episode.8 起死回生

「うるさくて不快かもしれないけど、我慢して!」


声を出して彼に伝える。視界の端に映る彼はヘッドホン越しに必死に耳を抑え苦悶の表情を浮かべていた。


「お前はこっちに集中だろ!?」


「くっ…」


刀と刀が交わり、金属音が辺りに響く。


(正直受けるので精一杯だ…)


「お前の仲間に足に特徴のある人型妖魔はいるか!?」


「俺がそんなの知る訳ないだろ!」


流石は“数字持ち”なだけはある。妖魔には稀に数字を身に宿す者がいる。それは妖魔として一つ上の段階へと成長した事を意味する。そして数字を身に宿す妖魔は全部で7体確認されている。


(だが、数字で強さが変わる訳じゃない!)


「一心流・桜華(おうか)」


先までは刀と刀のぶつかり合いであったが技を使用したことにより魁斗の刃は兜の身体に届いた。



(硬い…)


「剣技はお前さんの方が上、でも力(パワー)は俺の方が上だッ!!!」


兜割(かぶとわり)


上段からの振り下ろし。自身の刀を右手で抑え、振り下ろされる刃を受け止めるが、力及ばずそのまま振り下ろされる刀は魁斗の右肩から切り裂く。


「ッ…」


「ほう、折れぬとは…良い刀だな」


垂れ流す血の勢いで致命傷だと言うことが分かる。


「おい、大丈夫かよ!」


「ゴロゴロ…」ゴフッ


(ダメだ…素人目の俺から見ても分かるこの人はもう助からない…)


駆け寄ろうとする雪喜を手で静止させる魁斗。だが誰が見ても彼はもう死ぬ間際であった。話そうと息を吸うと裂けた肺に血が入り喉から不快な音が出る。右肩から胸部に向けて裂けている為、右腕はもう使い物にはならない。


「さて、そのままじゃ辛ぇだろ?介錯してやんよ」


再び刀を上に構えて振り下ろす。雪喜は目を逸らした。もうこれ以上彼の痛々しい様子を見る事はできなかった。


ゴトッ…


何か重たい物が床に落ちる音がする。雪喜が再び目を開け、床に転がった物に目を疑う。そして全体へと目を向ける。


「え?」


「な、なんだと???お前!?まさか!」


「危なかった…」


床に転がった物は兜の両腕であった。刀ごと床に転がっていたのだ。そして、瀕死の状態であった彼は立ち上がり刀を再び鞘に戻していた。


「俺の異能は“不死”致命傷になりうる傷を受けると自動的にその傷を治す」


「ふっ、異能の存在を忘れていた俺はまんまと油断したって訳だ…」


「ああ、そうだな。一心流」


居合・懺悔(ざんげ)


居合にて首を刎ね、再び鞘に刀を収める。そして彼彼女らの元へと歩く。


「ごめん、話を聞いてて…」


「いや、正直助かりました…」


(他にもっと聞きたい事あるけど、この化け物の事とかその体の事とか…)


「幽霊さんは片桐くんに何かするって訳じゃないんだよね?」


「…」コクコク


魁斗の問いに幽霊は頷く。魁斗は再び兜の方へと向き直る。


(結局、聞きたい事聞けなかったな…ん?)


なんで消滅しないんだ?まだ終わって…ない?


「よっこらせっと…すまんがお遊びはここまでつう事だな」


斬られた腕が動き出し元通りに治る。治った右腕で自身の切られた兜を持ち上げ頭にくっ付ける。


「“数字持ち”なだけはあるな…」


再び刀を構えるが、視界が暈け始める。


(不味い、もう副作用が出始めた…)


瞬きをする刹那、兜は動き出していた。


「反動があるのか?それとも何回も行えないようだな!」


兜割


(今度あの技を受けたら本当に何もできなくなる!)


受け止めようと刀を構えるが間に合わない。本当に刹那の間であった。


ピキィィィィィィィッ…


兜割、兜の技が当たる直前、魁斗の周りが透明な氷塊に覆われる。


「これは!?」


後ろを振り返り驚く。この氷壁を作り出したのは彼だと言う事に。


「使うつもりは無かったのに身体が勝手に動いてた…」


当の本人も驚いた様子だった。氷塊の様子から察するに兜はもう逃れているであろう。


「ありがとう、助かった。また後日ちゃんと話そう。それとこの事は内密に、ね?」


そう言い紘さんに連絡を取る。


その後は紘さんの“異能”を使い西棟から脱出、駆けつけた麗央さんに氷塊の除去を頼み、限界の近い俺は軽く報告して帰宅。


家に着いた時にはもう倒れる寸前でまた玄関先で出迎えてくれた雫に凭れかかり眠った。



ピーンポーン…ピンポーン…


今回は雀たちの鳴き声ではなく、家のチャイムにより目が覚める。


(どれくらい眠ってたんだろう…)


電子時計は17:01を表している。


「おー…ス…って先輩が!女の子連れ込んでるッ!?」


「あ、あ、あの…」


(あいつ…)


チャイムを聞き結奈かと思ったのか警戒もなく扉を開けた雫は困惑。男が扉の前に立っているだからそれは恐怖以外の何物でも無かったであろう。雫は魁斗以外の男には近づかない為、不意に急接近されパンクしているのである。


《豆知識:基本的に唯は人との距離が近いので勘違い製造機なのである。》


「雫、こっち」


俺の声を聞き一目散に俺の後ろへと隠れる。慣れてほしいものだがこればかりは難しいだろうな。


「先輩ー!!やっぱり彼女いるじゃないっスか!」


「彼女じゃない、預かってんだ。それでお前は何しに来たんだ?」


「あ、そうそうっス。ほれ来てきて」


手招かれ現れたのは片桐雪喜。申し訳なさそうに眉を顰めている。


「片桐くん?」


「真季波からある程度話を聞きました。けど、先輩から聞いた方がいい気がして…疲れてるのにすみません…」


(異能の副作用のこと話してなかったもんな…てか話す暇なかったしな…)


唯が手を立てて謝っている。多分勝手に話した事に対してだろうけど…唯の事だ、重要な事に関しては俺の口から話させるよう片桐くんに伝えていないはずだ。


「大丈夫。後日ちゃんと話すって言ったもんな」


魁斗は話す、自身の異能について、そしてなぜ自分がそこに居たのかを…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る