episode.13 魁斗vs兜

紘が音波との戦闘に入った同時刻。


(紘さんが戦闘を始めた…?)


(音波め…粋な計らいをしてくれる。一対一(さし)での勝負こそ、優位意義なり…)


相変わらずの力強さに紘は受け流すので精一杯であった。


「おら!どうしたッ!どうしたッ!」


「クッ…」


(一撃一撃が重い、だけどー)


受け流した刀を逆手に持ち切り上げる。


「ぬッ」


当然、兜にガードされる。ガードされた反動を使い刀の先端で突く。2連撃。


「麗央さんと対峙した時の圧迫感に比べればお前はまだ下だ!」


「言うではないか!まだ回るその口!回らなくさせてくれる!」


先よりも重い一撃。だが、その分力が必要。スピードは必然的に落ちる。避け、去なし、隙を突き、一撃を入れる。が


(硬いな。外骨格が鎧なだけある)


兜の外骨格は日本式の鎧のような形状をしている。それは元になった人間の精神から力を得た為である。

鎧が元ならば、その弱点も同じはず。


(鎧の隙間にある肉質の柔らかい箇所を狙う)


一心流・咲華+一心流・乱花(らんか)


魁斗は兜の大振りの隙をつき、技の2連撃。それは脇の下、腕の関節部に命中し、腕が落ちる。


「ぐぁ!?」


「スゥーッ…」


瞬きの間に息を整え追撃する。


「一心流」


居合・嘆き


兜の体制が直る前に、刀を納め、抜刀。刹那。月に照らされた刀は白く輝き兜のまだ残る片腕を落とす。


「はっははは。ここまで追い詰められるのは数十年ぶりだな!数字がまだ刻まれて無かった時以来だ!」


(生捕りが望ましいけど、数字持ちにそうも言ってられない!畳み掛ける)


刀を納め、首を刎ねる為姿勢を低く構える。


「一心流」


居合・寂寥


(前回、首を刎ねたのに散りにならなかったから細かく刻んだけど…)


刎ねた首はバラバラとなり地に落ちる。だが、まだ散りにならない。それは相手がまだ存命だと言う証。


「まだ生きてるのか!?」


「不正解だ、小僧」


“限定解放・大具足稀血鬼(おおぐそくまれちお)”


先程、もう感じられないほど弱まった気配が技の発動と同時に信じられないほど高まった。


「これは…」


“限定解放”。数字持ちが使う事は勿論、力の付けた妖魔が扱う、異能の最終段階。言わば奥の手であり奥義。


兜が使用した“大具足稀血鬼”、この技の発動条件は一度死ぬ事。そして先の戦いでその条件は満たされた。


後が無い兜の最終奥義、それは自身を守る外骨格である鎧を脱ぎ捨てる事。それが兜の真の姿。

現れたNo.1の妖魔を直視し、冷汗が頬を流れる。


身体の大きさはそのまま、鎧が剥がれ皮膚が露わになるがその皮膚は赤黒く、その顔に目はなく大きな2本のツノを持つ鬼。そこに立っているのは比喩ではなく鬼神が如き妖魔の姿だった。


「ふぅ〜。これで思う存分壊せる(やれる)な」


言葉に反応し構える。相手の一挙一動に精神を研ぎ澄ませる。


バタ、ビチャン…ゴロゴロ…


「は…ぁ…く…!?」


(見えなかった…けど…)


兜は大振りの横薙ぎをする。本来の姿の兜の攻撃ならば目で追え、対処もできただろう。


(さっきと比べ物にならないくらい速い…)


辛うじて左腕は繋がっているが内側の筋肉は切れており使い物にならず、右腕は地面を転がっている。


(あいつは動いてないぞ…あの距離からどうや…って…)


思い込みとは勝負の世界では死に直結するほど重要なもの。相手に思い込ませる。それは勝利に繋がる重要な糸。


兜の限定開放は武器の交換ができ、その武器はどれも大きさを自由に変える事ができる。


兜の持つ刀による横薙ぎは魁斗の右腕に命中し、今間数秒、少しだけ反射できた魁斗は左腕を庇う事ができた。


(これは…)


「お前の異能は致命傷じゃなきゃ治せないんだろ?なら一度殺してやる。戻ってきたら続きをやろうぜ?」


“鬼弓(ききゅう)・咄呀(とつが)”


武器を太刀から弓に変え、引き穿つ。魁斗の胸部には大きな風穴が開き、血を吐きながら倒れる。


暗く視界が歪み意識が落ちる。



「まあ、持ってけよ。まだ俺は出ない。せいぜい用心する事だ。俺が貸す“力”は安くないぞ」


それは真理。

誰も居ない真っ暗な空間で黒いシルエットの人物に一方的に話をされる。

魁斗は死ぬ度にここへと迷い込む。




視界が晴れる。


(倒れていた?あ、死んだんだ。何分気絶していた?)


辺りを確認し、時間が余り経っていないことに気づく。そして、正面で鎮座している兜に向き直る。


「何でだ?」


「それは何で追い討ちをかけなかったか、か?言っただろう、戻ってきたら続きをやろうってな」


「違う、お前たち妖魔は自分の私利私欲の為に人を食い、殺すだろ。ならなぜ俺を食わない!?」


疑問だった。でも答えは見えている。ただの答え合わせだ。


「お前も分かってるだろ?ってか答え言ってるじゃねぇか。私利私欲の為に殺す。俺は渇いてんだ。この前の戦いで少しだけその渇きが潤うように感じた。だから俺はお前と戦う」


「そうか…」


「さてと、んじゃまあさっきの続きと行こうぜ!」


「俺はさっきまでの俺とは違う」


“才能開花・死レ人迷開狂(しれびとめいかいきょう)”


限定解放、才能開花、奥義対奥義。結末や如何に!?

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