episode.29 目標達成
掟綻は自身の身に起きている事が理解できずにいた。いや、理解はできている。だが、信じられなかった。
(俺の皮膚は異能無しでどうこう出来るもんじゃねぇ!なのに、こいつ豆腐でも斬るみてぇに容易くやりやがる!)
未だ再生途上の飛ばされた足。片足で防戦一方の状態。異能を使おうにもその隙を与えない剣速。
「舐めるなッ!!」
さっきまでのニヤケ面は消え、焦りと怒りで満ちていた。片足の再生が終わり、一気に距離を取る。
が、それを許す帯人ではない。構わず突き進み畳み掛けようとするがそれを周りに居た下位の妖魔達に阻まれる。
「“限定解除・全鍵契棄(ぜんけんけいき)”」
その隙に掟綻は限定解除を行う。掟綻を中心に嫌な波動が周囲に飛ぶ。帯人は体に異変がない事に違和感を覚える。帯人は疑問に思う。急に動きを止めた下位の妖魔たちを見て。
「バーン!」
掟綻の声と共に帯人の目の前に居た下位の妖魔たちは一斉に爆発四散する。
「…ッ!!」
飛び散る肉片と砕けた骨はまるで散弾銃の様に帯人を襲う。ガードするがその際に掟綻から目を離してしまった。
「キヒヒヒッ、ダメじゃ〜ん?相手から目を離しちゃさ〜」
“発勁(はっけい)”
間合いを詰めた掟綻の拳は帯人の鳩尾に触れ直後、衝撃波が帯人の全身を駆け巡り後方へ吹き飛ぶ。
発勁とは、中国武術における力の発し方の技術の事。だが、今掟綻がやってのけた発勁…これは本来の発勁の威力からかけ離れたものだった。
(これは…前に一度受けた事があるな…)
薄れゆく意識の中で帯人が最後に感じたものは懐かしさであった。
それは帯人が麗央と知り合って間も無いころ…
「おい、そこの筋肉止まれ」
「あ?俺に言ってんのか?」
「そうだが?お前は幽閉者。大人しく牢に戻れ」
「断る」
「なら力づくだな」
「ふん、やってみろ!!」
幽閉者であった麗央は己の力を出しきれずもどかしい状態であった。言うなればパンパンに膨らんだ風船に空気を押し込むかのような。
交わる拳と剣。本来であればここで勝負は着いていた。そもそも麗央と互角以上の実力者など早々居るはずも無い。
帯人は麗央の右手、左足を切り落とす。が、反撃の拳をガード無しで受けてしまう。それでもなお、血に飢えた両者は止まる事を知らなかった。
好敵手。お互いが初めて全力をぶつけても良い相手。激戦であり、時間にして約1日と16時間36分の長い死闘であった。決着の着いた時、2人は地面に背をつけ楽しそうに話し合っていた。
「お前強いな…」ニッ
「お前もな」ハハッ
その間に出た被害は言うまでもない。超強力な結界を何重にも重ね、破れた直後に修復。そして深い森の中であった事が功を奏した。
(結界の担当は未継家が行った)イェイピースピース
時間にして数秒の気絶。とどめを刺しに近寄ってくる掟綻。
「お前の能力はコピーかなんかか…?」
「うそん…まだ立てるの?」
「麗央のパンチのがよっぽど効く…痛えことに変わりないがな」
「その麗央のパンチなんだけど…?」
「馬鹿が、あいつ本人の拳受けてみろ。こんなんじゃ済まねえよ」
掟綻は焦っていた。何故この男は立っているのか?幽閉者麗央の力は強大。それを受けて尚立っている。
(俺たち妖魔でも受けきれねぇもんをこいつ異能も使わずにどうやって…)
そう、帯人は異能を封じられている。それは鴎外の異能。彼が死して尚もその効力は発揮され続けている。
(さて、やるか…)
剣を持ち切先を掟綻に向ける。焦る掟綻は自身の従えている下位の妖魔たちに指示を出す。
「お前たちやれ!」
その指示を受け妖魔達は一斉に帯人の元へ飛びかかる。
(そうだ、あいつを囲んだ瞬間に爆発させちまえばいい。奴がいかにバケモノでも…は…?)
掟綻の見た光景は目の前で切り開かれる下位の妖魔たちの腹。返り血を浴びても尚、彼の目に映る妖魔は掟綻ただ1人であった。
「くっ…」ゾクッ
“限定解放・全鍵契棄”
2度目の限定解放。だが、帯人はそれを斬った(・・・)。
「は…??」
「“絶剣一太刀・一閃”」
「どう言う事だぁ!?異能は封じられてんだろぉ!!!」
「お前も見ただろ。俺の異能“絶剣”は異能を斬れる(・・・)」
「ッ…!?」
(そうだ、こいつは王様の異能をも斬った!?俺はそん時別件だったから見ちゃいねぇが…まさか本当だったなんてな…!!)
帯人は鴎外の異能“封印”によって封じられた“絶剣”を“絶剣”の能力で解いたのだ。
「キヒヒヒッ…そう来なくっちゃな!!」
“限定解放・全鍵契棄”
3度目の限定解放。流石は数字持ちと言ったところ。だが、本来掟綻は近接戦を得意とする妖魔では無くあらゆる角度、観点からの絡め手で相手を追い込む戦いを得意とする。
故に。
「“真剣”」
振り抜いた剣はその線上にある、あらゆる物を断絶する。
展開された“全鍵契棄”を断ち、腕で防御しようともその肉ごと心臓を切り裂いた。
再生不可の致命傷である。
(もう既に罠はしいてる…精々足掻くといいさぁ…)
「キヒヒヒッ…」
地に伏し塵になる掟綻を見届け、帯人は走る。向かうは大穴中央。そこに自身が信じたくもない“答え”が待ち受けているはずだから…
県立高校、体育館。そこは災害避難場所として開けられていた。そこには避難してきた住民が大勢いた。
「怪我した人はここへ!」
「押さないで!」
蜜璃、凪の2人は避難所に集まった怪我人を治療していた。
「凪、少し離れていろ」
「…」コクッ
身体を少し食いちぎられ意識の朦朧としている男性。その傷を“再配列”を用い治す。
「ありがとうございます!!」
「次、もう治ったのだから離れてください」
蜜璃に抱きつき嬉しさを表現する。
「ほんどうにー、アリガドウゴザイマス」
「…!?」
「蜜璃さんッ!!」
直後。
爆炎が周辺の避難所を呑み込む。遠くからでも目視できるほどの巨大な爆発。きのこ雲が上がりその黒煙と衝撃は下位の妖魔を討伐していた魁斗、静恵にも察知できるほどの高威力であった。
「あそこは!!」
「魁斗集中!今は目の前から目を背けちゃダメ!」
「…っ」グッ
刀を握る手に力を込め、2人は妖魔を討伐していく。
為すべき事を為せ…
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