episode.26 邂逅

「…」


あの襲撃から半日が経ち、帰還した蜜璃は事の顛末を結奈、静恵から聞いた。

部屋の中央には“再配列”により完璧に治っている紘の死体。その側では2人が寄り添い合っている。


「紘さんが…」


「結奈…」ギュ


静恵は涙を堪える結奈をそっと抱き寄せる。


(俺の異能が戻ったとはいえ、“再配列”の能力は死んでいるやつの肉体は治せても生き返らせるなんて事はできない…ここで紘を失うべきじゃなかった…それだけでなく守人が裏切るなんてな…)


蜜璃は別の部屋へと移動し、凪を待つ。

部屋の戸から声がしそれに蜜璃が反応すると襖を開け凪が部屋へと入ってくる。


「ふぅ…麗央さん運び終わりました」


「凪助かる」


「いえいえ…何もできなくて不甲斐ないです」


凪は疲弊し切っていた。

守人の裏切り、そして紘の死を知った麗央は怪我も治さずに屋敷を出ようとしていた。それを注射を使い眠らせ、一室へと運び込んだ。


蜜璃は思考する、残る戦力と今の現状を。


特課

帯人、麗央、蜜璃、静恵、魁斗


尸楼

神夜、黑絵、空蔵


妖怪、協力者

凪、ぬらりひょん、三大怪異、神器



妖魔

No.2〜No.6までの数字持ち


数字持ちではないがその上位存在に当たる妖魔

(まだいる可能性がある)

