episode.9 憎しみ

「またか?」


「同一犯と見てまず間違いないと思います」


俺は麗央さんと一緒に警察から依頼があった事件現場へと足を踏み入れていた。


事件内容は被害者の内部から内臓など諸々の臓器が溶けて消えるというもの。これまで4人の犠牲者がでており、勿論その全員が死亡している。

警察側は連続溶化事件として捜査するが、異能の力によるものとだけが分かり、捜査は特課が引き継ぐ形となった。


そして俺たちは4人目の遺体の合った現場を調べていた。


「臭ぇな…」


「肉の溶けた臭いですからね…」


「お前もういいのか?」


多分体調のことを聞いているのだろう。あれから俺は片桐くんと唯を交えて話した。唯からの依頼内容それと俺の異能の事。片桐くんは最初戸惑うような素振りを見せたが自分の見た事が全てを物語っている事を理解したのか納得してくれた。


「あぁ、大丈夫です。ちゃんと話ましたし、理解してくれていると思います」


「学友は大切にしないとな」


その目が見据えるものを俺は知らないし、分からないが、時々このような表情になる麗央さんは何かを堪えているように見える。


「お前そういえば数字持ちと戦ったらしいな!どうだった?強かったか?何か情報を得たか?」


さっきまでの少ししんみりとした空気から一変、質問の嵐。


「戦いました。数字は1の妖魔で、名前は兜と名乗っていました。強かったですがもっと上が居るかと…」


そう、確かに強かった。でも麗央さんやおじさんに比べるとやはり見劣りする…それでも数字を持っている妖魔ではある為危険ではあるが…


「俺も戦ってみてぇな血湧き血湧き!」


「現れない方が良いんですから縁起でもないこと言わないでください」


再び被害者に向き直り状態を確認する。そして発見する。


「麗央さん」


「ん?なんだこれ…穴が開いてやがるな」


遺体の首筋に小さな穴が開いていた。


「刺し傷…パイプのような細い物で刺されてる?」


「被害者全員の共通点は無い。無差別が1番厄介だな…これ以上被害者を出さないようにしたいが…ん…?」


麗央さんが鼻をヒクヒクさせ、辺りの臭いを嗅いでいる。


「肉の溶けた臭いで分からなかったがなんか臭い混じってないか?」


俺も一緒になり、辺りの臭いを嗅ぐ。肉の溶けた臭いの他に少しだけ泥水のような臭いが混じっている。


「なるほどな。被害者がなぜ、朝になるまで見つからずに居たのか。分かったぜ。被害者は後ろから奇襲されたため、声を出す暇もなくやられてしまった…」


「ですね、泥水の臭いがしたのは奇襲の際にマンホールの中に居たから…」


被害者4人全員がマンホール近くの路地で被害に遭い倒れていた説明がつく。


「なら今も下水道に居るかもな、汚ねえ仕事だがやるか」


これ以上被害者を出さないために早急に俺と麗央さんはマンホールの下へと向かうのだが…


「すまん魁斗、俺は入れないから頼んだぜ!」


「おい!麗央さん自分だけ逃げようだなんて甘いですね」


「いや、俺デカすぎて入れないんだって」


「帰ったら飯奢ってくださいよ」


「任せろ!」


そう約束をし俺は地下へ、麗央さんは地上から探す事になった。



数時間地下を探すが一向に妖魔の気配はしない。麗央さんと位置共有をしつつ全体的に探す。


「見つからないし、鼻がおかしくなりそうだ…」


鼻をつまみながら歩くが数時間も同じ空気を吸って慣れてしまった。人間の環境適応力は凄まじいと実感してしまう。


「……!?」


臭いは激しさを増し、周りの空気がガラッと変わるのを肌で感じ取る。


「来る…」


ゴポッゴポポ…


水面から湧き出る空気、程無くして妖魔が現れる。人間型の妖魔で、口からはホース状に長く伸びた舌、その先には被害者達に開いていた穴と同じ形状の鋭い針のような物が付いている。手には水掻き、身体は粘液で覆われているのか滑っており水中生物を彷彿とさせる見た目。だが、二本足で直立している。正直に言おう、気持ち悪い。


スマホから麗央さんに位置情報を送る。


「麗央さん見つけました。位置情報の場所まで来てください」


『了解だが、少し遅れる』


「何かあったんですか?」


『こっちにも妖魔が湧いててな。これを片付けてから合流する』


「分かりました」


スマホをしまい鞘から刀を取り出す。


「一心流・徒花(あだばな)」


水棲妖魔を斬る。通常、斬った傷からは血が飛び散る物。だが、この技は血が飛び散らない。


斬られても何ともない体に違和感はあるが、自身に効いていないと思うや否や魁斗の元へと飛びかかる。


「…」


ブシャァ…ベチャベチャ…


魁斗は確かに対象を斬っていた。動かなければ傷は開かなかった。無理に動かした為傷を広げたのだ。

一見無駄に見えたこの技は相手の自滅を誘う技である。妖魔に対しての憎しみから生み出された魁斗の技の中で最も“痛み(・・)”を伴う技である。


ガァガガガ???


「おい、どうした?治るだろ?」


倒れ動けない妖魔の腕を刺す。


ガァァァ!!!


痛みにより声を上げる。


「犠牲になった人の痛みはこんな物じゃない!」


俺の両親だって…


刀を抜きもう一度刺そうと振りかぶる刹那、水棲妖魔の舌が動く。


魁斗はそれに反応し、振りかぶっていた刀を使い弾き距離を取る。その隙に治った足を使い、マンホールから地上へと脱出した。


「待て!」


妖魔を追い、地上へと出る。


「キャァァ!何よこのキモい奴!!しかも臭いわッ!!!」


「え、黑絵(くろえ)さん!?」


水棲妖魔は黑絵と呼ばれる人物へと飛びかかる。が、黑絵はその妖魔を右脚で蹴り上げる。そのまま数十m後方へと蹴り飛ばされる。


「え!?魁斗くん!?なんでマンホールから出てくるのよ!」


男は「度胸」、女は「愛嬌」、オカマは「最強」!このオカマは一体何者…???

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