episode.18 道の最中

期限を設けられてはや5日が経過した。依然余裕の表情を浮かべている神器に魁斗は一太刀も攻撃を与えられてはいなかった。


「くっ…」


スパンッ…ゴロゴロゴロゴロ…


「くっ、はぁ…はぁ…はぁ…」


「どうだ、殺されるのにも飽きてきただろ?本気を見せてはどうだ?」


俺はこの5日間、殺され続けている。それも初撃の技にて…5日間での合計死亡回数は二桁を上回った。それもその筈、本来1日1回きりの蘇りを3回以上の頻度で繰り返しているからだ。


「それは、俺がお前の攻撃を見切ってからだ…」ハァ…


息を整え刀を握り、神器を見る。彼はソファで大欠伸をしており退屈だという事が目に見えてわかる。


(ここまで…ここまで絶対的な戦力差があるなんて思いもしなかった…)


「一心流」


“桜花”


「ふん、つまらん」パチンッ


ズバッ…ビチャッ…


縦に真っ二つに両断された魁斗は再び再生し立ち上がり刀を構える。


(普通の人間なら殺されるという死の恐怖に呑まれるというのに…こいつ)


「クフフフフ…面白いではないか」ボソッ


「…?」ハァハァ…


(立っているだけでやっとという程に疲労感が全身を襲ってる…)


「一心流」


“咲華”


指を鳴らす音と共に視界が宙を舞う。ああ、またダメだった、そう思う。この5日間、限界まで殺され続け、眠りに入り、起き、また殺されを繰り返している。


何も無い、真っ黒な空間が広がる魁斗の深層心理。そこにシルエットだけの人物が1人、手に顎を乗せ退屈そうな雰囲気を纏っている。


「いい加減諦めたら?俺が出て戦った方が早いのにさ」


「いや、お前は出さない。それだけは絶対ダメだ!」


魁斗の脳裏に映る景色。それはシルエットの彼に体を明け渡した時の惨状。そこにあるのは血溜まり。妖魔と、妖魔になりかけた人間を無差別に殺したあの景色だった。


「この前言った事忘れてないよな?」


(代償…!?)


「俺が一瞬外に出る事くらいできるさ!」



蘇り立ち上がる彼を見ながら神器は鼻で笑う。


「面白いではないか、少しは殺り甲斐がありそうだな」フン


期限まで残り2日。



古びた地下牢。鉄の匂い、そして鎖の音が聞こえる。石畳を進む靴の音が壁に反響し辺りに響く。

此処は“無間牢獄(むけんろうごく)”。


無間牢獄

1F〜地下3Fまでの構造になっており、1Fは通常の範疇に留まる犯罪者達を捕らえ、地下1Fからは主に異能力による犯罪者達を捕らえている。


「“幽閉者”貞島麗央。拘束解除が決まったぞ、出ろ」


「帯人に感謝だな」


「麗央、お前出れんのかよー。もう少し話し相手になってほしかったぜ」


麗央と同じ牢へと入っている人物は話しかける。


「ならお前は異能の制御を完璧に出来たら良いかもな。もしかしたら外に出してもらえるかも?」


「出来たところで俺様を外に出す馬鹿は居ないだろ?」


「…まあそうだな」


彼らが入っていた地下牢は異能及び力を制御する、言わば異能力者専用の牢であり、特別な許可が無ければ立ち入る事すらできない外界から隔絶された牢獄である。

そして麗央と同じ牢に入っていたこの人物。僅か20にも満たない少年でありながら異能の制御が出来ず、暴走。被害者は数万に上り、多くの死傷者を出す大災害を起こした。

最年少で“幽閉者”の一角にして、その中で最も恐れられている人物。名を風間落葉(かざまおちば)永劫幽閉が確定している危険人物である。


「まあ、また機会があれば話そうぜー?」


「その機会が来ない事の方が良くないか?」


「…それもそうだな!」


ニッと笑う少年の笑顔はこの牢獄には似つかわしく無いほど、だが暗い表情に満ちていた。




静恵、守人の2人はぬらりひょんに協力を求めるため森の中にある古い寺院を訪れていた。


「親を亡くした子供がこんなに居るなんて知らないまま生活してました…」


「そうだな…」


客室へと案内される前、子供部屋を少しだけ覗いた静恵と守人はため息を吐く。


「私は子供達に寂しい思いで生活してほしく無いのです。妖魔達の好きにさせては悲しむ子が増えるでしょう…なら私は貴方達への協力は惜しみません」


「助かります…」


こうして2人はぬらりひょんに協力を求める事に成功した。

一方、三大怪異に協力を求める為“虚な館”へと向かった紘は…


虚な館

世界の間(はざま)に存在する空間に建てられた館。そこは世界とは隔絶された空間になっており、時の流れすらも停止している。

これを応用した建造物が“無間牢獄”(無間牢獄に関しては現世と隔絶する点に対してだけ)


「ふふふ、私綺麗…?」


「あ、はい。綺麗ですよ」


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ(離しなさいよ紘さんが嫌がってるじゃない!)」


「いでてててて!?!?」


口裂け女に捕まり、身体を弄られていた紘は八尺様に腕を引っ張られ2人の引き合いの綱になっていた。


「2人ともおよしなさい」


幼女が持つかのような可愛らしい人形の姿をした怪異がこちらへと歩み寄る。怪異の2人はメリーの言われた通りに手を離し紘を解放する。


「助かりましたメリーさん」


「いいのよ。それよりも外は大変な事になっているのね…」


紘は頷く。


「三大怪異である貴方たちの力を貸してほしい…」


紘は頭を下げ、その姿にメリーさんは唸る。


「メリー、力になってあげましょうよ。私この子の事気に入ったもん」


「ぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽぽ!(私も微力ながら力になります!)」


「力を貸しましょう。ですが条件をおつけしても?」


「条件の内容は?」


「私達が貴方達に力を貸すのは貴方達、人の子が居なければ私達は存在する事ができない点を考慮してです。貴方達に力を貸した後、私達怪異達の噂話や逸話を広めてもらいたいのです」


「なるほど…」


(妖怪と違って怪異は人の話、噂話から力を得てるから噂が廃ると力が弱まるって事か…)


彼女達の弱みに漬け込んだようで心苦しい紘はそれを気づかせないように条件を呑んだ。

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