堕ちる雫（仮）

episode.30 輝き

爆発の衝撃を感じ取った麗央。だが、それを確認するためここから離れる事はできない。それは目の前、上空にNo.2の妖魔、数字持ちが居るからだ。

No.2泡沫

「掟綻、相変わらず汚い奴ね…」

「おい、この爆発の原因知ってんのか？」

「この爆発は掟綻の異能で自爆型と化した妖魔の連鎖爆発。恐らくあの一撃で避難所は崩壊してると思うわ」

「避難所を狙ったのか！？」

「私の見える限りだけどね」

「そっか！教えてくれてありがとな！じゃ俺はこれで」

走り去ろうとする麗央の行手を空中からの水柱で引き止める。

「まっ、そう簡単に助けに行かしてはくれねぇか…」

（大穴は塞がなきゃならねぇし、蜜璃達も助けに行かなきゃだし、俺多忙過ぎねぇか！？）

「私は戦闘とか得意じゃないから彼が貴方の相手をするらしいわ」

そう言い右に身体をずらした泡沫。キランッという光と共に麗央に凄まじい衝撃が走る。

吹き飛んだ麗央は瓦礫の中へ消える。

街の中心から少し離れた位置にある塔。その最上階では頭が銃の砲身となった人間が四肢で身体を塔に固定し弾を撃ち出していた。

「さぁ1発目だ。どうかな？」

千手守人

異能力“器官銃”

身体の部位を銃に変える事ができる。身体全身を変形させれば防御力は鋼をも上回る。

瓦礫から這い出てくるのは人間。だが、人間と呼ぶにはあまりに人間離れしていた。何故ならばさっきの銃弾で普通の人間ならば即死の重症のはず。だが、出てきた麗央の直撃した横腹は血が滲んでるほどで大した傷では無かった。

「バケモノが…」

「守人か…紘の仇、取らせてもらうぜ！！」

守人の遠距離から攻撃に集中しようものならそれを逃さず泡沫が邪魔をする。そして絶妙なタイミングで守人の援護射撃が来る。いくら麗央と言えどもこれを突破するのは非常に困難であった。

（守人の攻撃は正直何発も喰らいたくは無いな…）

「“水柱砲流(みずばしらほうりゅう)”」

空中から大質量の水が柱のように地面に穿つ。直撃した場所は穴が空いたように抉れている。それは神夜の一点集中、“高出力水砲”以上の威力であった。

麗央は避ける事ができたが、避けた先にまたあの長距離射撃が合わさる。

「2発目命中」

「これは結構まずいな…」

麗央がそう思うのは無理もない事である。麗央が一撃目に受けた傷をまたも正確に打ち抜く守人の射撃精度。そして

（この雨、俺の所だけ降ってる…それと上空を舞ってるあの鯨も警戒しないと…）

「あ〜クソ！俺やっぱり多忙すぎる！！」

「“槍雨”」

麗央に降り注ぐ雨が水の槍となり、麗央を襲う。が、麗央は避けず全てを受ける。

そして守人が放つ3射目までも麗央に直撃する。

「何、諦めたの？」

泡沫がそう思うのは無理もない。だが、泡沫は知らないこの男の事を。

「いや、麗央は簡単に諦める男じゃない…」

（それは分かってる…でも俺の3射目は確かに傷に命中した…その後煙で見えなくなった…煙？）

そして、この男も麗央と言う男の事を知らなかった。唯一知っている、理解できるのは帯人という男だけ…

「俺にこれ使わせた事…誇っていいぜお前ら」

麗央に降り注ぐ雨は麗央には当たらず気化していく。麗央が地面を踏むとその地表は液状化し沈む。これが麗央の異能。

貞島麗央

異能「“陽炎(かげろう)”」

自身から太陽のような熱を発生させる。発する熱量は周りの物を気化並びに液状化させていく。

「これを最後に使ったのは帯人との戦闘以来だな！」

「ッ…！？」

「お前の異能は水に関係するもの、なら俺の異能の前には無力だ。そこで黙って見てろ」

麗央は自身から発する熱を捏ね玉にし、塔の上にいる守人に向かって投げる。

「っ…やば！？」

「“炎石(えんせき)”」

守人は反動を抑制する為、四肢を塔に固定していた。それが仇になる。自身に危険が及ばないようにしていたことが逆に自身の首を絞める形となった。

麗央の炎を纏った投石は数キロ離れた距離にいる守人の頭上まで飛ぶと

「“炎帝(えんてい)”」

炸裂した。逃げ遅れた守人は“炎帝”の放出する熱量をもろに受けてしまう。

爆発の余波で塔は崩壊。守人と共に地上に落下する。

「ぺッ…相変わらず出鱈目な強さしてやがるぜ」

主砲と化していた頭部は半分が人間、元の姿へと戻っており、露出した右頭部は火傷のような痕になっている。

「これでしまいじゃないだろう？」

数百メートルの所まで歩み寄ってきている麗央に

「ああ、そうだな」

主砲を構えながら返答。直後、麗央に放つが先の“炎帝”の影響で火力はお粗末。着弾はしたが麗央には傷一つ付いてはいない。

そもそも万全の状態であっても異能を発動させた今の麗央にダメージが入るかどうか怪しい。

（無理ゲー過ぎるでしょこれ…でも）

「やるしかないだろ！」

守人には戦う理由があった。それは特課のメンバーやその他の仲間たちを裏切ることへの説明としては十分すぎることだった。

（失敗したら弟よりも先にあの世行き…）

「麗央の無力化はできなくても、足止め、時間稼ぎくらいはできないとな！」