episode.42 悪の権化


政府非公式技術センター。

別働隊。蜜璃、紘、落葉の3人は破壊された研究施設内部を探索していた。


「蜜璃ここは?」


「端的に言えば政府が非公式に行っていた実験施設」


「瓦礫ばっかで何もねーぞ?」


「生誕を殺す前に彼奴の記憶の一部が流れ込んできた。それ(・・)を起動されると不味い」


「それって?」


「人工殲滅機能(ジャガーノート)。詳しくは分からんが地球外生命体が元になってるらしい」


「地球外生命体?」


「約1000年前に空から飛来したそれ(・・)は暴れ回ったが、神器が1人で撃ち倒したらしいぞ」


「あ〜」


落葉は神器の力を目の前で目の当たりにし、肌で感じていた為、苦笑いを浮かべる。


「神器が崇められそれと同時に恐れられる所以と言ったところかな」


「まあ当時の人は気が気じゃなかっただろうね…」


地下へと続く階段に差し掛かる手前で先を歩いていた蜜璃は静止する。


「紘、ここから先は地獄だが…それでも俺はお前は知っておかなければならないと思ってる」


「ん?どゆこと?」


「ここから先の景色を目の当たりにしても平静でいろ」


「…」コク


蜜璃の念押しに疑問を抱きながらも紘は頷く。蜜璃に続き紘、落葉は地下1階へと足を踏み入れた。


「血の匂い…?」


足を進めるとそこには数千に及ぶ死体の山が形成されていた。全て裸体であり、腐敗臭もしない事から殺されてからそう時間は経っていない。


「は…」


落葉は紘の様子がおかしい事に気がつく。声をかけようとするが、紘はゆらゆらと歩き蜜璃の胸ぐらを掴み声を振り絞る。


「これはどう言う事だよ…なんで俺の弟がこんな、こんなに居るんだよ…」


「これはお前の弟であって弟じゃない。クローンだ」


「クローン!?クローン生成技術は完成してたのか!?」


「そんな事どうでもいい!!何で弟のクローンなんだ!!」


「落ち着け。お前の弟は“雷神”の異能力者。電気系統でできる事は大抵できる。その能力には前々から、生前から政府に目をつけられてた。そんな時に妖魔と交戦、戦死したらその死体に目をつけるだろ“実験体ができた”てな」


紘はその言葉を聞いた後、蜜璃を投げ飛ばす。蜜璃は投げ飛ばされ瓦礫に埋もれる。


(あの言い方は不味かったね。本当の事かもだけど)


「蜜璃お前も関わってたのか?」


「言っただろ、俺は生誕の記憶を見ただけだ。クローン生成技術は生誕の後押しもあれば作るのは容易。電気系統能力者のクローンなら大量に作られても困らないからな」


瓦礫から這い出て汚れた服を叩きながら答える。


「弟はあの時に死んでるんだ。もう、役目は終わってんだ。なのに墓荒らしみたく、弟の死体利用してクローン(こんなもん)まで作りやがって…」


「それが今利用されかねない。下に行くぞ。あれを使われたら被害はもっと広がる」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ジャガーノートが再び主砲を構える。


「あれ(・・)がくるぞ!」


「やばっ!?」


主砲から放たれる一筋の光。“超電磁砲”の威力。それらは魁斗達の予想を遥かに上回る力だった。


「ははは、ほらほら焼け死ぬか、踏み潰されて蟻のように死ぬか?どっちだ〜?」


高笑いする千脚に対して魁斗は奥歯を噛む。


(今対抗できる手段がない…雫を早く助けないと…ん?待てよ。ジャガーノートの攻撃に共通する事がある…!)


ジャガーノートと千脚を見据えながら魁斗は思考する。


(やっぱり!)


そして、それを見つけた。


「麗央さん敵の注意を引いて!」


「よく分からんがおう!」


麗央は“陽炎”を使い、周りの瓦礫を気化させ煙を発生させる。その煙はジャガーノートの足下から上へ立ち上り千脚の目を遮る。


(静恵さん!守人さんに伝言お願いします!)


静恵と“共有”で繋がっている為、作戦を頭で伝える。


「りょーかい!守人!」


それを受けとり、守人へとその作戦内容を伝える。


「アイアイサー」


“桜花(おうか)”


煙の中から正確にそれを斬り裂く。


ガガガガガッガンッ…


「なっ!?」


(あいつケーブルを斬りやがった!?)


ジャガーノートの動きが止まる。


「思ったとおり、ジャガーノートの動力源は電気!ならその供給を断てばいい」


魁斗はジャガーノートの攻撃である“超電磁砲”、“電撃”、防御である“電磁バリア”全て電気で賄われている事を見抜き、その動力である電気を送る為のパイプであるケーブルを斬り裂いた。


“長距離弾道砲・CO”


(電磁バリアが貼れなければその兵器はただの鉄屑ッ!)


“炎帝”


(電撃が来なければただの紙切れだろッ!!)


守人の高威力の弾丸と麗央の炎の爆発が合わさり、ジャガーノートはその形を変形させながら吹き飛んでいく。


「やった、か…?」


「麗央避けろッ!!」


ジャガーノートが吹き飛び、砂煙が登る場所からの一直線に放たれる“超電磁砲”。

それは麗央に命中するかと思われたが、異変にいち早く気がついた魁斗が庇う。


「まじかよ!」


「きゃっ…!?パスが切れたわ、魁斗!!麗央無事!?」


“共有”はパスを繋げた対象が攻撃を受け、それが能力者本人に変換される時、能力者本人が受け切れないようなダメージはパスが強制的に外れる。


パスが外れたと言う事は静恵が受け切れないようなダメージを2人が受けた事。


「すまねぇ、魁斗無事か!?」


「っ…」ケホッ


直撃はしなかったものの、横腹を抉られ“超電磁砲”による熱線で皮膚が焼けていた。


(くっ…これは治す他ねぇ)


“瞬脚”


オルタが魁斗の傷の具合を見て異能を発動させようとした刹那。魁斗の横に居た麗央が後方へ吹き飛ぶ。


「“居ー”ゲホッ!」


刀を握り技に移ろうとするが横腹のダメージが大き過ぎ体制を崩す。


“鉄脚”


それを見逃してくれるほど、千脚は甘くはなかった。千脚の足は色を変え鉄と遜色無い硬さとなる。脚力に身を任せた一撃は容易に刀をへし折った。


「っ!?」


(まずい!!間に合え!)


千脚のその行動は心中にあるオルタの行動を嘲笑うかのように、無慈悲であった。

千脚は先の攻撃の反動でよろける魁斗の胸を腕で貫く。


「俺たち妖魔が他人の異能力を取り込む為の1番簡単な方法。それは異能力者の心臓を喰らうこと♪」ニタァ


そう言い、魁斗の胸を貫いている腕を引き抜く。引き抜いた千脚の腕には魁斗の心臓が握られていた。

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