しむ姿を見て感じる。

（そうか、おじさん達が外側から援護してくれてるのか！）

「この一撃で、俺の込める最大の攻撃で耐性ごと捻じ斬る！」

EBEは先ほどの麗央、落葉の攻撃により再生できると言えど大ダメージを負った。故に、優先順位を切り替えるか、このまま中に居る魁斗を追い出すか、鈍る思考。そして、再び魁斗に注意を向ける。

“才能開花・真剣刃影(しんけんじんえい)”

その一撃は帯人の最大の攻撃、“真剣”と酷似していた。だが、帯人では至れなかった“真剣”の極地、“再生できない(・・・・)”。不条を絶ち、影の影響下にある両断された物体はその認識から外れた。端的に言えば斬られれば死滅する、文字通りの一撃必殺である。

魁斗が精神体であるEBEを両断した直後、魁斗は現実の世界に戻ってくる。そして、手を確かに“握っていた”。

「雫！」

切り開かれたEBEの体内から雫を胸に抱き留めその場から離れる。

「魁斗！！」

「戻って来たか！」

「本当によくやった！」

各々が歓声を上げる中、魁斗の瞳はまだEBEへと向いていた。

「おじさん、こいつ」

「ああ…」

魁斗は自身が羽織っていた上着を雫に掛けながら帯人へと歩み寄る。

「クフフフフ…神の力を制御する者、それが居なくなればどうなるか？身に余る力を手に入れた者の末路はいつも同じだ。暴走」

神器の言葉通り、EBEは白い巨人の姿からそれよりももっと巨大で醜い異形の姿へと変貌する。

背中から腰にかけて生える6枚の翼、頭上に現れる禍々しい形の丸い輪、牛の骨のような顔、赤く光る目、開いた口からは幾万もの触手が見え隠れしていた。

神）「クフフフフ…面白くなってきたな」

凪）「楽しんでる場合じゃないでしょ？ほら、さっさと始めるよ」

麗）「神殺しか腕が鳴るな！」

静）「あんたまた“過剰延焼(オーバーヒート)”してるじゃない！どうすんのよ！」

守）「まあまあ、このメンバーだよ？麗央1人が欠けたところで戦力は申し分ないよ」

蜜）「はは、そうかもな。麗央休んでたらどうだ？」

麗）「蜜璃まで！？」

帯）「無駄口を叩くな」

落）「そうだよ。あれ甘く見たら死ぬしね」

紘）「何あの触手！？キモチワル！！！」

魁）「ここで終わらせる」

各々が最大限の力を発揮し、各々が最大限に高まった異能力でEBE本体を迎え撃つ。

“草薙之太刀”

“拳(ただのパンチ)”

“隼号砲”

“鉄鋏一閃”

“真剣”

“風螺旋塵”

“奈落撃墜(トラッシュフォールン)”

“影刃十閃”

全員が、究極の一を決め、EBEへと向けて一斉に放つ。その一撃は大陸、いや、世界を分断せしめる威力の物だったが、凪による“理を歪める物を封じる結界”の効果により、異能は世界を分断する前に掻き消される。勿論、それに当たったEBEはその力に耐えきれず消失していく。