episode.10 変容

「え、黑絵さん!?」


「え!?魁斗くん!?何でマンホールからでてくるのよ!」


「それはまたおいおい話します!一心流・咲華」


再び飛びあがろうとした妖魔を斬り伏せる。妖魔は斬られた痛みで声にならない声を上げ絶命する。塵となり消える妖魔を横目に黑絵へと駆け寄る。


「黑絵さん怪我はありませんか!」


「ええ、大丈夫よ…あ!?お気に入りのローファーが汚れてるわ!しかも臭いわ!臭いまで着いちゃってる!!!もう最悪よ!!!」


ジタバタとして落ち着きが無いように見えるが、こう見えて多忙で仕事熱心な人だ。普段は喫茶店・楼閣と呼ばれる、路地裏にある隠れた名店を経営しているマスターだ。


「お店の方は大丈夫なんですか?」


「ああ大丈夫よ、それよりも私貴方の格好が気になるのだけど…」


「あ、えと…」


それもそうか、俺は今黒スーツに刀を背負った格好をしている。何処からどう見ても不審人物だ…


(どうしよう…黑絵さんは信用できる人だけど特課で働いてる事はあまり話しちゃダメなんだよな…)ンー…


話そうか話すまいか思考し唸る。


「ま、無理に話さなくてもいいわ。うちの常連さんが危険なことしてるって心配だっただけだから。人には秘密の一つや二つあるでしょ、私にだってあるしね。でもそれも一つの魅力でしょ?」ウィンク


この人はこういう人なのだ。人の事をあまり詮索しない。秘密は大事な物で人間にとって必要な物という考え方をする人なのだ。それが俺にとっては居心地の良い物だった。


「ありがとうございます、また近い内にお店に行きます!それじゃ」


「ええ、待ってるわ」


麗央さんが迷子になっているみたいなので俺は黑絵さんと別れた後、麗央さんを回収しに向かう。


(あの服装、特課の制服ね。て事は魁斗くんは…)


「嫌になっちゃうわね」


遠ざかる魁斗の背を見送った後、翻し喫茶店に戻る後ろ姿は威風堂々としていた。



「ただいま〜戻ったわよ」


「おかえりなさい、黑絵さん」


喫茶店へと入りカウンターでコップを磨いていた黒髪長髪の少女は黑絵へと駆け寄る。


神夜(かぐや)

年齢24歳 喫茶店でウェイトレスとして働いている。彼氏は居ない。


「神夜これ冷蔵庫に入れといて、私少しシャワー浴びてくるから」


「ん?確かに黑絵さん臭い!!」


「私は臭くないわ!帰ってくる最中に物すっごい気持ち悪い妖魔を蹴り飛ばしちゃって、その体液が臭いのよ!」


「なるほど…早くお風呂入ってください」


神夜は黑絵の背を押しカウンターの奥、浴室へと押し込む。


(全く、ストレートに物を言うんだからあの子は…)


「あれ、黑絵じゃん。お帰り」


全裸で浴室から登場する銀髪、赤目長身のこの男は空蔵(からくら)。


空蔵(からくら)

年齢24歳 喫茶店での仕事はしておらず、夜に向かう仕事が本業。彼女は居ない。


「珍しいわね空蔵がこの時間に起きるなんて」


空蔵は普段、昼間の12時間は眠り夜に活動する。昼の間に起きているのは珍しい。その為、黑絵は空蔵が全裸でいる事よりも起きている方の驚きが勝ったのだ。


「うん、ちょっと目が覚めちゃってね…」


(空蔵が目が覚めるってよっぽどの事よね…何か悪い前兆かしら?)


「面倒な事にならなきゃいいけど…って!あなた何で裸なのよッ!!!服を来なさい!服を!あ、でもいつ見ても良い体してるわね…」


「ありがとう?でも入ってきたのは黑絵だけどね」




日が欠け、夜の帳が下り始める。そんなとある夜。森の洞窟内にて、7体の数字を体に刻んだ妖魔が集まっていた。


「すまねぇな遅くなった」


No.1「兜(かぶと)」

首筋に数字の1のNo.を持ち、日本の甲冑をそのまま着たような姿の人型妖魔。


「お前が遅れるのは分かっていた」


No.5「矛盾(むじゅん)」

西洋の鎧を見に纏う騎士のような見た目で右手に盾、左手に矛を持った人型妖魔。


「聞いたよ〜兜ちゃ〜ん、人間の子供(ガキ)に負けたって〜」


No.6「掟綻(ていたん)」

錠前で両腕を繋がれ、イヤリングのように耳にも錠前をつけている人型妖魔。


ケラケラと笑う顔は口が耳まで裂けたように口角が限界まで上がり、ギザギザと尖った歯が月に照らされ光る。


「馬鹿にする笑い方はよせ、掟綻。兜とて油断する事もあるだろう…子供なら尚のことだ」


No.4「龍帝(りゅうてい)」

幻想種の龍がそのまま現れたような見た目の龍型妖魔。


「相手が子供でも油断しないようにする事が大事でしょ〜?」


「掟綻の言っていることは尤もじゃ。兜や、“数字持ち”の顔に泥を塗ったんじゃ。落とし前、つけんとの?」


No.3「音波(おんば)」

杖をつくお年寄りのような見た目の人型妖魔。他の数字持ちに比べて人に近い。


「分かってます。次は必ず息の根を止めます」


「どうでもいいけど、話し合う必要があるから呼び出したんじゃないの?薄暗い洞窟になんか長居したくないから早く本題にはいりましょ」


「ぁ…ぁ…あ…」


No.2「泡沫(うたかた)」

大雑把に後ろで結んだ蒼髪、切長の蒼目。美しいを身体で表現したような人型妖魔。


No.7「生誕(せいたん)・前(ぜん)」

下半身が液体のように溶けており、背中からは木の枝のような物が生え、枝からは水風船のような物がぶら下がっている奇妙な姿の妖魔。


「そうじゃったの、全員集まったからのう。我々が探し求めておる“天の盃”についてじゃ」



感づく1人、企む7体。待ち受ける者は…

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