episode.17 “頂き”の一角

俺と凪さんは「幽閉者」である付喪神、神器に協力を頼むべく、“千念塔”へとやって来た。


千念塔

木製であるにもかかわらず作られて千年経過してなお、千年前と変わらず朽ち果てず、色褪せず、存在する塔である。



「千念塔は元々、その年にあった疫病が蔓延したのを抑える為、祈りを捧げる為に作られた塔なんだ」


千念塔へ続く緩やかな万階段を上がりながら凪さんが話をしてくれた。


「なるほど…」


祈りを捧げる為に建てられた塔、何処からでも祈れるように大きく高く建設されている。


(これほどの物を千年前の人は建設できたのか…)


山頂に佇むその塔を作るのに一体どれほどの年月を要したのか…


「建設をスタートして1年も経たずに完成したらしいよ」


「え?」


魁斗が驚くのも無理はない。現代の技術を用いて一軒の家が建つまで1年は掛かるであろう。それを千年前の技術で1年以内にこれほどの規模の塔を作ったのだ。


「これから会う付喪神、神器が自分が住むという条件と共に力を合わせて作った、妖怪と人間が初めて力を共にして作ったと歴史では言われているね」


「その時代で彼は神様って言われていた」とそんな風に話してくれた。それもそうだろう。こんな事ができるのは異能力者か人外の者だけだろうから。



万階段を上りきり、千念塔の大きな扉の前へと進む。扉の前に立つとその扉は自動で開く。左右に開かれた扉は2人が塔の中へと入ると同時に閉じる。


千念塔の内部構造はシンプル。塔の真ん中に上へと続く螺旋階段があり、その中心には心柱があり吹き抜けとなっている。


「五重塔のような構造なんですね…」


(厳密には違うけど、)


「何度も来た事があるけど来るたびに驚き、感心し、圧倒される、立派な作りだよ…」


その螺旋階段を上りながら凪さんは話を続ける。


「彼がこの場所に根を下ろした理由は知ってるかい?」


「いえ」


(俺が知ってる神器の情報は強いって事だけ。本人が人と関わらない為、進んで情報を得る事はしなかったからな…)


魁斗の声を聞き凪は話しだす。


「付喪神はそもそも一つの大切にされた物に宿る妖怪だ。物に命が宿るのと同じ、神がかった現象。それなのに彼は三種の神器と呼ばれる三つの器を一つに纏めた力を持つ」


「それとここに住む事、何の関係がー」


魁斗はその意味を察し息を呑む。


「そう、付喪神一体につき、その基となる器は1つ。神器は三つの器を持った妖怪。人間が恐るほどに力を持ってしまった。故に?」


「幽閉された…ここは彼を監視する為に作られた建物?」


「正解だよ、君は頭の回転が早いね。少ない話の内容から答えを導き出せるのは素晴らしい。俺も含みを持たせて話をした甲斐があったよ」


そう言い凪さんは目を細めながら階段の上へと登る。

凪は懐かしい人の顔を思い出した。それはかつて悩んでいた時、自分の進むべき道を正しいと思わせてくれたそんな人の事を。


階段をあと数段上り切れば最上階へと着く。そんな時に上から圧迫感の様なもの、殺意、殺気が魁斗達を襲う。


「ーッ!!」


「あいつ…」


「随分とまぁ呑気に登って来たな」


階段を上りきり部屋の中央に置かれた真紅のソファに胡座をかきこちらを見下ろす彼。その人物、妖怪こそ“幽閉者”付喪神・神器であった。


「殺気がでているぞ…」


「ん?あぁこの程度の圧で怯んだのか凪?…そいつがな」


「俺はお前と会うのは初めてのはずだが…?」


圧が解けず、背中に錘を乗せている様な重圧を感じながら魁斗は神器を見据える。


「いやなに、私が一方的に知っているってだけだ」パチンッ


そう言い彼は指を鳴らす。


スパンッ…ゴロゴロゴロゴロ…


一瞬だった。彼が指を鳴らした。それは聞き取れたのだ。だが気づいた時には視界が宙を舞っていた。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


「どうした?この程度も反応できないのか?」


「神器やり過ぎだ!魁斗くん大丈夫かい?」


首が再生し、息を整える俺を彼(神器)は退屈そうに見下している。


「あぁ、非常に残念だ。ここに来たのが麗央であれば力を貸してやらん事も無かったがな…」


それは、その言葉の意味を魁斗は理解できた。お前では力不足だ。そう言われているのだ。実際その通りなのだ。数字持ち一体を倒すのに力をほぼ全て出し切った。それで一体倒すのに底一杯なのだ。


「神器お前…」


凪が拳に力を入れる。


「クフフフフ…お前が私と遊んでくれるのか?」


「凪さん…」


「魁斗くん?」


魁斗は凪の服を掴み静止させる。

これは俺の問題なんだ。俺の力不足の影響。なら俺がやらなきゃ意味がない。


「神器には絶対に協力してもらわないといけない。これから先、彼の力が何処かで絶対に必要になる。ここは俺が、やります」


「…分かった、でも期限を設けよう。譲歩は1週間。それまでに神器の協力が得られれば良し。神器もそれで良いかい?」


「俺は遊ぶおもちゃができて嬉しいぞ?1週間もあれば使い倒してしまうかもな」


「それで良いです。必ず、屈服させる…」


「クフフフフ、まぁやれるだけやるがいいさ」


伸びをする神器、未だ余裕の彼を打倒せよ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る