episode.28 大穴

「と言う訳で、俺は異能が使えない。よって、戦力にはならないから後は頼んだぞ」


「お前!!!異能が使えないってどう言う事だよ!!!」


真季波邸内、部屋の一室。大広間に集まった帯人、麗央、蜜璃、凪、魁斗、唯、静恵、結奈、雫。

先ほどの帯人の発言に麗央は帯人の胸ぐらを掴み持ち上げ前後に揺する。


「それより、奴らの狙いは“神の真水”でしょ?その在処は分からないの?」


「文献にも記されていなかった。他の重要書類にもな。国の保管している宝物の中にもそれらしき物は見当たらなかった」


静恵の問いに蜜璃は答える。完全に手詰まりの状況に全員沈黙する他無かった。


(おじさんから聞いたけど雫が“天の盃”なんだよな…?)チラッ


自身の横に座る彼女に目を向けるが雫は宝物などとは思えない程人間であった。


「あぁん?」ピクッ


「どうした、麗央?」


ゴゴゴゴゴゴゴォゴォォォォォォォ…


何かに勘づいた麗央は部屋から出ていき素足のまま中庭へと飛び出る。その直後、地響きと共に地震が襲う。


「おいおい、マジかよ」


麗央に続き魁斗も外の様子を目の当たりにする。

この街に大きな穴が空いている。その穴からから妖魔の大群がこの街に這い出ている。


(街の中心って確か国の重役がいたはず…そこをピンポイントで狙ったのか!?)


空には黒い鯨のような生き物が宙を待っている。鯨は不気味な鳴き声を出しながら背中から潮を吹く。その潮の量は桁違いに多く、暗い空の天候が変わったように雨が降り注ぐ。


「どう言う事だよ…」


「麗央!お前はあの穴へ迎え!」


「分かった」


麗央は人間とは思えないほどの跳躍力で跳び去る。


「どうして今なんだ…?いや今だからか…」


帯人は疑問を口に出す。


「そう言うことよ。麗央をここから引き離してくれて助かったわ」


「っ…!?」


突如、音も無く雫の背後に現れた人型妖魔。抵抗もできず囚われる。髪も目も服も全てが黒い妖魔。間違いなく初めて見る妖魔であった。


(こいつ!?)


(何処から!?)


蜜璃がその妖魔に触れようと手を伸ばすがその手は空を切る。

その妖魔は地面に吸い込まれる様に雫と共にこの場所から姿を消した。


「クソッ!!」


(明らかにおかしい…!!)


「止まるな魁斗!雫を助けに行くぞ!」


余計な思考を巡らせようとする魁斗。今考えても仕方がない事、蜜璃は言葉で促し魁斗を動かす。


「いや、雫は一時見捨てる」


帯人の一言に魁斗は怒りを見せる。


「どう言う事、おじさん?雫を見捨てるって…?」


詰め寄る魁斗に帯人は答える。


「新手の妖魔は雫を連れ去った。その妖魔の行き先がわからない事、そして大穴から溢れ出た妖魔が街で暴れている。早々に対処に当たらなければ被害が大きくなる」


「っ…」ギリッ


強く噛んだ奥歯は音を立てて軋む。


「言っただろ、一時だ。絶対に助ける。全員、今は自分の為すべき事を為せ」


「「「了解」」」




突如現れた大穴から数km先に居た鴎外。住民の避難を優先させながら襲いくる下位の妖魔を叩きのめしていた。


(一体一体はさほど強力な個体では無い。だが…)


「鴎外様、付近の住民の避難完了しました」


「ご苦労、ここからはー」


ドンッ…


鈍い音と共に空から地上へ何か(・・)が着地した。その異様な気配に鴎外は構える。


「キッヒヒヒヒ…面白そうな奴がいるな〜」


口を大きく開け笑いながらこちらへ歩み寄る者。間違いなく先ほど倒していた妖魔よりも上位、更に上位の個体であった。


耳に錠前型のイヤリングを付け、ギザっ歯の奥の舌には6の数字が刻まれていた。


(“数字持ち”…)


「俺の名前は掟綻(ていたん)。6の数字を身体に刻んだ“数字持ち”の妖魔だぁ」


「鴎外様!お逃げください!ここは私が!!」


「あ゛?お前みたいな雑魚が俺の相手になるわけねぇだろ。お前らの相手はこいつらだよ」


掟綻が指を鳴らすとそれを合図に下位の妖魔が一斉に従者を取り囲み鴎外と引き離す。


「さて、暫くは邪魔入らねぇだろ。殺ろうぜおっさん?」


「お前と軽口を叩きたくは無いが…おっさんじゃねぇ!!」


左の手のひらに右手で円を書く。書いた円は自身が封じた力を解除する。

2者の激戦が幕を開けた。



静恵、魁斗は街に出て、人命救助。蜜璃、凪は災害避難施設、病院などに運ばれてくるであろう怪我人などの対応に赴く。


屋敷に1人残った帯人は思考する。異能が使えない今、彼が唯一できる事は頭で考える事。

ホワイトボードに自分の知り得る様々な情報を書き出し見つめる事数分、彼の脳がある一筋の答えを導き出す。


「クソッ…なるほどな…!」


足早に玄関へと向かう。


「あら、帯人さんどうなさったんですか?」


玄関口で急いで外に出ようとする帯人を琥珀は引き止める。


「琥珀さん少し出てきます」


「帯人さん…必ず帰ってきてください。ご馳走様作って待ってますから」


「…」ニコッ


何も言わずに出ていく彼の背を琥珀はただ眺める事しかできなかった。


(貴方は私たち家族の恩人なんです…だから)


「どうか…」


琥珀の口から漏れ出た心の声は開け放たれた窓から入る嫌な風に掻き消される。



「そう言えばよ〜おっさんの異能は“封印”なんだろ〜?その封印っつうのはよぉ〜おっさんが死ぬとどうなるんだぁ〜?」


「…」ゴハッ


血を吐き倒れた鴎外の上に座る掟綻。従者も下位の妖魔の大群を相手に奮闘していたが数の力に及ばず食い殺されていた。


「どっちに転がっても楽しいだろうなぁ〜」


(すまない…みんな…帯人…俺はここまでのようだ…)


掟綻の右腕は鴎外の心臓を抉り取る。その心臓を喰らいながら1人の人間の存在に気がつく。


「お前は〜警戒戦力の帯人だったっけか〜?いや、もう警戒する必要なんて無いな!だって異能封じられたままだもんな!封じたままくたばっちまいやがったこいつにはさぞ腹が立つなぁ〜?」


鴎外の死体を言葉の端々で踏み付けながら帯人に言葉を投げる。


「その足、どけろ」


スパンッ…


歯切れの良い音、それは帯人が抜刀した音であり、掟綻の足が宙を舞った音でもあった。


「は…?」


掟綻はこの一瞬の出来事を理解できずにいた。


(こいつの異能は“絶剣”だが、今あいつは異能を封じられて…)


理解できずにいた…いや、理解しがたい現状だったのだ。


(異能無しでこの力か…!?)


「仇、復讐、そんなもんに動かされるのはもう懲り懲りだ。だがな、仲間の死体を踏み付けられちゃ黙ってられねえよ」


剣を持ちNo.6を打破れ!!

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