episode.19 奇襲

千念塔の最上階。魁斗の内側から這い出てきた者に神器は口角を上げる。

姿は魁斗なのだが、目の色が明らかに別のものであった。蒼く、全てを呑み込むが如き紺。


「影の住人(オルターエゴ)、貴様がなぜそいつの身体に入っていたかは知らぬし興味も無いが、せいぜい私を楽しませてくれ」


そう言いソファから立ち上がる。


「ほざくなよ、妖怪風情が。その首地に落としてやろうか?」


刹那、刃が交わる。


(こいつ何処から剣を出した…?)


オルターエゴは魁斗の視界を通してその光景を見ていた。勿論、魁斗が目で追えなかった物も全て。


(こいつが指を弾いた瞬間空中で剣が具現化し切り裂くと言う物、なら速攻で仕留めようと思ったのだがな…)


魁斗の刀を同じく刀で受け止めていた。そう甘くは無いという事。仮にも現時点で最強の妖怪。


「チッ…」


「先の発言は改めるか?」


「いや、まだこれからだろう?」


(だが戦力差は埋まらない。俺が全開で体を使うには非力過ぎる…)


張り詰める空気、睨み合い、対極に動く彼らは動きを止める。


「「…」」ピクッ


両者は勘づく。この千念塔へと凄まじいスピードで接近する力の塊を…


ドガンッ…


千念塔最上階に何か(・・)が激突した。千念塔の揺れが収まり砂埃から姿を現した者はー


「相変わらず埃っぽいねこの塔は…」


「貴様は誰だ?無断で我が塔に侵入、破壊した者。今なら苦しませずに逝かしたやろう」


「烏滸がましいな。俺の名前は釈迦(しゃか)、妖魔を統べる者ぞ?」


金髪赤眼、学校の制服、その上からパーカーを羽織りマフラーを纏う異質な雰囲気を醸し出す彼は釈迦と名乗る。


「ならお前を殺しゃあ統率取れねぇんじゃないか!」


オルターエゴの不意打ちの斬り上げを避け、睨むと地べたに倒れる。


「ぐ…!?」


(重い…重力が強くなったのか!?)


「頭が高い。影の住人風情が俺に一太刀でも浴びせれると?だが、お前は違うらしいな」


神器へと向きながら口にする。オルターエゴですら地に伏した重力を受けても平然としている。


(あいつ嘘だろ…!?)


「釈迦、随分大層な名前だな」


「俺の力を受けて尚、平然とするか…」


「力?これがか?子供の肩叩きの方がまだマシだぞ?」


「へぇ…まあ今日は挨拶だけに来たんだし認知してもらっただけでも良しとしようかな」


「俺が貴様を無事に返すとでも?」


手を上げた神器は釈迦の周りに数千の剣を具現化させる。指を曲げるのを合図に剣は一斉に釈迦へと向かう。


剣は釈迦に当たる前に地面へと突き刺さり釈迦へは届かない。


「妖魔を統べる者ならこのくらいできなくてはな…」フッ


「まぁ、せいぜい用心する事だよ。俺らが今事を起こさないのはまだ準備ができてないから」


「王よ、いきなり飛び出さないでください」


「すまない龍帝、それじゃあね諸君。せいぜい最後の時を存分に堪能してくれたまえ」


穴の空いた千念塔最上階に龍型の妖魔、龍帝が現れる。その背中に飛び乗り釈迦達は飛び去る。


「ッ!?」


飛び去る直後、龍帝の技が千念塔に直撃する。


“邪龍の大火焔”


黒い炎が千念塔を焼き、塔はその衝撃により崩れ去る。黒煙を上げ数キロ先からもそれを目視する事ができた。


「あれって…」


(千念塔が破壊された!?それに飛び去る龍は妖魔!?)


数キロ離れた地点から千念塔へと向かっていた凪は急ぐ。


(魁斗くん…無事でいてくれ…)


元千念塔痕へと着き呼びかける。


「魁斗くん!無事かー!!」ハァハァ…


息を切らしながらも声を上げる。その声はまだ燃える業火の音を超え辺りに響き渡るだけであった。


ガラガラガラ…


「私の塔を焼き払うとはな…それよりも凪私の心配はしてくれぬのか?」


瓦礫から這い出て埃を落とす神器。その脇には魁斗が抱えられていた。


「良かった無事だったんだ魁斗くん」


「だからな凪…」


「お前に関しては大丈夫だと思ってた」


「お、お主…」


「神器は魁斗くん達に協力してくれる?」


「勘違いするな。我が塔を焼き払った代償を支払ってもらうだけだ。それ以上お前たちに協力する事はない」


「そっか」フフッ


「何がおかしい?」


「いや、素直じゃないなと思って」


「ぬ?」


(神器は魁斗くんの事が気に入ってるんだろうね。じゃなきゃ自分から助けなんてしない)


2人は屋敷へと戻るため足を進める。



魁斗の深層心理にて…


「王は桁違いに強い…今のお前では勝てん」


「そうかもな…でもお前が外に出ている間の視界を見てて俺も少しだけ分かった気がする…」


「そうかよ…」


(多分、こいつが外に出た理由って俺を成長させるためなんだろうな…悪い奴ではないし)


不貞腐れてる彼を見て魁斗は励まそうとする。


「神器が強いだけだ!お前は弱くない!自信を持て!」


「うるせぇ!!!大体な!俺様が全開で力を使ったらお前の身体がボロボロになっちまうから手加減してんだよ!!!」


「え、お前優しいな」


「だぁ!!!もう知らん!!!」


余計に怒らせてしまった。シルエットだけでもわかるくらいに頬を膨らませている。


仲睦まじい双刃よ互いに育て…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る