千脚


妖魔の王

釈迦


他にも低級とはいえ数千〜数億の妖魔も集まるとしたら…


「そこに守人が加わる…戦力差が開き過ぎてる」


「“妖魔は人を喰らい、双極は王を守り、数字をその身に刻む獣は盃と水を王へ献上する”」


そう声に出しながら襖を開け部屋に入ってくる人物の名は鹿目帯人。手には古く所々破れた本のような物を持っていた。

蜜璃の異能“再配列”により傷を完全に治し復帰。


「この古い文献、書物に記されていた一節だ」


「書物に書かれている事が実際に起きてるってのもおかしな話だ…その作者は未来でも見えんのか?」


「この書物を書いた人物は“未来視”の異能を持っていたらしい。さっき国の上層部から送ってもらった」


「盃は“天の盃”、水が“神の真水”だとするなら奴らの狙いと一致しますね」


これからどうします?と言う凪の問いに帯人は唸る。


「奴らの狙い、“天の盃”、“神の真水”をこちらで先に回収するしかないな」


「簡単に言うが帯人、何処にあるとも知れない物をどう回収するんだ?」


「“神の真水”の在処は分からんが、“天の盃”は既に回収済みだ」


「回収してるなら教えてくれたっていいだろ」


報連相しっかりしろ!そう蜜璃に言われ頭を掻く。


「そうだなすまん。俺も初めて会った時驚いたんだ。まさかこの子が国宝“天の盃”だったとはってな…」


帯人の言った事に蜜璃と凪は驚く。


「会った?この子とはどう言う事だ?まさか国宝が生きてて動くなんて事言わないよな?」


「そのまさかだ。彼女は人間でもなければ妖魔や妖怪でもない。彼女は“神の真水”の受け皿として生まれた“天の盃”またの名を雫。魁斗が保護した少女だ」



唯に連れられ訪れた場所。そこは学校とは言っても使われていない西棟。俺と片桐くんが初めて出会った場所であり、“数字持ち”の妖魔、兜と戦った場所。


「先輩〜こっちっス」


腕を引っ張られながら魁斗は重い足を動かす。


「唯、俺はこんな事している暇は無い。一刻も早くあいつらを殺さないと」


魁斗の目には千脚に対する憎悪が満ちていた。


「先輩が探してた両親の仇敵をやっと見つけて一刻も早く討ちたいのは知ってるっス」


「だったら何でこんな場所に連れて行く!!」


声を荒げる。どうしようもない憎悪が魁斗を包んでいる。


「今の先輩じゃあいつに勝てないっス」


「そ、れは…」


「一旦冷静になるっス。その冷静になる為の時間をちょっとだけ自分に欲しいんスよ」


そう言い唯は魁斗の腕を引く。

西棟の使われていない空き教室。その教室には雪喜が既に待っていた。


「よ、雪喜!お待たせっス」


「うん。お久しぶりです夜屍先輩」


そう言い雪喜は魁斗に頭を下げる。


「それじゃ本題っス。この学校に妖魔の王が居るらしいっスよ」


「は?」


「妖魔の王ってあの兜の奴を従えてる奴?」


「端的に言えばそうっスね」


「ちょっと待て!何でそんな事お前が知ってんだよ」


話が飛躍し過ぎて魁斗はまったくついていけない。


「先輩が学校に来てない間も俺にできる事なんか無いかな〜って色々探ってたんスけどまさか当たりを引くとは思ってなかったっスね〜」


そう言えば前からそうだ。いつも何処からか情報を仕入れてくる。こいつの能力とは別に情報収集能力がずば抜けて高い為だろうか?


「でも妖魔の王って事は妖魔だよね?なら何で人間の学校なんかに?」


「それが自分も驚いたんスけど人間らしいっスよ」


「は?」


(あいつが人間?)魁斗は疑問に思うが少し接敵した時など、思い当たる節は充分に合った。


(…確かにここの制服に似たの着てたな)


「人間でも妖魔の王って名乗ってるならそいつは敵だろ?」


雪喜の問いに唯は答える。


「だと思ってここに呼びました〜」


「えっ!?」「はぁ!?」


2人の声が重なる。そして雪喜が先に気づく。こちらに近づいてくる足音を。


「何のようだ、真季波唯。私は忙しいんだ。ん?そっちは先日見た記憶があるな…」


「お前が…」


魁斗の拳に力が入るが、唯はそれを手で触れ制す。


「…っ」


「いいっスか先輩。ここで俺たちが生き残れてる事自体奇跡なんスよ?俺たちはいつ潰されてもおかしくないんス」


確かに釈迦の異能であれば俺たちを触れずに圧し潰す事など造作も無いだろう。


「聞きたい事があるんスよ。どうして妖魔達を率いてまで“天の盃”“神の真水”を求めるのか。人間である身なのに何故妖魔から王と呼ばれ慕われているのかっス」


「それを知って何になる。お前たちが私の敵である事に変わりはない。それとも理由を知って“天の盃”“神の真水”をはいどうぞって渡してくれるのか?」


「俺の我欲、興味本位っス。だから答えなくても良いっスよ〜」


(覗かせてはもらうっスけど)


真季波唯

異能「“境界”」

その能力は相手と自分の間にある不干渉の領域を無くす事。釈迦がここに来た時点で情報は筒抜け。


暗い嵐の中で1人佇む少年、そしてその子を助けようとする人型の妖魔。その一瞬の光景だけが見えた。


「クッ…はぁはぁはぁ…」


(なんだ…今の…頭がパンクしそうっス…)


「おい、唯大丈夫か!?」


「お前、何した…?」


いきなり頭を抱え、膝をつき苦しみ出す唯に雪喜は駆け寄り、凪は唯と雪喜の前に出て刀に手をかける。


「何もしてはいない。何かをしようとしたのはそっちだろ?真季波唯」


「…っ」


「私は妖魔の為に神になる。そして、人間が居ない世界を作る」


そう言い、去ろうとする釈迦の背に唯は語る。


「それはお前の真意か…?」ハァハァ


「…当然だ」


釈迦は一瞬歩みを止めたが、唯の問いに答えると西棟を後にした。


その後、唯は歩けるようになるとぼーっと何かを考えながら片桐くんと教室へ戻っていった。

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