episode.31 輝き その2

再び主砲を麗央に向け構える。


(麗央はのんきに歩いて向かって来てる。油断してる今、多分一発撃ったら終わり。見切られたり避けられても終わり。なら絶対に外さない射程距離内ギリギリまで引き寄せー)


守人は麗央の接近に対して動かない。そのことに一部始終を空から見ていた泡沫は援護に回る。


“槍雨”


だがやはり相性の問題なのだろう。麗央に攻撃が届く前に蒸発してしまう。


「おいおい、蒸気で前が見えねぇじゃねぇか」


(頼む守人気づいてくれ…)


泡沫は守人が自分の出した攻撃のヒントに気づいてくれるか正直賭けだった。が


(ナイスだ泡沫!)


その賭けは泡沫の勝ちであった。


“才能開花・砲塔機銃(ほうとうきじゅう)”


守人の今出せる最大出力の固定砲台。その高密度の弾丸は射線上にいた麗央諸共吹き飛ばし消し去った。地面に固定した四肢が軋み、全身が悲鳴を上げている。


「やったじゃん」


「泡沫の機転でどうにかなったって感じだな」


感謝の言葉は吐けない。なぜなら相手は一時的な仲間と言えど妖魔だから。それは泡沫自身も分かっていた。だから敢えて何も言わない。


「談笑してるとこ悪いけど、君はここでさよならだよ」


「は?」


突然自身の目の前から消える泡沫。そして目の前に現れる新たな妖魔。名前を千脚。妖魔の王の双極にして、妖魔陣営最高戦力。


「なんで泡沫を!」


理解できなかった。今妖魔同士で仲間割れをしている場合ではないためである。


「え~だって前から気に入らなかったんだよね。無暗矢鱈に人間を殺さず、人間に優しく、妖魔内でも変わり者だったんだよね~」


「気に入らないからって…仲間を殺すのか!」


「はは、君面白いこと言うね」


守人に顔を近づけながら口に出す。


「君だって今さっき仲間を殺したじゃん」


「ッ…!!!違う!!」


「ははっは、同じだよ~。君は自分の意志で仲間を、俺も自分の意志で仲間を殺した。何が違う?綺麗ごと言うなよ~だって綺麗ごとで片付くほどこの世界甘くないし、君が仲間を殺したっていう事実はもう変わらない。覆しのしようが無いことなんだから~」


「ッ…!!」


こいつの言ってることは全部合ってる。だから言い返せなかった。


「「勝手に殺(すな!)さないでくれる?」」


声のした方を二人は一斉に振り返る。そこにいたのは倒したと思っていた麗央、そして泡沫であった。


「へ~生きてたんだ」


「正直、少しヒヤッとしたがそもそも俺は攻撃が届く前にその攻撃を無効かできるから心配しなくても大丈夫だったぜ」


「相変わらず出鱈目過ぎるでしょ。てか、なんで敵である泡沫が麗央側に立ってるの?」


「千脚、私やっぱり人間と争うべきじゃないと思う」


「はあ~だから、綺麗ごとだけじゃ現状は覆らないんだよ!!」


向かってくる、千脚の足捌きは卓越したもので麗央は敵ながらそれを美しいと感じていた。だが相手は麗央である。肉体の強さは人間を辞めているとすら思える。それに加えて“陽炎”という強力な異能力もある。万に一つも千脚に勝ち目などー


「炎ー」


「あれ、良いの?そんな物騒な異能こんなところで使って?」


「ッ…!!」


“百足”


麗央と千脚の一瞬の問答。麗央は異能の発動を躊躇した。その理由は答えるまでも無い。麗央の異能は“陽炎”。一対一での戦闘では最強と言える。それが欠点でもある。多数の仲間との共同戦ではその真の能力は発揮できない。


『周りを巻き込むから』である。


その一瞬の隙を付かれた麗央は千脚の攻撃“百足”を受けてしまう。

“百足”

一秒間に百発の連続する蹴りを相手に与える技。

普通の妖魔の蹴り程度であれば麗央にダメージは無い。だが相手は千脚。麗央の内臓には先の戦いでのダメージと今受けた攻撃のダメージが蓄積されていた。


「ぐっ…」


「麗央!!」


苦しそうに顔を歪め、膝をつく。畳みかけようとする千脚の間に泡沫が割って入る。


「邪魔、君さっきの攻撃のダメージ残ってるでしょ?それにほら雨も上がった。君はもう限界だ」


技でも何でもないただの蹴りで泡沫は数十メートル離れた壁に激突し倒れる。


「ぁ…」


(動け!頼む!動いてくれ!)


歯を食いしばり、軋み悲鳴を上げる体に鞭を打つ。だが才能開花の影響、麗央の“炎帝”のダメージ、それらすべてが壁となって守人の体を地に縛りつける。


「じゃあね、麗央君♪」


“空間転移”&“部分転移”


千脚の蹴りは麗央の首を捉えたはずだった。だが千脚の蹴りは、足は、麗央には届かなかった。


「お待たせ!時間かかったけど俺ふっか~つ!!」


「はぁ!?」


「遅いよバカ…」


麗央が驚きの声を上げるのは無理もない。そこに居るのは死んだはずの紘の姿があったからだ。


「人質の救出に手間取っちゃってね!でもナイスタイミングだったでしょ!」


「どうして死んだはずの紘がここに…!?まさかあの時!!」


「ご明察。守人に首絞められてた時、耳打ちされたんだよね~」


「国が妖魔と手を組んだ」その一言で紘は守人が否応なしに妖魔側に手を貸さなければいけないと察した。


「守人の弟が国に仕えてるのは周知の事実だからそれ以上言葉はいらないよね?後は死んだように見せかけて“空間転移”で人質になってる人を救出してお終いって感じ、OK?」


「殺したと思わせることで守人の妖魔側での信頼を厚くし、死んだことで紘は自由に行動できたってことか!?」


「そそ」


「長々長々、べらべらとおしゃべりが好きだね…」


千脚の様子、雰囲気が変わったことで先の和気藹々とした空気は一変する。


「おしゃべりついでに助っ人も呼んできたよ」


“空間転移”


頭上に現れたワームホール。そこから出てくる二つの影。一人は住永静江。もう一人は夜屍魁斗であった。


交わる影、決戦の火蓋は切られる。怨敵を滅せよ。

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