episode.Fin
世界を分断するほどの戦闘の後、1ヶ月が経過したこの町では何事も無かったかの様に町の人たちは日々を送っていた。そう、まるであの戦闘の記憶がすっぽりと消えているかのように…
あれだけの戦闘が全ての人々の記憶に残るのは少し困る。それは今まで異能力という特殊な能力を隠し続けていた政府の立場が悪くなるからだ。
それが看過できない政府陣は全ての痕跡を無くし、町の一般市民達の記憶も改変した。その期間全ての痕跡を消すのに掛かった期間が1ヶ月という訳だ。
「本当に何にも無かったように生活してるんだなぁ」
新設された特課事務所の窓から外を眺めながら麗央がそう口にする。
「まあ、政府は無能で役立たずだけど形だけでも従っとかないとね〜」
「紘、聴かれてるかも知れないんだから本当の事でも此処では黙っておくべきだと思うよ」
「あんたもね」
特課事務所内では相変わらずの5人、麗央、紘、守人、静恵、蜜璃。
「そう言えば帯人は?」
「帯人は?」
「下じゃないか?」
「あーね」
此処で新設された事務所の説明をさせていただこう。事務所は計4階層となっており、1階は尸楼(がばねやぐら)の喫茶・楼閣になっている。何かあった時、迅速に対応できるように一つのビルに統合された結果である。2階は事務所。3階は蜜璃の人体実…ゲフンゲフン、研究室。戻り、地下1階は資料室になっている。
1階を覗いてみるとしよう!
「結奈さん!黑絵さん!見てみて!新作スイーツ!その名も!ダイナミックチョコケーキ!」
神夜が厨房から出して来たチョコレートケーキは黒いモヤがかかりそれはケーキなのかダークマターなのか分からない物であった。
「神夜ちゃん!?それは!?」
「ちょっと!?あんたはコーヒー淹れる事以前に料理全てがダメダメなんだから大人しく接客してなさい!」
「え〜!!!」グスン
「嘘泣きしてもダメよ。ちょっと空蔵!ちゃんと見てなさいよ!」
「朝はどうもやる気起きなくてぇ…」スヤァ
「あら、良い寝顔♡は!?じゃなくて!起きなさい!」
「ハハハッ、黑絵は母親みたいだな」
「そうね、私が居ない時この子達どうするのかしらね♪」
楼閣のメンバーには新しく結奈が入り、神夜(黙っていれば)、結奈の美人な2人が接客するのだ。必然的にお客の入りも増えるというもの。
そして、店開き前のそんな普通の会話。あの戦闘の後、妖魔の数が激減、被害に遭う人も減少傾向に向かっているがそれでもゼロではない。いつまたあの様な過激な企みが生まれ戦闘が行われない為にも特務警察課は無くてはならない存在。
完全復元された千念塔内にて。
とある外国の砂漠、ローブのフードを深く被り歩く2人を巨大な鏡から見る巨漢の男。
「イマイチ面白味に欠ける男だと思っていたが、クフフフフ、これはこれで楽しめそうだ」
パチンッ
神器が指を鳴らしたと同時に鏡に写る砂漠のど真ん中、2人組の前方に巨大な蠍が現れる。
「クフフフフ、愉快愉快」
驚きながらも冷静に対処しだす2人を嘲笑う。が、そんな神器の後ろに人影が。
「神器?」
「は、?!凪!何故此処に!」
「いや〜近くまで来たからついでに顔出しに寄っただけなんだけどね〜?」
「いや、我は何もしておらぬぞ!?」
「問答無用でお仕置きだ。“門、閉門”」
ぬーん!?と言う置き台詞を残して凪の開く扉に吸い込まれていく神器。神器は他人が苦しむ姿を見るのが好きなのは相変わらずらしい。
「さて、帯人さんの所へでも行こうかな」
そう言い凪は千念塔を後にする。凪が千念塔を後にした後、まだそこに残る鏡に写る者。
魁斗は町を一望することのできる丘の上まで向かっていた。そこはあの激戦のあった町の中心。
「…」
魁斗は町を見ながらポツリと呟く。
「雫…」
彼女の名前を。あの戦闘の後、神の力が全て抜け堕ちた雫は光となって消えてしまった。それは助ける段階でもう決まっていた事。
最後に一言だけ彼女は魁斗に呟いた。
『“待ってて”』
と。
「なあ、いつまで待ってたら良いんだよ…」
魁斗の頬に一筋の雫が零れ落ちる。
「ー」
空耳かもしれない。
「かー、!」
「ー!?」
今度は空耳ではない。確かに聞こえた。俺を呼ぶ声が。
「魁斗!!」
「雫!?」
声が聞こえた方へ顔を向ける。信じられない。雫の声が聞こえた方向。それは空だったからだ。そして、空から堕ちてくる雫を見て魁斗は焦る。
「魁斗!」
「あいたたた…」
なんとかキャッチすることに成功する。が、抱きしめると同時に魁斗は地面に仰向けになる。
「魁斗お待たせ、ただいま!」
「ああ、ああ!待った!おかえり、雫!」
2人は夕焼けに沈む丘の上で抱き合い、笑い合い、もうどこにも行かぬよう、強く、強く思い合った。
Fin.
堕ちる雫(仮) 八蜜 @Hatime
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