episode.32 魁斗vs千脚

「千脚!!」


「はは、生き残りじゃないか!!」


刃と鋭い足蹴りが交わる。それを合図に紘はワームホールを展開する。


「じゃ、俺は怪我人全員連れて行くけど静江はどうする?」


「私も行くわ、ここに居たら足手まといになりそうだし。それにこの勝負に首突っ込めるほどできた大人じゃないわ…」


「そうだな、それより君は味方ってことでいいんだよね?」


傷を再生させながら近寄る彼女、泡沫に紘は問いかける。


「私は私の考えのもと動いてるだけ、だからあなた達に味方って思われても仕方ない。だけど、私は妖魔。あなた達とは相容れない魔そのものなのよ」


「だけど泡沫、お前は俺を庇った。その、ありがとな」


麗央の声が泡沫の心に響く。それは自分が欲しかった言葉を麗央がくれたから。そして、麗央が感謝の言葉と共に受け取った満面の笑顔。傷だらけになりながらも感謝の言葉を忘れない彼に。


(ああ、この人たちはもしかしたら他の人間とはちがうのかもしれない…)


“空間転移”


麗央を泡沫、紘が支え、守人を静江が支えワームホールへと入っていく。残されたのは激戦を繰り広げている魁斗、千脚。千脚の凄まじい攻撃を魁斗は捌ききっている。


(こいつ、この前よりも強くなってる)


“百足”


「一心流」


“舞桜”


百を超える蹴りを刀で薙ぐ。攻防が終わると千脚の足から血飛沫が上がる。


「へぇ~やっぱり強くなってる、食べごろって所か」


「一つ聞きたい」


冷静になって考えているつもりでも冷静になれていないなんてことはよくある。

魁斗は自身の千脚に向けている憎悪、怒り、それを少しでも鎮めるため、気になっていたことを聞く。それは幼い時から疑問に思っていたことだ。でも、気にしないように考えないようにしていたこと。


「なんで、父さんと母さんを殺した?なんで父さんと母さんだったんだ!なんで!!」


冷静になるつもりだった。だが、長年追い求めていた両親の仇を前に冷静ではいられなかった。


「なんでってそりゃ、俺たちは妖魔だぞ?人間を食べて己が力にするため。襲われた人間はただ運が悪かったとしか言いようがない。が、お前の両親は別だ。俺が殺したくて殺した」


「そうか、それが聞けて安心した。もう迷わない。お前を殺すことに何の躊躇いも、無い!」


“才能開花・死レ人迷開狂”


「才能開花ね、んじゃこっちも食らうとしますかぁ~」


“桜花”


才能開花により身体能力が上がった状態での技。先ほどと同じように受け流そうものなら両断は免れない。そもそも彼には当たらなかった(・・・・・・・)。

魁斗の刀は空を斬ったのだ。


「…!?」


「遅いよ、そんなんじゃ俺には追い付けない」


「それはどうかな」


千脚は魁斗の後ろへと回り込んでいた。鋭い蹴りを叩き込もうと大きく振りかぶるが、魁斗は見えていたように刀で受け止める。


「へぇ~君見えてるんだ」


魁斗は動体視力、それに反応できるほどの身体能力を才能開花により手に入れている。


(あくまで見えてるだけ、さっきのは反応できたけどこれ以上スピード上げられると…)


思考に陥りそうになる頭を横に振る。余計なことは考えない。ただ魁斗は目の前の怨敵を倒すことのみを考える。


“鉄脚”


千脚の足が瞬時に銀の輝きを放つ。


刀でもろに受ければ砕ける可能性があった。魁斗が出した結論は、体で防御すること。

千脚の繰り出した足技、それを受けたのは魁斗の左腕。受けた腕はまるで紙を鋏で切るかの如く、簡単に、当然のように地に落ちる。


「ッ…」


痛みはある。がそれもほとんど感じなくなってきている。


「案外冷静だね、君って薄情なのかな?仲間の心配はいいの?」


「今他の人のことを心配するほどの余裕はないんでね!」


“日和”


“扇脚”


魁斗の斬撃を千脚は打ち返す。いや、倍以上の力で跳ね返した(・・・・・)。


「ぐっ…」


「少しは驚いた?“扇脚”は相手の攻撃を力に変え跳ね返す技。いくら決定力があってもこの技を攻略しないと君に勝機は無いよ?」


才能開花で傷は瞬時に回復する。が、千脚に攻撃が当たらない。その答えは至ってシンプルであった。


(あいつ、速過ぎる…)


千脚はその名が示す通り、千の足を持つかの如く速い。打点のある攻撃も、瞬間的な防御も速い千脚の前では無に等しかった。


『このままじゃジリ貧だぞ?』


(わかってる)


『仕方ねえ、俺があいつの足を止めてやる』


(できるのか?)


『俺を誰だと思ってんだよ。任せろ、俺はお前でもあるんだ』(ボソッ)


最後の一文だけ聞こえなかったが、彼が任せろと言った。なら、俺はそれを信じ従うまで。


「来いよ、半分だけ外に出てやる」


(雰囲気が変わった?いや、変わったのは雰囲気だけじゃない…)


千脚が驚くのも無理はない。魁斗の体の半分、左目は黄色く、左半身はオルタ、右半身は魁斗が主導権を握ている状態。一つの体に二つの魂が混在する魁斗だからできる芸当である。


「ここからは、俺も参戦させてもらうぜ?」


「楽しくなりそうじゃん」


怨敵戦闘激化!!二人で立ち向かえ。

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